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2025年3月7日金曜日

オムレツについて ー You can’t make an omelet without breaking some eggs.

実業家のイーロン・マスク氏が事実上率いているとされる政府効率化省(DOGE)は第2次トランプ政権の目玉ですが、国際援助を管掌するUSAIDの解体、政府職員の大量解雇といった、過激にも思われる施策を次々と実行しています。

選挙によって選ばれた訳でもない実業家の振るう大ナタには、当然のことながら多くの反発や批判があるのはご存知の通りです。しかしながら、トランプ大統領は先日の施政方針演説においてマスク氏を称え、反発する職員は即座に解雇されるだろうとまで言いました。

以下の引用記事は少し前のものですが、マスク氏擁護派の上院議員の言です。


A MAGA senator said he liked “omelets better than sex” when coming to Elon Musk’s defense for shutting down the U.S. Agency for International Development (USAID). 

Louisiana Senator John Kennedy had a bizarre rant on Fox News when he compared the breakfast food to Musk putting USAID on the chopping block. “I like omelets better than sex. Not really, but you get the point,” Kennedy said on Fox News. “You can’t make an omelet without breaking some eggs.”
(Amethyst Martinez. MAGA Senator Goes on Weird Rant About Sex and Omelets. The Daily Beast. February 5, 2025.)


「セッ◯スよりもオムレツの方が好き」という発言は訳が分かりませんね!?

この議員はオムレツ(omelets)なら毎日食べても飽きないとも言ったそうですが、これらの発言がなぜマスク氏擁護になるのでしょうか。

答えは引用部分の最後に出てくる、


You can’t make an omelet without breaking some eggs.


にあります。

この卵を割らないことにはオムレツは作れない、というこのフレーズは、


目的を達するためにはそれなりの努力(犠牲)を払わなければならない、「播かぬ種は生えぬ」
(研究社新英和大辞典)


ということわざです。

つまり、マスク氏のやっている大規模なリストラは米国の成長(MAGAの達成)に必要な犠牲である、ということなのでしょう。

議員の発言はこのことわざを念頭にしたものであり、「オムレツ」(omelets)とは痛みを伴う改革を象徴しているのだという主張のようですが、なかなか意味深な発言、コトバです。

オムレツついでに、英単語"omelet"(また、omelette)の語源について。

"omelet"という単語はフランス語から来ていますが、遡るとラテン語laminaであり、その意味は薄い板というものです。

ふっくら、ふんわり、トロリのオムレツをイメージすると少し違うように思われるかもしれませんが、「オムレツ」という名称は、それがフライパンの上で溶き卵が薄焼きにされて供され、薄板のようだから付いたのです。

でも、ラテン語laminaと英単語"omelet"のスペルは随分と違っていますね?

ラテン語laminaはlamellaという指小辞形があるのですが、これがフランス語ではalemelleとなります。ここがポイントで、"alemelle"というスペルは定冠詞の付いたla lemelleが誤って"l’alemelle"と解釈されたために生じたスペルなのです。つまり、言語学において異分析と呼ばれるものです。

フランスにおいて、alemelleはalumelleへと変化し、さらにalumette、そして音位転換と呼ばれる影響を経て古フランス語ではamletteとなり、最終的にはomeletteとなりました。

ちなみに英語のことわざになっている上記のフレーズのオリジナルはフランス語らしく、辞書には、


On ne fait pas d’omelette sans casser des œufs.


と添えられています。

2025年3月6日木曜日

joined at the hip

米俳優のジーン・ハックマンさんとその妻ベッツィ・アラカワさんが先月ニューメキシコ州の自宅で不審死を遂げたニュース記事を読みました。

ガス漏れによる一酸化炭素中毒が疑われたそうですが、捜査の結果、その可能性は薄いということで死亡原因の解明が待たれるというような内容でした。

また別の記事は生前ハックマンさん夫妻と親しかった関係者による回顧的内容のものでした。引用をどうぞ。


As Hackman aged, he became "reclusive", and Wells didn’t see him or Arakawa for years.

"The two of them were joined at the hip practically. So, if he became reclusive, I think she did, too. And she was very quiet. Anyway, if she went out on her own and was in the same grocery store with me, it would be easy to not see her. She was small and quiet and very, very focused. I thought she was great."
(Gene Hackman and wife were ‘joined at the hip,’ trained to fly together. Fox News. March 5, 2025.)


ハックマン夫妻について、


The two of them were joined at the hip practically.


