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2022年9月30日金曜日

Carolean

故エリザベス女王の国葬も終わり、関連の報道も落ち着いた感があります。

そう言えば、イギリスでは紙幣や硬貨のデザインもエリザベス女王の肖像からチャールズ新国王のそれに取って代わられると報道されていましたが、今日のニュースではその第一弾でしょうか、チャールズ国王の肖像をデザインした50ペンス硬貨が公表されたとあります。


The first British coins to feature the image of King Charles have been unveiled by the Royal Mint, with the portrait of the new monarch facing the opposite direction to his late mother Queen Elizabeth in keeping with tradition.

The new image will appear on 50 pence ($0.55) coins, which will begin circulating in the coming months, and also on a commemorative 5 pound coin which also features two new portraits of Elizabeth on its reverse side.

(中略)

"As we move from the Elizabethan to the Carolean era it represents the biggest change to Britain's coins in decades and the first time that many people will have seen a different effigy," said Kevin Clancy, director of The Royal Mint Museum.
(New UK coins featuring image of King Charles revealed. Reuters. September 30, 2022.)


故女王を偲んで記念硬貨のセットなども販売されるそうです。

さて、引用した記事の最後の方で、


from the Elizabethan to the Carolean era


と出てきます。

そうです、時代(王朝)はエリザベス王朝時代からチャールズ3世の王朝へと移る訳です。

"Elizabethan"は特に気にも留めませんでしたが、"Carolean"にはおや、と思わされました。

Charlesを形容詞にすると"Carolean"になるとは浅学にして知りませんでした。

"Carolean"を辞書で確認すると、"Caroline"に同じ、ともあり、ますます疑問が。

ファーストネームのCaroline(キャロライン)は女性名です。愛称のCarol、Carrieなども同様。

チャールズ新国王を指す"Carolean"が女性名の"Caroline"でもあるというのはちょっと違和感を覚えるところではありますが、チャールズ1世、2世の時代からその御世は"Carolean (era)"だそうです。

2022年9月29日木曜日

fascism/fascist

イギリスで女性首相が誕生したと思ったら、今度はイタリアでも女性首相が誕生しました。新首相ジョルジャ・メローニ氏が党首を務める「イタリアの同胞」(Fratelli d’Italia; Brother of Italy)は極右政党とされ、かつてムッソリーニが率いたファシスト党の流れを汲むものと言われています。

新首相をムッソリーニと重ね合わせる報道も目にします。


Italy, wrote the situationist philosopher Guy Debord in 1968, “sums up the social contradictions of the entire world”. As such, it was a “laboratory for international counter-revolution”.

Political analysts the world over are now busy parsing Giorgia Meloni’s statements to determine if she is a fascist, a neofascist or a post-fascist. Why, they ask, are Italians seemingly willing to consider a return to the politics of their country’s darkest hour?

But is Italy really dealing with the resurrection of its fascist past? And, more important, is Italy a laboratory whose experiment the rest of the world could eventually follow? The answers, respectively, are: no and (therefore) yes.
(Lorenzo Marsili. Italy’s Giorgia Meloni is no Mussolini – but she may be a Trump. The Guardian. September 28, 2022.)


今日は、"fascist"、また"fascism"という単語を取り上げたいと思います。

先述したように、第二次世界大戦前の1922年にイタリアでムッソリーニを党首とするファシスト党が政権を掌握したことから、"fascism"という単語が独裁者による全体主義的な政治体制を意味することは周知の通りです。

ところで、この"fascism"という単語は語源を辿るとラテン語fascisに遡るのですが、その意味は、


束(たば)


という、ファシズムの過激さとは縁も無いように思える、何とも他愛のないものです。

このラテン語はイタリア語fascioにつながりますが、そのイタリア語も団体、グループ、という意味です。「束」から「グループ」の意味の発展は自然に思われます。

1914年、イタリアに、


Fascio rivoluzionario d’ azione internazionalista


という政治団体が誕生しますが、Fascio〜、は単に〜グループ、という名称に過ぎません。この政治団体のメンバーは、イタリア語でFascista(複数形Fascisti)と呼ばれました。

