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2012年11月16日金曜日

"compromise"という単語について考える ― compromise

今日は"compromise"という単語について少し考えてみたいと思います。

"compromise"という単語は、妥協(する)、譲歩(する)という意味で使われますが、ここで考えたいのはいわゆるコンピュータセキュリティのコンテクストで用いられる"compromise"の用法です。

きっかけは以下の記事での"compromise"の用法でした。


Personally identifiable information of "at least" 10,000 NASA employees and contractors remains at risk of compromise following last month's theft of an agency laptop, a spokesman told Computerworld via email Thursday.
(Jaikumar Vijayan. NASA breach update: Stolen laptop had data on 10,000 users. Computer World. November 15, 2012.)


NASA職員のラップトップPCが盗まれたというニュース記事ですが、盗まれたPCには1万人以上の職員に関する個人情報が保存されていたということです。

ここで、


Personal identifiable information... at risk of compromise


という部分に注目します。

私はこの部分を最初目にした時、おや、という気がしました。コンテクストから言わんとしていることは分かるのですが、"risk of compromise"という表現が奇異に思えたからです。

私の頭の中では、"compromise"とは"risk"とほぼ同義だったので、"risk of compromise"とは即ち、"risk of risk"となってしまい、奇異な感じがしたのです。

そこでランダムハウス英和で"compromise"を引いてみます。名詞のエントリには、


(名誉・評判・信用などを)危うくすること、危険(疑い)などにさらすこと


とあります。"risk"とほぼ同義ではないでしょうか?

考えてみれば、"compromise"という表現は昨今のセキュリティ関連の話題で必ずといっていいほど使われる表現ですが、どちらかと言えば名詞よりも動詞の方が多いような気がします。

例えば、以下のような例文に見られます。


Experts say that many companies only disclose break-ins when they are required to do so by government regulations that say they must tell customers whose data was compromised.
(Jim Finkle. What's so special about Sony's massive data breach? Reuters. April 29, 2011.)


ここで思うのですが、そもそも"compromise"が具体的に何を意味しているのか曖昧ではないだろうか、ということです。

辞書に見る"compromise"はリスクの概念に留まると思われるのですが、昨今のセキュリティ関連のニュースで用いられる"compromise"にはもっと具体的な意味、つまり不正利用、暴露、犯罪目的の利用、などが含意されているように思われます。

冒頭に引用した、"at risk of compromise"も、"compromise"の内容がその具体的な事象(つまり、情報の奪取、あるいは不正利用など)を指すものであれば表現としておかしくないと思われます。

"compromise"の用法をネットで色々調べていると、私と同じような疑問に端を発する議論も見つかり、今日の記事のきっかけともなりました。例えば、このサイトでは、"compromise"の用法として、名詞と動詞とが比較されています。

また、権威ある辞書をいくつか参照してみても、"compromise"の定義に微妙な差が認められます。

Merriam Websterでは、


to reveal or expose to an unauthorized person and especially to an enemy


という定義(と<>内は例文)が見られます。このような定義はAmerican Heritage Dictionaryや英和辞典に見られず、昨今のセキュリティ関連のコンテクストでの用法を他に先駆けて取り入れたものではないかと思われます。

昨今のセキュリティ関係の話題における"compromise"の用法は意味が拡大してきており、辞書の定義の範囲から少しずつはみ出してきているような気がします。言葉は生き物と言いますが、これらの具体的な意味が辞書のエントリになるのもそう遠くはないのかもしれません。


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