というくだりがあります。

ここで使われている、"joined at the hip"とは慣用表現で、


used to describe two people who are often or usually together
(Merriam-Webster Dictionary)


という意味です。

文字通りには、腰の部分で繋がっている、という意味ですが、(腰が繋がっていると思えるくらい)いつも一緒に居る、一心同体、仲睦まじい、というような意味です。ここでは、いわゆる日本語で言う「おしどり夫婦」に近いかと。

"joined at the hip"という表現の由来ですが、身体の一部が癒合して産まれてきた双生児から来ているそうです。(Phrase Finder)


2025年3月5日水曜日

random

ウクライナ支援、停戦を巡る米・バンス副大統領の発言が物議を醸しているとの記事が目に留まりました。

冒頭から大荒れとなった先週の米ウ会談では鉱物資源に関する合意に至らず、物別れに終わりましたが、その後米国はウクライナへの軍事支援を一時停止することを決定。これを受けてイギリスやフランスはウクライナへの軍事支援を表明するという動きになっています。

問題になったバンス氏の発言というのは、この動きに対してのコメントなのですが、恐らくは英、あるいは仏を指して、


some random country


と呼んだというものです。

詳しくは記事の引用をどうぞ。


The US vice-president has sparked a row with his comments about a potential peacekeeping force in Ukraine.

UK opposition politicians accused JD Vance of disrespecting British forces after he said a US stake in Ukraine's economy was a "better security guarantee than 20,000 troops from some random country that hasn't fought a war in 30 or 40 years".

The UK and France have said they would be willing to put troops on the ground in Ukraine as part of a peace deal.

Vance has since insisted he did not "even mention the UK or France", adding that both had "fought bravely alongside the US over the last 20 years, and beyond".
(Becky Morton. Anger over Vance 'random country' peacekeeping remark. BBC News. March 4, 2025.)


バンス氏の"some random country"という言い草に英国会議員らが不敬だと反発したというのですが、"random"という表現に何かしら侮蔑的な意味合いがあるのだろうかと気になった次第です。

ごく基本的な単語としては中学の英語の授業に出てくると思いますが、カタカナでもランダムと言い、無作為による、任意の、といった意味合いがまず思い浮かぶのではないでしょうか。

しかし、"some random country"という表現が関係国を怒らせたという時、無作為の国、任意の国、といった訳はどうもしっくり来ないですね。果たして何と訳したものでしょうか。

"random"には成り行き任せとか、行き当たりばったり、といった意味合いもあり、これらの訳語はネガティブな意味合いが滲んではいますが、国(country)という名詞に対する修飾語としてはやはりピンときません。

辞書によっては、"random"の意味合いとして俗語、またインフォーマルな用法を載せているものがあります。変な、変わった、普通でない(odd, strange)というような意味合いです。バンス氏はウクライナへの軍事支援を表明した英仏を「ヘンな国だ」と当てこすったのでしょうか。

正解になかなか辿り付かないのですが、色々と調べているうちに、"random"という言葉について取り上げた興味深い記事を見つけました。


"It's described as a colloquial term meaning peculiar, strange, nonsensical, unpredictable or inexplicable; unexpected," he explains, before adding that random started as a noun in the 14th century, meaning "impetuosity, great speed, force or violence in riding, running, striking, et cetera, chiefly in the phrase 'with great random.' "
(Neda Ulaby. That's So Random: The Evolution Of An Odd Word. NPR. November 30, 2012.)


やはり、口語表現として、普通からちょっと外れた、変わっている、という意味合いがあるということなのですが、今日の辞書では形容詞としてエントリされている"random"は元は名詞であったとあります。語源を紐解くと"random"は走る(run)という意味を持つゲルマン語から来ており、性急さ、突発性といった意味合いが付加して今の意味になったようです。

これだけでは"random"の侮蔑的な意味合いはまだよく掴めていないのですが、バンス氏の発言への反発は、"some random country"による派兵(軍事支援)よりも米国(によるウクライナ鉱物資源関与)の方がベターだという比較に反応したものかも知れません。

ただ、敢えて明確に名指しせずに"some random country"と言う表現は、遠回しに当てこすったり、嫌味を言うような効果があったものと思われます。

コーパスで検索すると、"random person"や"random guy"といった用例が見られます。

日本語の表現で、「どこの誰とは言いませんが・・・」、「どこの馬の骨とも分からん奴」というものがありますが、それに近いのではと思います。

もちろんこんな訳語を載せている辞書は無いのですが、"random"という形容が侮蔑的に響くのは、よく分からない、素性が知れない(故に不可解である)、という話者の判断を滲ませているということだと思われます。


2025年3月4日火曜日

through thick and thin

大荒れのホワイトハウスでの米ウ首脳会談から3日経ちました。頭を冷やして次なるステップを・・・、というところかと思いますが、下記引用するCNNの記事によれば、トランプ氏の怒りはまだ収まっていないようです。


Top Trump Cabinet secretaries and national security officials are holding meetings this week to discuss the administration’s next steps on Ukraine – including the prospect of suspending military aid – following the spectacular collapse of Friday’s Oval Office meeting between President Donald Trump and Ukrainian President Volodymyr Zelensky.