ムッソリーニが1919年に結成した、ファシスト党の前身Fasci di CombattimentoもFascio〜ですが(FasciはFascioの複数形)、Fascista(Fascisti)という言葉のきっかけとなった1914年結成の政治団体とは直接の関係は無いと言われています。(Merriam-Webster Onlineによる。)

つまり、語源的には(あくまでも、「語源」という観点ですが)、ムッソリーニと"fascist"、また"fascism"という単語には直接的な関係がない(ムッソリーニ以前に端を発する)、ということなのです。

さて、ラテン語のfascisに話を戻します。

束という意味だと書きましたが、もうひとつの意味に、


束桿(そっかん)


というものがあります。(複数形でfascesと綴られます。)

これは斧を複数の木の棒で包み、皮紐で束ねたもので、斧の刃が側面から出ているような形をしています。(イメージはこちら。)古代ローマでは権威の象徴として用いられたものです。

実際、この束桿のシンボルはファシスト党の党章や党旗に用いられました。

しかしながら、束桿のシンボルはローマにあるとは言え、権威の象徴としてはファシスト党に限らず、様々な国で用いられており、紋章を始め、アメリカの10セント硬貨のデザインにも使われていたことがあったそうです。



2022年9月28日水曜日

perk up

コーヒーがお好きな方には朗報です。

コーヒーを飲む人は寿命が延びるという研究があるというものです。

このような類いのニュース、特にワインが健康に良いとか、1日何杯のコーヒーが良いとか、時折見かけます。(眉に唾してかかりますが。)


Folks who drink two or three cups of coffee daily appear to live longer than people who don’t care for the beverage, new research shows.

Coffee lovers also seemed to have healthier hearts, which might contribute to the longevity boost, said the team of Australian investigators.

The findings were published Sept. 27 in the European Journal of Preventive Cardiology.
(Ernie Mundell. Coffee Might Perk Up Your Heart and Life Span. US News & World Report. September 27, 2022.)


記事のタイトルに釣られたのですが、


Coffee Might Perk Up Your Heart and Life Span


とあります。

ここで使われている、"perk up"というのは、


引き立てる、活気づける、元気にする


といった意味です。

よく見かける"perk"の意味には、特典といった意味もあります。以下は、つい先日取り上げたニュース記事での用法です。


Google CEO Sundar Pichai reportedly grew agitated during a “heated” all-hands meeting in which an employee asked why the search engine was “nickel-and-diming” workers by taking away perks and benefits.
(Ariel Zilber. Google employee grills CEO Sundar Pichai for ‘nickel-and-diming’ workers: report. New York Post.September 23, 2022.)


特典という意味の"perk"は"perquisite"という単語が約まったもので、"perk up"とはまた別の単語です。

"perk up"の"perk"は、鳥が止まり木に止まるという意味の動詞"perch"に由来します。



2022年9月27日火曜日

burn rubber

新型コロナの終わりが見えて来た、というのが先日のWHO発表の見解でしたが、今後パンデミック以前の生活様式に戻るということはあるのでしょうか?

勤め人の気になるところはリモートワークの行方でしょう。

米国では今年始めくらいからオフィス回帰への動きがウォールストリートの大企業で顕著になり、他企業にも追随する動きが見られます。

一部企業では強制力のある内容でしたが、多くの企業ではソフトアプローチ、つまり、なるべく従業員が自発的にオフィスに戻るにはどうすればよいか腐心しているようです。

アメリカ人というのは食べ物に釣られるので、無料の朝食とかスナック提供というのがよく使われる手法のようです(笑)

さらに発展して(!?)、アルコールを提供するというところもあるそうですから、驚きです。

Slate magazineの記事を興味深く読みました。以下は、読者の投稿の引用です。


I have seen a lot of lures, and none of them are working. Free Coffee Day! Free Continental Breakfast Day! Free Pretzel Day! Then they upped their game to “Free Red Bull and come see some adoptable puppies!” They literally had puppies in the office. They almost got me with that one. If it had been “Free Wine and Kittens,” I would have burned rubber to get there.
(Alison Green. The Incentives to Get Workers Back to the Office Aren’t Working. Here’s What Would. Slate. September  26, 2022.)


最後のところで、


I would have burned rubber to get there.


