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2025年10月31日金曜日

food loss and waste

昨日10月30日は「食品ロス削減の日」だったそうです。

SNSなどを見ていますと、政府広報を始め、自治体などが食品ロスの削減を呼び掛ける投稿が目につきました。

まだ食べられるものを捨ててしまう、過剰な在庫を腐らせてしまって結局廃棄になる、等、「食品ロス」は消費者である個人が意識することで減らせる、というのは分かっていてもなかなか実現できていないもの、かもしれません。

さて、「食品ロス」の英訳は"food loss"とは敢えて取り上げることもないような話と思いましたが、ことはそう単純ではなさそうです。

「食品ロス」の取り組みは日本に限らず、取り組みの内容の差こそあれ、世界各国で行われており、国連のウェブサイトにも特設ページが見られます。

そのページ内には「食品ロス」に関する知識クイズのコーナーがあるのですが、その質問の中に以下のようなものがあります。


Is there a difference between food loss and food waste?

You’re right! Food loss happens when food gets lost or spoiled before it reaches the store, like on the farm or in a factory. Food waste happens when good food gets thrown away at the store, at a restaurant or at home.
(The Food Loss and Waste Challenge - 国連のウェブサイトから)


一般に「食品ロス」と呼ばれる概念は、英語では"food loss and waste"となり、"food loss"と"food waste"は異なる概念なんですね。

日本での「食品ロス」はこの辺りをあまり厳密には区別していないようです。


食べ残し、売れ残りや期限が近いなど様々な理由で、食べられる食品が捨てられてしまう「食品ロス」。 日本の食品ロス量は、約600 万トンです。
(消費者庁)


国連のクイズの解答説明によれば、"food loss"とは食品が消費者に届く前に廃棄などされてしまうことを指し、"food waste"はレストランやスーパーマーケット、また購入後に家庭において食材や食品が廃棄されてしまうことを指すのだそうです。

我々が「食品ロス」、「フードロス」と呼んでいるのは、英語では"food waste"に当たる、と考えられますね。


2025年10月30日木曜日

cute

ご存知のようにトランプ政権は2期目ですが、3期目を画策しているという話はかねてよりありました。しかしながら、合衆国憲法では大統領任期は2期8年間が最長と定めており、3期目は不可能です。

当のトランプ氏もこの点は認識しているようですが、3期目への意欲はあるようで、この話題を時々持ち出してちらつかせることに余念が無いようです。

2028年の次期大統領選について、トランプ氏の発言が引用されている部分です。


On Monday, Trump said he would "love to do it" when asked about a potential 2028 bid. He also appeared to rule out the prospect of running on the 2028 Republican ticket as vice president, though said he would be "allowed to do that."

"I guess I think it's too cute," referring to a scenario under which the person elected president would step aside so he could take over. "Yeah, I would rule that out because it's too cute. I think the people wouldn't like that. It's too cute. It's not -- it wouldn't be right."
(Trump says 'it's pretty clear' he can't run for 3rd term. ABC News. October 30, 2025.)


2028年に大統領候補として出馬することは無理だとしても、副大統領候補としてならば!?

この抜け穴は今年の4月にも取り沙汰された話ですが、トランプ氏自身が、


it's too cute


と言っています。

"cute"(キュート)は、可愛らしいという意味だとは言うまでもないですが、ここではそうではありません。

American Heritage Dictionaryの定義に、


Clever or witty, especially in an impertinent or evasive way, as in falsely suggesting that one is ignorant about the matter at hand.


とあり、これはずる賢い、小賢しい、といった、ネガティヴな意味となります。

以前取り上げましたように、"cute"という単語は"acute"の頭音消失形で、"cute"がカタカナの「キュート」、つまり可愛らしいという意味を持つはるか以前から、上述したような、狡猾さを意味する言葉でした。

トランプ氏は、次期大統領選で副大統領候補として出馬した後に再び大統領に返り咲くという抜け穴的シナリオを"cute"である、すなわちずる賢いやり方だ、と否定してみた訳ですが、果たして!?




2025年10月29日水曜日

break a sweat

英語の表現で、


break a sweat


というものがあります。汗をかく、という意味です。


Harrison Ford was spotted breaking a sweat while riding his Cannondale bike up the coastline of Los Angeles on Monday – something he prefers much more than riding the many Disney attractions based on his iconic roles.
(Connor Surmonte. Harrison Ford, 83, breaks a sweat riding bike along LA’s coastline. New York Post. October 28, 2025.)


不勉強を恥じますが、この表現を見たことがありませんでした。何故、"break"なのか?汗(sweat)と動詞breakの組み合わせは奇異に感じられます。

ところが、動詞breakの意味(沢山の意味がありますが)をつぶさに見ていくと、最後の方に、ちゃんと汗をかくという意味が載っているのです。


To produce (a sweat) copiously on the skin, as from exercise.
(American Heritage Dictionary)


to produce visibly
(Merriam-Webster Dictionary)


ちなみに、手元にある研究社新英和大辞典やランダムハウス英和辞書にはこうした意味は載っておらず、"break a sweat"というフレーズも見当たりませんでした。

関連表現として、以前取り上げた"sweat like a pig"もどうぞ。


2025年10月28日火曜日

presumption of innocence

アメリカの保守政治活動家のチャーリー・カーク氏がユタ州で演説中に銃で撃たれて暗殺された事件で、逮捕された容疑者の公判が始まるようです。

容疑者は出廷に際して、平服を着用することを要望し認められた、と報じられています。通常であれば、自殺を防止するジャケット、手錠や足枷などの拘束具が装着されるところ、拘束は最小限に留められ、また写真やビデオ撮影も禁じられるという、異例の対応です。


The man accused of killing right-wing activist Charlie Kirk will be allowed to wear civilian clothes during pre-trial hearings to avoid prejudicing potential jurors, a Utah judge has said.