(中略)

“I just think he should be more appreciative, because this country has stuck with them through thick and thin,” Trump told reporters in the Roosevelt Room on Monday when asked what it would take to revive a rare earths mineral deal.
(Trump continues to seethe at Zelensky as national security team gathers to discuss what’s next on Ukraine. CNN. March 3, 2025.)


引用部分でトランプ氏の発言が引用されています。その中に、


this country has stuck with them through thick and thin


というくだりがありますが、ここで使われている、


through thick and thin


というのは慣用句で、「大変な時も、また良い時も」、という意味です。

"thick"、また"thin"の持つ意味合いについてこれまでも取り上げたことがあります(thick vs. thin、in the thick of)が、ここでの"thick"とは木々が生い茂っている状態のことで、"thin"とはその反対に木々もまばらという状況を言っています。

つまり、道も定かで無い鬱蒼とした森の中を歩くのは大変な困難を伴いますが、そうでない場合は何とか歩を進めることができるでしょう。これが、困難な状況にあっても、また良い状況にあっても、という比喩的な意味で使われるようになったものです。

トランプ氏の発言は、米国がウクライナに常に寄り添って来た、と言っているものです。だから、もう少し感謝したらどうか、という批判を滲ませたもののようです。

この"through thick and thin"というフレーズは古くからある英語の慣用表現だということですが、元は、


through thicket and thin woods


というものだったようです。(Phrase Finderのサイトによる。)

"thick"の意味に茂みや暗い中という意味や、密集した、混み合ったという意味があるのは、この単語が"thicket"(やぶ、雑木林)から派生していることと関連しています。


2025年3月3日月曜日

battle of wills

ロシアとウクライナの停戦を巡り、ホワイトハウスでトランプ大統領とゼレンスキー大統領の会談が行われましたが、メディアにも公開されたやり取りでは、バンス副大統領も含めた米・ウの激しい応酬となり、合意どころか、物別れに終わりました。

土曜日の朝(日本時間)、その様子を伝える動画を見て、苛烈なやり取りにびっくりした次第です。

個人的な感想としては、バンス氏が「外交による平和云々と言い始めたところから両者の認識の相違が明らかとなり、議論に火が付いたように思います。ゼレンスキー大統領は、過去にロシアが合意を一方的に反故にしてウクライナへ攻め入ったことなどを挙げ、「アンタの言う外交って何だ?」と返し、バンス氏が「お前は米国に対し失礼だ!」とエスカレートしていったように思いました。

以下の記事はUSA TODAY紙のもので、会談が行われる前に、その行方を想定して書かれたものです。

会談は"battle of wills"になるだろう、と予想していますが、今読んでみて果たしてその通りになったなという感想です。


WASHINGTON –  President Donald Trump has been browbeating Ukrainian President Volodymyr Zelenskyy into signing a “breakthrough agreement” that would give the U.S. access to his country’s minerals, oil and natural gas.

Both nations have agreed to the deal in concept: Ukraine would deposit 50% of the revenues earned from future investments in government-owned natural resources into a jointly controlled fund.

But the framework agreement does not currently include security guarantees that have been insisted on by Ukraine.

A battle of wills is expected to ensue between the leaders on Friday, when Zelenskyy gets his first-ever, sit-down in the Oval Office with Trump.
(Francesca Chambers. Zelenskyy's visit with Trump to be a battle of wills in the Oval Office. USA TODAY. February 28, 2025.)


"battle of wills"を何と訳すのか、英和辞書にはこの表現は見当たりません。

"will"とは意思、意向といった意味ですが、ここでは「意地」と言った方がぴったりくるように思われます。

ネットで検索すると、Collins Dictionaryのサイトでは、


A battle of wills is a situation that involves people who try to defeat each other by refusing to change their own aims or demands and hoping that their opponents will weaken first.


という定義がされていました。

"battle of wills"は、意地の張り合い、意地のぶつかり合い、というような訳が適当かと思われます。

先週金曜日の当ブログの投稿では、ゼレンスキー大統領を独裁者と呼び、ロシア寄りのトランプ氏も良心の声に導かれて少しまともになってきたかもという話題を取り上げたのですが、ロシア寄りかどうかは置くとして、やはりトランプ氏、バンス氏陣営は米国の利益、権益ということしか頭に無く、鉱物資源の米ウ合意と引き換えにゼレンスキー大統領が要求する自国の安全保障はそっちのけという感じがします。

この状況で両者譲らず、"battle of wills"が続くことでほくそ笑むのはひとりプーチン大統領だという論評はその通りではないかと思います。