昨日に引き続き、フィッツジェラルドについての記事からの引用です。
Fitzgerald was already mining his troubled marriage for material for the masterpiece that would expose the hollowness at the heart of the American dream. But for the time being, at least, Fitzgerald would have to keep
cranking out mediocre short stories to pay for their lifestyle.
(Sean Smith. A man divided: F Scott Fitzgerald and the birth of Gatsby. The Independent. October 15, 2021.)
フィッツジェラルドが残した多くの短編小説には珠玉の名品とされる作品も多くありますが、生活費としての原稿料を稼ぐべく書いた、どちらかと言えば凡庸とされる作品も少なからずあったようです。(評論等でも、どの作品がそうである、とは明確に言われていませんが。)
引用部分はそうした側面について触れている訳ですが、
crank out
という表現を今日は取り上げました。
「クランク」(crank)と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。
多くの人は具体的なイメージが無いのではないかと思います。自動車の内燃機関(エンジン)の部品であるクランクなどを思い浮かべるものの、具体的にどういうものなのか、説明できる人は技術者などに限られるのではないかと。
American Heritage Dictionaryによる"crank"の定義は、
A device for transmitting rotary motion, consisting of a handle or arm attached at right angles to a shaft.
というものです。
これは単純に言うと、手回し("a handle or arm")によって回転運動を起こすための機構である、と解釈することができます。
そして、動詞としての定義ですが、
To start or operate (an engine, for example) by or as if by turning a handle.
とあり、ハンドルを回して始動、もしくは稼働させること、とあります。
このようなクランクの部品としての役割の意味が発展して、"crank out"について、
To produce, especially mechanically and rapidly
という意味で用いられるようになったものです。
つまり、あたかもハンドルを回して次々と生み出すが如く、ということです。
コーパスにいくつか用例を求めてみました。枚挙に暇はありませんが、イメージしやすいものを引用します。
On a visit earlier this year, I was delighted by a sidewalk organ grinder who was cranking out the favorite waltz tunes from Vienna's very musical heritage.
(Washington Post, 1990)
Most impressive, though, is that 10 years ago Williams had a bad fall that gave him a concussion and took away his sense of smell and taste. Yet he still can crank out the chicken and dumplings (and many other dishes) to please.
(Atlanta Journal Constituion, 2000)
ちなみに、映画の世界では撮影を開始することを「クランク・イン」、全ての撮影を完了することを「クランク・アップ」と言いますが、これは和製英語的な表現だそうです。
しかしながら、映画におけるこれらの「クランク」の表現は撮影機材のクランク(かつてのカメラは手回しだったそうです)を指しており、英語表現としても通じそうです。
撮影機材のクランクも実際に目にしたことはありませんが、カタカナの「クランク」、英語の"crank"は何かと身近に使われているものですね。