Judge Tony Graf said Tyler Robinson will be required to wear restraints during hearings, but photo or video of him in restraints will be barred.

(中略)

During a Monday court hearing, Judge Graf acknowledged massive interest in the case and urged that Robinson's "presumption of innocence remains".

"Balancing these factors, the court finds that Mr Robinson's right to the presumption of innocence outweighs the minimal inconvenience of permitting civilian attire," Judge Graf said, according to a local Fox News affiliate.
(Brandon Drenon. Charlie Kirk murder suspect can wear civilian clothes in court, judge says. October 27, 2025.)


異例の対応の背景には、容疑者の権利擁護という判断がある模様です。

"presumption of innocence"という用語は「推定無罪」と訳されます。何人も有罪と裁定されるまでは無罪と推定されるという法の原則を指すもので、ユタ州判事の判断は、拘束されている容疑者のイメージは陪審員らの偏見を生むリスクがある、ということのようです。

カーク氏暗殺事件はアメリカ国内はもとより、世界中で衝撃をもたらしましたが、故に裁判の行方も注目されるところです。

ちなみにユタ州は薬物注射に代えて銃殺による死刑を執行する数少ない州のひとつで、カーク氏暗殺の容疑者も有罪となれば死刑は免れないということです。


2025年10月27日月曜日

item

「アイテム」(item)という単語から最初に思い浮かべるのは、項目とか品物・品目といった和訳でしょうか。もしくはビデオゲームの中でゲットする武器や道具の類かも知れません。

英単語の"item"には俗語の意味として、男女の関係、という意味があるそうなのですが今日まで知りませんでした。


Katy Perry is celebrating another trip around the sun with Justin Trudeau by her side.

(中略)

Neither Perry nor Trudeau has publicly commented on their rumored relationship in recent months amid speculation that they are an item. In July, Trudeau, who served as prime minister of Canada from 2015 to 2025, fueled relationship rumors after he attended a Perry concert, seemingly solo, in Montreal.
(Brendan Morrow. Katy Perry, Justin Trudeau hold hands in public outing on her birthday. USA TODAY.October 26, 2025.)


カナダのトルドー元首相と有名歌手のアメリカ人女性が恋愛関係にあるらしいという噂はかねてよりあったそうです。記事中、


speculation that they are an item


というくだりで"item"という表現が使われています。Merriam-Webster Dictionaryには、


a couple in a romantic or sexual relationship 


という定義が載っています。

"item"のこのような意味合いは、"item"が特にニュースやゴシップ記事のネタを指すのに使われることから生じたそうです。

ちなみに、こんなことでもなければ取り上げることもない単語と思われるので触れますと、"item"は紛れもなく名詞ですが、語源であるラテン語itemは副詞なんですね。

〜もまた、さらに、というような意味であり、モノをひとつずつ列挙するような場合に用いたことから、項目の意味合いになったそうです。


2025年10月24日金曜日

mafioso

NBA(全米プロバスケットボール協会)のスター選手を囮に使った違法賭博が摘発されました。現代におけるギャンブルのイカサマには最新テクノロジーが使われているそうです。

ポーカーゲームのテーブルに仕込んだX線透視の技術、カードに仕込んだ肉眼では見えないマークを判別できる特殊なコンタクトレンズなど、イカサマの手段に使われる最新テクノロジーはネットで容易く調達できるらしく、シロウトはカモにされるのがオチです。


The card-swindling technology NYC mafiosos allegedly used to cheat victims out of millions in a years-long poker scheme is readily available for sale online.

A simple Google search for “X-Ray poker table” quickly pulled up numerous companies producing devices that apparently employ the exact technology mobsters used in their sprawling con, which prosecutors unveiled in a federal indictment Thursday.
(Alex Oliveira. X-ray poker tables allegedly used by NYC mafia in NBA gambling scandal are readily available online. New York Post. October 23, 2025.)


ギャンブルの世界にヤクザはつきものですが、ヤクザの英語表現として思い起こすのは、マフィア(mafia)でしょう。(完全に同一の概念では無いとしても。)

記事では、


mafiosos


と出てくるのですが、マフィア(mafia)とは団体を指す呼称であって、その構成員のことは(mafioso)と言うのだとは、不勉強にして知りませんでした。

また、マフィア(mafia)という言葉より先に"mafioso"という言葉が先にあったようです。"mafioso"はゴロツキを意味するイタリア語シチリア方言が訛ったものらしく、マフィア(mafia)とは反抗精神や反体制感情を意味する言葉だったようです。

イタリア語ですから、"mafioso"は男性形で、女性ならば"mafiosa"、複数形は"mafiosi"となりますが、英語に取り入れられてからは複数形は"mafiosos"が普通のようです。

同じくイタリア語から借用している"virtuoso"という単語も同じような扱いです。






2025年10月23日木曜日

smug

ロシアとウクライナの停戦を仲介するトランプ大統領ですが、ハンガリーで予定していた米露首脳会談を取り止めると言い出しました。曰く、「時間の無駄」ということなのですが、停戦の条件面で譲ろうとしないロシアへの不満を滲ませたもののようです。

この事態にロシアは少し焦っているようです。


Russia scrambled on Wednesday to salvage the prospect of in-person talks between U.S. President Donald Trump and Russia’s Vladimir Putin after they were unceremoniously put on hold.

