最近30日間のアクセス数トップ3記事

2018年1月26日金曜日

slippery slope

昨日取り上げた、中国で世界で初めて2匹のクローン猿が誕生したというニュースですが、引用した記事にもう1つ興味深い表現がありましたので取り上げます。

「世界初」と書きましたが、記事によるとサルのクローンは厳密に言うと世界初ではないそうです。

1996年の羊のドリーが誕生して3年後の1999年に、サルのクローン作製は行われていました。

しかし、今回の2匹のサルのクローン作製については、約20年前の技術とは次元が異なるということです。記事によれば、当時の技術というのは、受精後の胚を分割したもので、「双子」が生まれるプロセスに例えられるそうですが、今回は受精前の卵を操作することによってクローン作製に成功したということです。

というわけで、ますます倫理上の議論を呼ぶことになるという見方が強いのですが、記事では以下のようなくだりがあります。


The birth of these clones also brings up ethical issues. Humans are in the primate family. With this birth, these scientists have broken a barrier and that means the technique could, in theory, be applied to humans. The authors of the paper say they have no intention of trying and they believe their results should spark a wider discussion about the laws and regulations the world needs to regulate cloning.

Darren Griffin, a professor of genetics at the University of Kent, said "careful consideration now needs to be given to the ethical framework under which such experiments can, and should, operate." He noted, critics will evoke, "the slippery slope argument of this being one step closer to human cloning." However, Griffin said he thinks the benefits of this approach are clear and "cautious optimism is my personal response to this study. The study itself is very impressive technically."
(Jen Christensen. Monkey see, monkey 2: Scientists clone monkeys using technique that created Dolly the sheep. CNN. January 24, 2018.)


最も懸念されているのは、霊長類のサルを使ったクローン技術が進歩することで、同じ霊長類であるヒトへのクローン技術の適用が現実のものになるのではないか、ということでしょう。

今回の実験に携わった科学者はそのような意図、つまりヒトを使った実験を行う予定はないと否定しているようですが、越えてはならない一線を越えてしまった、という見方もあります。

引用部分の後段、


slippery slope argument (of this being step close to human cloning)


という部分は、まさしく「ヒトへのクローン技術適用にまた一歩近づいた」ということの懸念を表現していますが、この"slippery slope argument"という表現に着目してみましょう。

"slippery slope"は、Merriam-Websterによりますと、


a course of action that seems to lead inevitably from one action or result to another with unintended consequences


と定義されています。

ちょっと分かりにくい定義ですが、要は、あるアクションを取ったことによって、元々は意図していなかった結果が必然的に生じてしまう、ということです。

記事のコンテクストにおいて考えてみると、(中国の技術者はヒトへの適用など意図していないといっているけれども)サルのクローン作製に成功することで、その意図していなかったヒトへのクローン技術の適用が現実のものになってしまう、ということになるかと思います。

"slippery slope"とは字義通りに解釈すれば、「滑りやすい坂道」であり、そのような坂道では一度躓いてしまえば、坂の下方へ転がり落ちてしまうことが明らかと言えます。

つまり、転落への道、破滅へ至る道(ランダムハウス英和辞書)、という訳です。


0 件のコメント:

コメントを投稿