6月末の討論会で醜態を晒し、身内からも大統領選からの撤退の声が上がっているバイデン大統領ですが、ワシントンD.C.で開催されたNATO首脳会議後、バイデン氏単独の記者会見が行われました。
メディア各社、この記者会見のことを、
big boy press conference
と表現しています。
What the media are calling Biden's "big boy press conference" Thursday evening is setting up high expectations for his Democratic base. It comes as at least nine elected Democrat lawmakers have called on Biden to drop out of the race and 23 Democrats, including former Speaker Nancy Pelosi, have hinted that his doing so could be in the best interests of defeating Donald Trump in November.
(Jamie Joseph. Flashback: The last time Biden had a solo 'big boy press conference' was eight months ago. Fox News. July 11, 2024.)
この投稿を書いている現在、記者会見は既に終了していますが、上記に引用したのはその前に配信されたFox Newsの記事です。
記事の流れは概ね以下のような内容です。
バイデン大統領が単独(solo)での会見を行うは8か月ぶりであり、41か月に渡る大統領在任期間においても、会見を単独で行うことはほとんどなかった、また多くの会見では事前質問に答える形式の内容であり、つまりお膳立てされた会見がほとんどであった。
バイデン氏がこの度単独会見に臨んだのは、大統領職務を果たし得ないのではないかとの懸念を払拭するためです。
バイデン氏はあくまでも大統領選を戦い抜くと主張していますが、撤退すべきだとの意見表明は増える一方と報じられています。これまで避けてきた単独会見を敢えて今行うということは、伸るか反るか(make-or-break)の賭けとも見られています。
このような状況の中、記者会見が"big boy press conference"と表現されているのですが、果たしてその心は?
英和辞書を引くと、大人という意味がありますが、他にも、大物、お偉方、といった日本語が見られます。
文字通りには、大きな(成長した)少年、つまり独り立ちした、周りの支援が無くとも判断が出来る、というような意味合いがあると考えられます。
Oxford Dictionary(オンライン版)の定義では以下のようにあります。
A boy who is relatively old or mature; (also) a boy who is old enough to look after himself or to cope with adult experiences (also (colloquial) used ironically, of a man).
(Oxford Dictionary)
"ironically"と補足されていますね。「お偉方」といった日本語表現もそうですが、こうした表現は得てして皮肉を込めて用いられるものです。
Fox Newsの記事を読んだ際も、バイデン氏が言い間違いやメディアの揚げ足取りを嫌ってこれまで避けてきた単独の記者会見を、自身に対する懸念の払拭のためにいよいよ行うことになったというコンテクストにおいて、"big boy"と半ば揶揄しているものと解釈しました。
つまり、お膳立てされ、取り巻きが配慮して事前質問で固められたこれまでの会見ではなく、独力で対応する、ということです。大統領は周りの支援が無くとも立派に対応出来るんだ、もう4年、まだまだ大丈夫・・・!?
Fox Newsの記事の論調はそういうところかと思いました。
ところが、この"big boy press conference"なる表現は実のところホワイトハウスが使っているという表現だということなのです。
White House press secretary Karine Jean-Pierre has repeatedly referred to the event as a “big boy” press conference where many reporters will be called upon — with the phrase irking some fellow West Wing staffers, who view it as infantilizing the commander-in-chief.
(Steven Nelson. Biden’s high-stakes ‘big boy’ press conference delayed — so it might miss evening news broadcasts. New York Post. July 11, 2024.)
上記の引用にあるようにホワイトハウス報道官自らが今回の記者会見を"big boy"と形容しています。
そうしますとこの表現は皮肉のニュアンスが込められたものなどではなく、文字通りに「大物」といった意味で使われているとも考えられます。しかし、大統領は敢えて表現するまでもなく「大物」であり、また敢えて「大人」扱いするというのも失礼な話です。現に上記引用記事ではこの表現が、"infantilizing the commander-in-chief"、つまり大統領を子ども扱いしているようだと、スタッフを困惑させているとあります。
残念ながら"big boy"記者会見では、バイデン氏はカマラ・ハリス副大統領を「トランプ大統領」と言い間違えるなど、懸念を払拭するどころか、関係者を一層困惑させるようなさんざんな内容だったということです。