Trump said on Tuesday that he didn’t want “to have a wasted meeting” with Putin, which was set to take place in Hungary in the next few weeks, as it became clear that Russia opposes the idea of an immediate ceasefire with Ukraine.
(Holly Ellyatt. Russia was smug about Trump-Putin talks. Now they’re on hold, Moscow’s anxious. CNBC. October 22 2025.)


停戦の条件面で強気に出たものの、会談そのものがお流れになるというシナリオは想定外だったのでしょうか。

記事ではロシアに自惚れ(smugness)があったといいます。


The suspension of talks with Russia appears to be yet another U-turn from the U.S. administration, which has seesawed this year over its position on Russia, the Ukraine war and its causes, and its potential resolution.

There was more than a whiff of smugness and schadenfreude in Moscow, and Russian state media, last week when Ukrainian President Volodymyr Zelenskyy’s own in-person talks with Trump last Friday appeared to go badly.
(ibid.)


振り返ってみると、ロシアとウクライナの間に入るトランプ大統領の態度はコロコロと変わるというか、今年の始めにはウクライナのゼレンスキー大統領をどやしつけたかと思うと、逆にサポートに転じたり、またトマホークの供与を巡っては慎重さを示したりと、一定ではありません。

ロシアは米国がウクライナ寄りになれば警戒し、ウクライナを突き放せばほくそ笑むというところです。

今回はハンガリーでの米露首脳会談を前にして、ゼレンスキー大統領とトランプ氏の会談があまりうまく行かなかったところ、ロシアにとっては自国に有利になるという期待、トランプ氏はロシア寄りだという自惚れ(smugness)があったという見方のようです。

"smug"という単語はゲルマン語系の語源で、着飾るという意味のsmückenという語に由来するそうです。綺麗な服装を纏った女性が自尊心からとりすましている様子を形容するようになったそうです。

会ってくれというのならば会わんでも無い、そんな風に構えていたところ、会談は取り止めだ、と言われてしまったプーチン大統領の面目は果たして・・・!?


2025年10月22日水曜日

a lot of hay

記事の引用からお読みください。


That’s a lot of hay!

The animal rights group NYCLASS has spent millions of dollars over the past decade as part of its campaign to ban horse carriages in New York City, according to records reviewed by The Post.
(Carl Campanile. Animal rights group NYCLASS spends millions to ban horse carriages in Big Apple. October 20, 2025.)


ニューヨーク(NYC)に馬車が走っているとは知りませんでしたが、動物愛護団体がそれを廃止するキャンペーンを張っているとかで、その費用に何百万ドルも使っているというのがあらすじです。

冒頭に、"a lot of hay"という表現が出て来ます。

"hay"の俗語の意味に、はした金、というものがあります。この俗語の"hay"は通例否定形で用いられることが多く、


That ain’t hay.
(それははした金ではない、大金だ。)


というように用いられます。

記事では"a lot of hay"となっていますが、こちらは大金という意味になります。

記事の話題が馬車、つまり馬の話しということもあって、"hay"(干し草)とはしゃれが効いています。

英語の慣用表現にはこの干し草(hay)が出てくるものが多く、これまでも様々取り上げてきました。

お金に関係する表現としては以前取り上げた、




もご覧ください。


2025年10月21日火曜日

commando

パリのルーブル美術館からナポレオン時代の宝飾品が強奪される事件がトップで報じられています。白昼堂々と行われた強奪はわずか7分の間に行われたとあります。


French police revealed that they are hunting a “commando” of four robbers who pulled off the daring heist of priceless valuables at the Louvre on Sunday — and now they’ve got some key evidence.

No suspects have been identified yet in the daring caper, which saw the crew break into the world-famous museum, swipe millions of dollars in historic jewels and then flee — all within 4 to 7 minutes.
(Anthony Blair. French cops hunting ‘commando’ team of 4 Louvre robbers — here’s everything we know about them. New York Post. October 20, 2025.)


引用した記事によるとフランスの警察当局は犯人を、


commando” of four robbers


と特定した模様です。

"commando"という単語は奇襲部隊などと訳されます。アフリカーンス語に由来するとあるのは、19世紀末の南アフリカ戦争(ブール戦争)においてブール人が組織した民兵隊を"commando"と呼んだことからのようです。

英語には"command"(命令、支配)という単語もありますが、いずれも命ずるという意味のラテン語動詞mandareから来ているものです。(com-は強意の接頭辞。)

高所作業車をルーブル美術館の建物に横付けし、白昼堂々と宝飾品を奪い去った4人の奇襲部隊はバイクに乗って逃走、手掛かりは現場に残されたヘルメットくらいしか無いようです。

盗まれた宝飾品はバラバラにされたり加工された上で換金されるそうで、貴重な歴史的財産が失われると懸念されています。

以前取り上げた、




もご覧下さい。


2025年10月20日月曜日

tomahawk

先週金曜日の1語は"bazooka"、今日の1語が"tomahawk"と戦争に使われる兵器が連続しますが、ウクライナが米国にトマホークミサイルの供与を求めているというニュースがトップで報じられています。


WASHINGTON — Kremlin tyrant Vladimir Putin “is in a weak position” and fearful that the US will finally send Ukraine some Tomahawk missiles that can cut deep into Russia, Ukrainian President Volodymyr Zelensky said Sunday.

Zelensky had met with President Trump on Friday — a day after Trump held a call with Putin — and pushed to buy the much-sought-after long-range missiles, although he left the White House meeting empty-handed.
(Ryan King. ‘Weak’ Putin is ‘afraid’ of US giving Ukraine some Tomahawk missiles: Zelensky. New York Post. October 19, 2025.)


