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2026年1月21日水曜日

The iron enters the soul.

グリーンランド領有に意欲を燃やすトランプ氏。それを諌めようと結束するEU各国。

フランスのマクロン大統領やEUのフォン・デア・ライエン委員長らの説得にも関わらず、トランプ氏はグリーンランド領有は米国にとって死活的問題だとしてあらゆる手段の行使を否定していません。

さらには、反対する西側諸国に10%の追加関税を課すと述べ、これに対してはEU各国も報復関税を発動すると、大変な混乱になっています。

マクロン大統領はトランプ氏にプライベートメッセージを送り、トランプ氏が出席を予定しているダボス会議の後にG7首脳会議を行うことを提案しました。あろうことか、トランプ氏はこのプライベートメッセージの全文をSNSで公開。トランプ氏の常軌を逸した、予測不能な行動の典型とも言われています。

ガーディアン紙の記事から引用です。


Indeed, Trump’s whole career is built around transgressing norms and avoiding the consequences. Aged 80, diplomatic niceties are the least of his constraints.

There are risks in this. Iron is entering the soul of his one-time allies, infuriated by the discourtesy and sometimes the humiliation of needing to turn their cheek once again. Leaders at some point need to show to their electorates, and themselves, that they can preserve their dignity and self-respect.
(Patrick Wintour. Trump airing Macron’s private message was designed to hurt and intimidate. The Guardian. January 20, 2026.)


オピニオン記事の一部分なので少しコンテクストが掴みにくいかも知れません。要旨としてはトランプ氏のはちゃめちゃな言動が世界を混乱させ、同盟国リーダーの大変な心痛になっている、というものです。

取り上げたいのは、


Iron is entering the soul of his one-time allies…


というくだりです。

文字通りには、鉄(iron)が魂(soul)の中に入る、となりますが、知らないと意味不明な表現ではないかと思います。私自身、この表現を知りませんでした。

この表現は聖書に因むもので、


(囚われの身で[虐待されて])非常な苦悩を味わった
(研究社新英和大辞典)


という意味だとあります。

"iron"には拘束具の意味がありますが、それが魂に入るとは?表現としてやはり腑に落ちませんね。

実のところ、この英文表現は、聖書の原文であるヘブライ語をラテン語に翻訳した際の誤訳が元になっているという解説が添えられています。

旧約聖書詩篇(105:18)の該当箇所は、奴隷として売られたヨセフの首に「鉄の枷をはめる」(新共同訳)、というものです。ヘブライ語の知識はありませんので原文がどうなっているのかについては分かりませんが、"soul"とはヨセフを、"iron"とは枷を指すと考えられます。誤訳とされるラテン語訳(ウルガタ訳)は、


ferrum pertransiit animam ejus


となっています。ラテン語ferrumは英語で"iron"を意味する名詞の主格、ラテン語animamは英語で"soul"の相当する名詞の目的格であり、これが"The iron enters the soul."というフレーズの元になっているということになります。

聖書の英訳にもいくつかの版がありますが、


he was laid in iron
(King James Version)


としているもの、誤訳されたラテン語訳を逐語訳したと思われる、


the iron pierced his soul
(Douay Rheims Bible、他)


があり、後者がこの慣用表現の元となっているようです。

枷を嵌められて拘束されることは苦痛に違いなく、"The iron enters into the soul."が非常な苦悩を味わせるという意味になるのも分からなくは無いのですが、誤訳から生じたフレーズというのはユニークではないでしょうか。



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