とありますが、"burn rubber"という表現に注目したいと思います。

この読者の勤める会社がオフィス回帰のためにとった苦肉の策は、エナジードリンクのレッドブル無料サービスと仔犬里親募集というものでした。読者はこれに思わず釣られそうになった、と告白しています。

"burn rubber"の意味は察しがつきますね。

大急ぎで出掛ける、というのがこの慣用句の意味合いなんですが、"rubber"は自動車のタイヤのことです。つまり、メトニミーの類と言えます。

タイヤが地面との摩擦で焼けるくらいスピードを上げて、ということです。

"rubber"は自動車のタイヤのメトニミーと書きましたが、自転車のタイヤでも靴底でも良いかもしれません。

個人的には、始業時間に間に合うようオフィスに急いだのは遠い昔のような気がしています。


2022年9月26日月曜日

nickel-and-diming

記事の引用からどうぞ。


Google CEO Sundar Pichai reportedly grew agitated during a “heated” all-hands meeting in which an employee asked why the search engine was “nickel-and-diming” workers by taking away perks and benefits.

Pichai, who has ratcheted up the pressure on Googlers to boost productivity in the midst of a sharp economic downturn, held court at a meeting in New York this week during which he was grilled by his employees over cuts to travel and entertainment budgets.

One worker summoned the nerve to ask Pichai why Google was “nickel-and-diming employees” when the company reported “record profits and huge cash reserves,” according to audio obtained by CNBC.
(Ariel Zilber. Google employee grills CEO Sundar Pichai for ‘nickel-and-diming’ workers: report. New York Post.September 23, 2022.)


景気後退などを背景に生産性の改善を図っているグーグルですが、CEOのピチャイ氏は更なるコスト削減のため、出張旅費や福利厚生費にも手をつけ始めたらしく、これが従業員の反発を招いているようです。

グーグルが7月末に発表した第二四半期の収益は699億USドルで、前年同期618億USドルを上回っています。

ケチケチするな!という従業員の声もむべなるかな!?

いわく、"nickel-and-diming"という言葉が挙がって来たものですが、"nickel"とは5セント硬貨、"dime"は10セント硬貨を指すのはよくご存知でしょう。

言うまでもなく、小銭であり、"nickel-and-diming"とは少額のお金に気を使うことを言います。

引用した記事では動詞として使われていますが、下記のように、形容詞としても用いられます。


Carriers have done nickel-and-dime cost-cutting, removing hot towels and food service, but have yet to address much more serious costs, like labor inefficiencies.
(New York Times, 2002)




2022年9月23日金曜日

barb

国連総会がニューヨークで開かれています。安全保障理事会ではロシアに対する各国の批判が相次ぎましたが、ロシア外相のラブロフ氏は逆に西側諸国を批判、批難の応酬となったと報じられています。


Russia’s foreign minister Sergei Lavrov faced off against western powers at the UN Security Council on Thursday, defending the invasion of Ukraine after his US counterpart said Moscow had “shredded” international norms.

The comments came as Russia’s president Vladimir Putin escalated the conflict this week, pledging to mobilise hundreds of thousands of troops and threatening the use of nuclear weapons — triggering alarm around the world.
(Flicia Scwartz. Russia’s Sergei Lavrov trades barbs with western officials at UN Security Council. Financial Times. September 22, 2022.)


記事のタイトルで使われている、"barb"は「とげのある言葉」という意味です。

もっぱら、


trade barbs
exchange barbs


のようなフレーズで用いられます。

"barb"を辞書で引くと、針や鏃(やじり)の一部が逆方向に反り返っている部分(あご、とか、かえり、と呼ばれる部分)を指すとあります。

つまり、とげ(棘)のようなもので、これは有刺鉄線(barbed wire)という単語でも馴染みがあると思います。

ところで、語源に目を向けると、"barb"はラテン語でひげを意味するbarbaから来ているそうです。

ひげと棘。ちょっと質感が違いますが、形状は近いものがありますね。

ちなみに床屋を指す"barber"も同じラテン語から来ています。


2022年9月22日木曜日

by the skin of one’s teeth

ウクライナの戦争で、ロシア側の捕虜になっていたイギリス人の兵士らが釈放されました。捕虜交換によるもののようです。


A Briton who was threatened with execution after being captured by Russian forces during the siege of Mariupol has been released alongside four other Britons and five international prisoners after the intervention of Saudi Arabia.