トマホークは射程距離2500キロ以上という巡航ミサイルでウクライナがこれを使えばロシア国内の軍事中枢を破壊することも可能だそうです。故にロシアとウクライナ間の戦争の局面を大きく変える可能性があるとも言われているのですが、トランプ大統領はウクライナへの供与には慎重になっているそうです。

このトマホーク(Tomahawk)は元は北米インディアンの使うまさかり(斧;hatchet)のことであると辞書の解説にあります。ランダムハウス英和辞書の図版では木の持ち手に石斧が取り付けられたようなものです。

"Tomahawk"という単語は北米インディアンであるアルゴンキン族の言葉に由来するそうです。アルゴンキン語の綴りはtamahaacというもので、切り離す(道具)という意味だそうです。

スペルの-hawkという部分がタカ(hawk)を想起させるのですが関係無いようです。



2025年10月17日金曜日

bazooka

米中貿易戦争はトランプ政権が仕掛ける高関税に対し、中国の対抗手段としてはレアアースというものがあります。世界におけるレアアースの中国シェアは7割近くを占めるとされ、電子機器類をはじめとする先端技術に必要不可欠な資源は中国に頼らざるを得ないのが実情です。

先ごろ、中国はレアアースの輸出規制を発表したと報じられています。


The announcement detailed sweeping new curbs on its rare earth exports, in a move that tightens Beijing's grip on the global supply of the critical minerals - and reminded Donald Trump just how much leverage China holds in the trade war.

China has a near-monopoly in the processing of rare earths - crucial for the production of everything from smartphones to fighter jets.

Under the new rules, foreign companies now need the Chinese government's approval to export products that contain even a tiny amount of rare earths and must declare their intended use.

In response, US President Donald Trump threatened to impose an additional 100% tariff on Chinese goods and put export controls on key software.

"This is China versus the world. They have pointed a bazooka at the supply chains and the industrial base of the entire free world, and we're not going to have it," said US Treasury Secretary Scott Bessent.
(Osmond Chia. China has found Trump's pain point - rare earths. BBC News. October 16, 2025.)


米財務省長官のBessent氏のコメントが引用されており、


They have pointed a bazooka at the supply chains and the industrial base of the entire free world


とあります。レアアース輸出規制で中国は世界を敵に回した、中国は「バズーカ砲」(bazooka)を向けている、と批判したものです。

「バズーカ砲」(bazooka)は敢えて説明の必要が無いかもしれませんが、対戦車砲とも呼ばれます。研究社新英和大辞典には、米軍が使用した戦車攻撃用の携帯用歩兵兵器、とありますが、語源欄には"bazooka"とは元は楽器の名称であったとの説明を見ました。

アメリカ人喜劇役者が自ら考案した楽器に"bazooka"という名前を付けたのだそうですが、その楽器とはトロンボーンに似た長いパイプを持った管楽器だったようです。

語源としては、bazooはトランペットを意味するオランダ語bazuinから来ているそうです。このbazooと、また別の種類の楽器を指すkazooが一緒になって"bazooka"となったそうですが、kazooの方はその音から来ており、擬声語だそうです。


2025年10月16日木曜日

stenographer

昨日取り上げた、米国防省が新しい報道ルールを策定しメディア各社の反発を招いているという話題の続きです。公式にリリースした情報しか報道してはならない、従わない場合には出禁にするという一方的な内容ですが、大手メディア各社は新ルールへの同意を拒否し、記者証を返却しているところもあるそうです。


Today, NPR will lose access to the Pentagon because we will not sign an unprecedented Defense Department document, which warns that journalists may lose their press credentials for "soliciting" even unclassified information from federal employees that has not been officially approved for release. That policy prevents us from doing our job. Signing that document would make us stenographers parroting press releases, not watchdogs holding government officials accountable.
(Tom Bowman. Opinion: Why I'm handing in my Pentagon press pass. NPR. October 14, 2025.)


そのうちの1社、NPRの記者は取材の自由が制限されるようなルールは受け入れられないとして同意文書への署名を拒否した、とあります。新聞記者としての矜持でしょう。

省が公表する情報のみを伝えるに留まるならば、それは報道記者ではなく、速記者(stenographer)に過ぎない、とあります。

英語の"stenographer"は速記者と訳されます。それでは接頭辞のsteno-は「速い」という意味かというとそうではありません。

辞書を引くと分かりますが、接頭辞steno-は狭い(narrow)とか小さい(small)という意味のギリシャ語から来ています。速記者が書く、線や点で構成された省略文字が"stenography"です。

速記文字のことを、"stenotype"、"short hand"とも言います。

2025年10月15日水曜日

beat reporter

米国防省が報道内容を規制する新しいルールを策定しましたが、CNNをはじめとする報道各社が反発しています。

ヘグセス国防相による新しいルールでは、メディアが報じることのできる内容として、国防省が公式にリリースした情報のみに限定するとし、これを守ることのできないメディアは出入り禁止にする、というものです。


Last month, Hegseth’s press office outlined new rules requiring beat reporters to sign a pledge not to obtain or use unauthorized material, even if the information is unclassified. Any journalist who doesn’t sign the pledge, Hegseth said, risks losing physical access to the Pentagon — something that has been a standard part of Washington-area news coverage for decades.
(Brian Stelter. Media outlets, including Fox News and CNN, refuse to sign Pentagon’s press access rules. CNN. October 14, 2025.)


