実業家のイーロン・マスク氏が事実上率いているとされる政府効率化省(DOGE)は第2次トランプ政権の目玉ですが、国際援助を管掌するUSAIDの解体、政府職員の大量解雇といった、過激にも思われる施策を次々と実行しています。
選挙によって選ばれた訳でもない実業家の振るう大ナタには、当然のことながら多くの反発や批判があるのはご存知の通りです。しかしながら、トランプ大統領は先日の施政方針演説においてマスク氏を称え、反発する職員は即座に解雇されるだろうとまで言いました。
以下の引用記事は少し前のものですが、マスク氏擁護派の上院議員の言です。
A MAGA senator said he liked “omelets better than sex” when coming to Elon Musk’s defense for shutting down the U.S. Agency for International Development (USAID).
Louisiana Senator John Kennedy had a bizarre rant on Fox News when he compared the breakfast food to Musk putting USAID on the chopping block. “I like omelets better than sex. Not really, but you get the point,” Kennedy said on Fox News. “You can’t make an omelet without breaking some eggs.”
(Amethyst Martinez. MAGA Senator Goes on Weird Rant About Sex and Omelets. The Daily Beast. February 5, 2025.)
「セッ◯スよりもオムレツの方が好き」という発言は訳が分かりませんね!?
この議員はオムレツ(omelets)なら毎日食べても飽きないとも言ったそうですが、これらの発言がなぜマスク氏擁護になるのでしょうか。
答えは引用部分の最後に出てくる、
You can’t make an omelet without breaking some eggs.
にあります。
この卵を割らないことにはオムレツは作れない、というこのフレーズは、
目的を達するためにはそれなりの努力(犠牲)を払わなければならない、「播かぬ種は生えぬ」
(研究社新英和大辞典)
ということわざです。
つまり、マスク氏のやっている大規模なリストラは米国の成長(MAGAの達成)に必要な犠牲である、ということなのでしょう。
議員の発言はこのことわざを念頭にしたものであり、「オムレツ」(omelets)とは痛みを伴う改革を象徴しているのだという主張のようですが、なかなか意味深な発言、コトバです。
オムレツついでに、英単語"omelet"(また、omelette)の語源について。
"omelet"という単語はフランス語から来ていますが、遡るとラテン語laminaであり、その意味は薄い板というものです。
ふっくら、ふんわり、トロリのオムレツをイメージすると少し違うように思われるかもしれませんが、「オムレツ」という名称は、それがフライパンの上で溶き卵が薄焼きにされて供され、薄板のようだから付いたのです。
でも、ラテン語laminaと英単語"omelet"のスペルは随分と違っていますね?
ラテン語laminaはlamellaという指小辞形があるのですが、これがフランス語ではalemelleとなります。ここがポイントで、"alemelle"というスペルは定冠詞の付いたla lemelleが誤って"l’alemelle"と解釈されたために生じたスペルなのです。つまり、言語学において異分析と呼ばれるものです。
フランスにおいて、alemelleはalumelleへと変化し、さらにalumette、そして音位転換と呼ばれる影響を経て古フランス語ではamletteとなり、最終的にはomeletteとなりました。
ちなみに英語のことわざになっている上記のフレーズのオリジナルはフランス語らしく、辞書には、
On ne fait pas d’omelette sans casser des œufs.
と添えられています。
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