引用した記事では、


beat reporter


という表現が出て来ますが、これは特定分野について担当する報道記者のことを指す用語で、例えば経済担当の記者とか、政治部記者、警視庁担当記者などといった、特定の分野、政府機関に出入りする記者のことを意味します。知りませんでした。

何故、"beat reporter"というのかというのは良く分かりませんが、"beat"という名詞には以下のような定義があるということが分かりました。


The area regularly covered by a reporter, a police officer, or a sentry
(American Heritage Dictionary)

記者の担当範囲、持ち場
(研究社新英和大辞典)


また、新聞記者が追い求める「特種」という意味も"beat"にはあります。


The reporting of a news item obtained ahead of one's competitors.
(ibid.)

(特種で他の新聞を)出し抜くこと、その特種
(同上)


"beat"という動詞は叩くという意味ですが、"beat the woods"や"beat the bush"は薮などを打って獲物を捜し回るという意味がありますし、こういった表現からジャーナリズムの用語に拡張したもののようです。


2025年10月14日火曜日

creative destruction

今年のノーベル賞受賞者の発表が相次いでいますが、経済学賞はジョエル・モキイア教授ら3氏に授与と発表されました。

イノベーションと経済成長の関係性に関する研究成果が評価されたということです。

専門的なことは分かりませんが、イノベーション(技術革新)が経済成長に不可欠なものであるということを数学的なモデルで説明したものようです。古いものは新しいものに取って代わられることで経済成長がもたらされるという考えは、"creative destruction"という概念で紹介され、「創造的破壊」と日本語訳されます。


Stockholm, Sweden (AP) — Joel Mokyr, Philippe Aghion and Peter Howitt won the Nobel memorial prize in economics Monday for their research into the impact of innovation on economic growth and how new technologies replace older ones, a key economic concept known as “creative destruction.”

The winners represent contrasting but complementary approaches to economics. Mokyr is an economic historian who delved into long-term trends using historical sources, while Howitt and Aghion relied on mathematics to explain how creative destruction works.
(Nobel Prize in economics awarded to Mokyr, Aghion and Howitt for explaining ‘innovation-driven’ growth. CNN. October 13, 2025.)


この"creative destruction"という言葉は古くからあり、オーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーター氏(Joseph Schumpeter (1883-1950))の造語だそうです。


The term creative destruction was first coined by Austrian economist Joseph Schumpeter in 1942. Schumpeter characterized creative destruction as innovations in the manufacturing process that increase productivity, describing it as the "process of industrial mutation that incessantly revolutionizes the economic structure from within, incessantly destroying the old one, incessantly creating a new one."
(Investopediaのサイトより引用)


創造(create)と破壊(destruction)は対立する概念ですからある意味形容矛盾とも言える言葉です。

古いモノは新しいモノの創造により取って代わられる、即ち破壊されることはやむを得ない、というところでしょうか。経済成長の恩恵に与るためには受け入れなければならない現実であるとも紹介されています。

26年落ちの古いクルマを未だに走らせている小生ですが・・・。




2025年10月13日月曜日

knives come out

米カリフォルニア州では州知事選が話題になっています。任期満了を迎える現職知事Gavin Newsom氏の後任となる候補者には一時カマラ・ハリス前副大統領も取り沙汰されましたが、今話題をさらっているには、最有力候補者とされるKatie Porter元議員です。

CBSニュースの報道記者からの質問に回答を拒んだ同氏への批判が高まり、居丈高との印象が形成されることになってしまったようです。また、Porter氏が過去に陣営スタッフを口汚く罵った様子が映っている別の動画も浮上し、益々印象を悪くしているようです。


Knives are coming out for former Rep. Katie Porter (D-Calif.) in the California gubernatorial race after several videos released this week generated widespread criticism over her behavior.  

Porter’s opponents and other Democrats rebuked the former congresswoman this week after she sought to end an interview early over a question that was visibly frustrating her.
(Caroline Vakil. Knives come out for Katie Porter over recent videos. The Hill. October 12, 2025.)


引用した記事の冒頭部分に、


Knives are coming out for former Rep. Katie Porter


とあります。Porter氏に対してナイフ(それも複数)が抜かれている(out)、とは甚だおっかない話です。

ここでの"knives are coming out (for)"とは慣用表現で、ある人に対する反感や嫌悪感情が高まっているという意味です。

手元にあるCollins Cobuild Dictionary of Idiomsでは以下のように定義されています。


the knives are out
have the knives out

If you say the knives are out for you, or that people have their knives out for you, you mean that other people are feeling very angry or resentful towards you, and you are trying to cause problems for you. 


著名人や政治家は一旦イメージが悪くなると致命的でもあります。特にSNS全盛の現代にあってはこうした動画は拡散され、印象が定着してしまうことに繋がり、過剰なバッシングにもつながりますが、この"knives out"という表現はまさにそうした状況を指すもののように感じられます。

最有力候補とされるPorter氏は失地回復なるか、というところですが、今のところ反省や謝罪の言葉は出ていないようです。


2025年10月10日金曜日

ladies’ finger

オクラはお好きですか?

小生は豆腐(冷奴)にオクラを切ったのを載せて食べるのが好きです。

そのオクラのことを、"ladies' finger"というのをご存知でしょうか?

私は今日初めて知りました。


"A beef tomato doesn’t contain any beef .... Ladies’ fingers are not made of actual ladies’ fingers," she said. 
(Pilar Arias. Lawmakers ban 'veggie-burger' term, limit meat descriptions in EU. Fox News. October 9, 2025.)


オクラが何故、"ladies' finger"?

形が女性のほっそりした指に似ているからです。

言われてみれば確かに!

オクラは英語で"okra"ですが、アフリカ原産で西アフリカの言語に由来するそうです。また、"gumbo"とも言いますがこれもバンツー語(アフリカ)に由来します。


2025年10月9日木曜日

guilt-trip

海外のレストランなどで食事するとチップを払うことがあります。特にアメリカでのチップの習慣についてはこれまでも何度か話題にしてきたところですが、チップが義務のようになっていることなどが顧客の不満につながっている現実があります。

ファーストフード店やカフェなど、特別なサービスを受けないところでもチップを払うのが当たり前のようになっていたりします。最近ではレジの端末で支払いと併せてチップの額を選択させるようなものもあったりします。

つまりは、チップを払うように仕向けられているというのが顧客の感じるところとなっています。

引用する記事によれば、こうした現実に6割以上のアメリカ人がやるかたない不満やストレスを感じているということです。


We’re guilt-tripping over guilt-tipping.

Two-thirds (65%) of American consumers are experiencing tipping fatigue — up from 60% last year and 53% in 2023, according to an annual study by Popmenu, a tech company serving more than 10,000 restaurants.

Over the last year, people have paid around $150 in tips on average, which they didn’t feel were necessary, with 44% saying they tip at places where they don’t think it’s customary.
(Brooke Steinberg. Average consumer spends $150 per week on ‘unnecessary’ tips: survey. New York Post. October 8, 2025.)


引用した記事の冒頭部分、"guilt-tripping"という単語はよく注意して見ないと、続く"guilt-tipping"と同じかと見間違えてしまいます。

ニューヨークポスト紙お得意のシャレですが、"guilt-trip"という単語がちゃんとあるというのを知りました。

Merriam-Webster Dictionaryでは、


to cause feelings of guilt in (someone) : to try to manipulate the behavior of (someone) by causing feelings of guilt


と定義されており、罪悪感をもたらす(感じさせる)、という意味であることが分かります。

一方、"guilt-tipping"ですが、こちらは辞書に載っているような単語ではありませんが、罪悪感に駆られてする(嫌々ながらの)チップの支払い、という概念を指すものと思われます。

上記の定義にもありますように、"guilt-trip"とは罪悪感を感じさせるという意味の他、相手に罪悪感を覚えさせることでその行動をコントロール(manipulate)しようとする、という意味合いもあるようです。

つまり、動詞"guilt-trip"は、


(自身が)罪悪感を感じる


という自動詞的な意味と、


(相手に)罪悪感を感じさせてある行動を取らせる


という他動詞的な意味のふたつがあると言えます。

後者の用法については、


guilt-trip a person into doing 〜


のようなパターンを取ることが多いようです。

後者は以前取り上げた、動詞としての"guilt"の用法とほぼ同じです。

この"guilt"に"trip"という単語が結び付いたものですが、名詞の"trip"には感情や気持ちがある傾向に傾いたり、とらわれたりすることを指す意味合いがあります。

日々の人間関係の中で、"guilt-trip"を感じることは少なくないのではないでしょうか?


2025年10月8日水曜日

rawdog

唐突ですが、"rawdogging"という言葉をご存知でしょうか?

パソコンやスマホといったデジタル環境にどっぷりと浸かっている現代人にとって、四六時中チャットやSNSの刺激に曝されるのが日常となっている中、何もしないでただじっとしている、というのは苦行に近いものがあります。

その「何もしないでただじっとしている」というのが、"rawdogging"の意味なんだそうです。


Generation Zers have devised a new way to mentally detox from omnipresent digital distractions — by undertaking challenges where they do nothing all day, as seen in TikTok clips with thousands of views.

Dubbed rawdogging, the practice involves staring into space sans entertainment, sleep or other distractions to give themselves a respite in an age where everyone is glued to their screen.
(Ben Cost. ‘Doing nothing was a lot harder than I thought’: Gen Z is now ‘rawdogging’ boredom — here’s why it’s good for them. New York Post. October 7, 2025.)


デジタルネイティブとも呼ばれるZ世代の若者の間で、この"rawdogging"が流行っていると紹介されています。

それは例えば、飛行機に乗っても映画や音楽などの機内エンターテイメントサービスは一切利用せず(また、勿論スマホ画面を見るでもなく、読書をするでもなく)、ただひたすら座ったままでじっとしているということや、ジョギングに出るにしても音楽を聴きながらではなく、ただ走る行為のみに集中する、といっとものだということです。

"rawdogging"とは何もしないでいること、あるいは退屈するような単純な作業をどれだけ我慢出来るかというチャレンジみたいな側面があるようです。若者の間では"rawdogging marathon"といって楽しみながら(?!)やるのが流行っているみたいです。

"rawdogging"という単語はスラングらしいですが、Merriam-Webster Dictionary(オンライン)には載っていて、以下のように説明されています。


Rawdog is a slang term that means to endure a difficult, dull, or mundane activity without any diversions or other support while doing it.


また、"rawdog"は元はややいかがわしい意味合いで使われていたといい、


Rawdog originated as vulgar slang meaning “to have sex without a condom.”


これは成人向けの意味合いですので、使うにあたっては注意が必要です。

この成人向けの意味合いが「何もしないでただじっとしている」という意味に拡張したのは、行為に際して準備や手当てをしない、というところから来ているようです。


2025年10月7日火曜日

fair shake

ジョージ・クルーニーさんと言えばハリウッドの大物俳優ですが、幼い双子のお子さんのためフランスの片田舎での生活をしているという話を読みました。

クルーニーさん自身はケンタッキー州の出身で農場で育ったそうです。若い頃は田舎の農場を嫌って都会に憧れたと言いますが、考えが変わったそうです。

クルーニーさんとのインタビューが引用された部分に以下のくだりがあります。


"You know, we live on a farm in France. A good portion of my life growing up was on a farm, and as a kid I hated the whole idea of it. But now, for them, it’s like – they’re not on their iPads, you know? They have dinner with grown-ups and have to take their dishes in. They have a much better life."

"I was worried about raising our kids in L.A., in the culture of Hollywood. I felt like they were never going to get a fair shake at life," he continued. "France – they kind of don’t give a s--- about fame. I don’t want them to be walking around worried about paparazzi. I don’t want them being compared to somebody else’s famous kids."
(Christina Dugan Ramirez. George Clooney explains why he 'worried' about raising his kids in Hollywood. Fox News. October 6, 2025.)


ハリウッドを離れてフランスの片田舎へという決断にはお子さんのためというのもあったようです。超有名人の子ともなればチヤホヤされ、マスコミも放ってはおかず、プライベートは無いということです。


I felt like they were never going to get a fair shake at life


というくだりがあります。

"fair shake"の"shake"は揺するとか振動するという動詞ですが、名詞の意味に、


(他から受ける)取り扱い、待遇
(ランダムハウス英和辞典)


という意味があるんですね。


A bargain or deal: getting a fair shake.
(American Heritage Dictionary)


よって、"fair shake"とは公平な扱い、待遇という意味になります。また、


give a person a square shake 
人を公平に扱う


という言い回しもあります。

2025年10月6日月曜日

protégé

週末の土曜日に自民党総裁選が行われ、決選投票の結果、高市早苗氏が選出されました。女性初の自民党総裁、そして首相となる予定であることから、海外メディアも大きく報じています。

記事を拾い読みしたところ、高市氏について、


a protégé of the late Shinzo Abe


という紹介をしているものがいくつか見られましたので、今日の1語は"protégé"です。


A protégé of the late Shinzo Abe, she pledged to revive his "Abenomics" economic vision of high public spending and cheap borrowing.
(Tinshui Yeung. Who is Japan's 'Iron Lady' Sanae Takaichi? BBC News. October 4, 2025.)


"protégé"は(スペルに付加されているアクセント記号からも想像がつくように)フランス語です。フランス語の動詞proteger、これは英語でprotectに相当する単語ですが、その過去分詞形となっており、protectされるもの、ということになります。"protégé"の英和辞書での訳語は、庇護者、弟子などとなっています。

以下はMerriam-Webster Dictionaryでの定義です。


one who is protected or trained or whose career is furthered by a person of experience, prominence, or influence


高市氏は故安倍元首相の政治信条を引き継ぐとされています。安倍元首相に目をかけられて将来を嘱望されていたとの記事も見かけました。

ロワイヤル仏和辞典で"protégé"を引いてみると、「お気に入り」という訳語を載せていました。確かに、故安倍元首相のお気に入りだったかもしれません。

ところで、別記事ではやはり"protege"(アクセント記号無し)という表現が使われているのですが、以下に引用します。


An admirer of former British Prime Minister Margaret Thatcher, Takaichi is a protege of former Japanese Prime Minister Shinzo Abe’s ultra-conservative vision and a regular at the Yasukuni Shrine, seen as a symbol of Japan’s wartime militarism, which could complicate Tokyo’s relations with its Asian neighbors.
(Japan’s ruling party elects Sanae Takaichi as new leader, likely to become first female PM. Politico. October 4, 2025.)


ここでは、


protege of former Japanese Prime Minister Shinzo Abe’s ultra-conservative vision


となっており、"protege of"以下は、(ちょっと長くなっていますが)人物(安倍氏)ではなく、"vision"(安倍氏の保守思想)になっていることに注目しましょう。

コーパスで用例を検索すると、"protege of"に続くのは、ほぼ例外なく、人の名前、人物となっています。先述したように"protege"がprotectの過去分詞形、すなわち受身の意味合いであることを考えるとvisionという単語が来るのは少々おかしいように思われ、僭越ながらこれは"protégé"という単語の誤用になるのではないかと思います。

ちなみに研究社新英和大辞典では、"protégé"の女性形として、"protégée"を載せており、これもフランス語の規則に沿ったものです。(American Heritage DictionaryやMerriam-Websterでは女性形を載せていません。)

高市さんは言うまでもなく女性ですから、正しくは以下のABC Newsの記事のように"protégée"となる訳ですが・・・。


Sanae Takaichi, 64 : A protégée of former prime minister Shinzo Abe, Takaichi lost to Ishiba last year in the runoff.
(Japan's governing party opens race to choose Ishiba's successor. ABC News. September 21, 2025.)


フランス語を輸入したからといって、アクセント記号や女性形もフランス語に従うか否か、というところでしょうか。


2025年10月3日金曜日

86 (eighty-six)

男性の乳がんというのはあまり聞きませんが無い訳ではありません。乳がんは男性もかかる病気です。

その乳がんから生還したアメリカ人男性が、乳がん啓発の基金を始めたというニュースを読みました。


He 86’ed cancer — and is now serving up hope on Long Island.

A chef who miraculously survived lethal male breast cancer is using his “second chance” to organize a fundraising raffle he calls “All Boobs Matter,” which he hopes will help others battle the dread illness.
(Alex Mitchell. Male chef who survived breast cancer holds ‘All Boobs Matter’ fundraiser to aid fellow LI residents. New York Post. October 2, 2025.)


引用記事の冒頭、


He 86’ed cancer


とあります。

数字の86に、-edがついているところから推測するに、これは動詞です。数字が動詞になるというのはとても変わっていますね。

果たして辞書にも86 (eighty-six) という動詞のエントリがあります。

その定義は、


To refuse to serve (an unwelcome customer) at a bar or restaurant.
(American Heritage Dictionary)


というものです。レストランやバーなどで、歓迎されない客の対応をお断りする、という意味で使われるようです。

恐らくその意味から一般化したのだと思いますが、


To throw out; eject.
To throw away; discard.
(ibid.)


という意味合い、つまり、拒絶する、排斥する、といった意味があります。

記事のケースはガンを克服した、ということを"He 86’ed cancer"と言っている訳ですが、ガンから生還して啓発活動を始めたその男性はレストランを経営するシェフということで、"86 (eighty-six)"のそもそもの意味にかけたシャレになっています。

それにしても排除することを何故"86 (eighty-six)"というのでしょうか?

語源欄には同様の意味がある"nix"という単語と韻を踏んだもの(押韻俗語)という説明があります。"six"は分かりますが、"eighty"の方は?と思ってしまいます。

"nix"は以前取り上げた際触れたように、無、無し(nothing, naught)というのが基本にあるのですが、レストランやバーであるメニューが品切れ、提供不可といった場合に"nix"というところ、これが"eighty-six"になったという説があるようです。

歓迎しない客に対してサービスを拒否する際、売り切れ、品切れと言うのは頷けます。


2025年10月2日木曜日

whammy

10月に入り、ようやく秋らしさも出てきたかとも思えるようになりましたが、今日も日中の最高気温は関東で29度という季節外れな有様です。

いずれ秋、冬と季節が進むと風邪やインフルエンザが流行ります。風邪とインフルは別物ですが、両方の流行に見舞われると「ダブルパンチ」の憂き目にあいます。

「ダブルパンチ」・・・。以下の記事では、"double whammy"と出てきます。


LOS ANGELES -- Every time kids go back to school, the whole family gets sick. CDC data reveals we haven't had this many cases of the common cold since we hit another high peak three years ago! As flu season begins, are we headed for a double whammy?
(Denise Dador. Common cold cases hit 3-year high. Doctors warn of tough flu season ahead. ABC News.  October 2, 2025.)


「ダブルパンチ」、すなわち二重の不運、二重苦を"double whammy"と言います。

"whammy"という単語ですが、勢いよくぶつかること、またその音を意味する"wham"という語から来ています。(ドカン、ガツン、といった擬声語でもあります。)

その"whammy"について、ランダムハウス英和辞典では、


(睨まれると災いがくるという)悪魔の目、邪視、邪眼


という意味を載せているのですが、この意味に関連すると思われる興味深い解説がMerriam-Webster Dictionaryに見られます。


The first example of whammy in print occured in 1940, but the word was popularized in the 1950s by the cartoonist Al Capp in the comic strip Li'l Abner. The character Evil-Eye Fleegle could paralyze someone with the sheer power of his gaze.


Evil-Eye Fleegleという漫画のキャラクターに由来するというものなのですが、睨んだ相手を動けなくする超能力みたいなものを持っているという設定らしいです。

片目で睨むのは"single whammy"、両目では"double whammy"と言ったそうですが、これが「ダブルパンチ」という意味で定着したそうです。

関連する表現として、「ワンツーパンチ」という時の"one-two"もご覧下さい。



2025年10月1日水曜日

Rx

トランプ大統領は輸入医薬品に100パーセントの関税を課すと先日発表しました。曰く、アメリカ人は他国に比べて不当に高いコストを負担しているとのことで、製薬会社には生産拠点を米国内に持つことを促すとしています。

その一環で、医薬品を市場価格よりも安く購入できるウェブサイト、TrumpRxを開設すると公表しました。


President Donald Trump on Tuesday announced a multipronged effort aimed at lowering drug costs in the United States, including the creation of a “TrumpRx” direct-to-consumer website where Americans can buy medicine at discounted prices and a sweeping deal with Pfizer to reduce the prices of many of its products.

(中略)

Pfizer is the first drugmaker to voluntarily agree to all the demands Trump laid out in a July letter to pharmaceutical company CEOs. The president signaled others might soon follow.

Pfizer will sell drugs to Medicaid and set prices of new drugs at “Most Favored Nation” levels, the lowest price made available in peer countries. It will sell many of its primary care medicines and some specialty brand-name drugs at a 50% savings, on average, at TrumpRx, the company said. And it will expand its domestic manufacturing, while receiving a three-year reprieve on certain tariffs on pharmaceutical imports.
(Trump announces ‘TrumpRx’ site for discounted drugs and deal with Pfizer to lower prices. CNN. September 30, 2025.)


TrumpRx.govというサイトは2026年以降利用可能になるとのことですが、大手製薬会社であるファイザーが参画の意向だということです。

さて、このサイトの名称にある、


Rx


とは薬の処方箋を指す用語です。

処方箋のことを英語で"prescription"と言いますが、Rxはラテン語recipeを略したもので、これはラテン語の動詞recipere(to take)の命令形です。つまり、Rxとは、取れ、という意味で、これこれの成分の薬を調合して患者に摂取させよ、という医師から薬剤師への指示となっています。

今日処方箋を指す略語として定着しているRxは、元はアルファベットのRの「足」の部分に省略の意味合いで斜線を入れたもので、1文字のように(℞)書かれていたものでした。これがRxという表記になった経緯はよく分からないようです。斜線を入れた部分がxという文字に見えるのでそうなったということなのかと思いますが、Dxなどの略語に見られるxとは別物ということになるように思われます。なお、医師がカルテ等の記載に使う略語の中には、Sxと書いてsymptom(症状)、Hxと書いてhistory(病歴)を意味するなど、xという文字を省略の目的で用いることはあるようです。

英単語の"recipe"はお料理の「レシピ」という意味でも用いられますが、薬の処方の意味から発展したものです。