Aiden Aslin and “the other British prisoners of war held captive by the Russian authorities” were already on their way back to the UK, said Aslin’s MP, Robert Jenrick, after being flown from Russia to Saudi Arabia.

(中略)

“We just want to let everybody know we are out of the danger zone,” Aslin said in a video filmed on a plane with Pinner beside him. “By the skin of our teeth,” Pinner added, and both men thanked those who had supported them during their detention.
(Dan Sabbagh. Aiden Aslin among 10 international ‘prisoners of war’ released by Russian authorities. The Guardian. September 21, 2022.)


釈放された英兵のコメントが引用されていますが、


By the skin of our teeth


とあります。

これは、命からがら、という意味で、辛うじて死刑を免れたという英兵の心境を語っています。

それにしても、変わったフレーズです。歯(tooth)に皮膚(skin)はありませんから。

研究社の新英和大辞典によると、この表現は旧約聖書ヨブ記に由来するとあります。

富豪であったヨブがサタンのために様々な苦難に苛まれる話ですが、ヨブ自身がそのことを語る19章にこの表現が出てきます。該当箇所を引用します。


骨は皮膚と肉とにすがりつき
皮膚と歯ばかりになって
わたしは生き延びている。
(新共同訳)


2行目の「皮膚と歯ばかりになって」というところが該当すると思われます。

つまり、皮膚(skin)と歯(teeth)で、歯の皮膚(skin of teeth)とはなっていません。

この「皮膚と歯ばかりになって」という部分は、英語では、


And I have escaped by the skin of my teeth.
(King James Version)


となっています。

研究社新英和では、原語の意味は不詳、とお茶を濁したような解説に留まっていますが、恐らくは聖書の原語(ヘブライ語)を逐語訳すると"skin of teeth"となってしまうのだろうと思われます。

残念ながら、ヘブライ語の知識がありませんのでこれ以上は分からず、話はこれで終しまいです。


2022年9月21日水曜日

You can’t have your cake and eat it.

トランプ元大統領のMar-a-Lagoの私邸から、大統領職にあった際の機密文書がFBIに押収された問題で、司法当局による審理が行われています。

本来このような機密文書が私的に取り扱われることはあってはならないものですが、トランプ氏側は機密指定が解除されたものであると強弁しているようです。


NEW YORK — The senior federal judge tasked with reviewing the materials seized by the FBI from Donald Trump’s Mar-a-Lago estate sharply questioned the former president’s attorneys Tuesday during their first hearing in his courtroom.

Judge Raymond Dearie repeatedly challenged Trump’s lawyers for refusing to back up the former president’s claim that he declassified the highly sensitive national security-related records discovered in his residence.

“My view of it is: you can’t have your cake and eat it,” said Dearie, the “special master” picked by U.S. District Court Judge Aileen Cannon to vet Trump’s effort to reclaim the materials taken by federal investigators.
(Special master to Trump’s lawyers: ‘You can't have your cake and eat it’. Politico. September 20, 2022.)

 
しかしながら、機密指定が解除されたという証拠を示すよう要求する司法当局に対し、トランプ氏側は証拠の提示を拒否、審理が膠着状態になっているようです。

司法当局の判事のコメントが引用されています。


you can’t have your cake and eat it


このフレーズは諺で、ケーキは食べたら無くなる、という意味ですが、?!

文字通りには、ケーキを持ち(所有し)ながら食べるということは出来ない、という意味です。分かりますか?

つまり、ケーキ(美味しいもの)は食べたら無くなるのだから、食べたしまったのにまだケーキを手元にあるということはないよ、という、子供に言い聞かせるような内容の話です。

言わんとするところは、ある事について、都合の良いところだけを取ろうとすることはできない、ということです。

記事のコンテクストに当てはめるならば、トランプ氏側が機密文書に関して違法性の無いことを主張しながら、その証拠を示さない、というのは矛盾している、ということであると解釈できます。また、そのような態度、姿勢に呆れているというような響きがあります。

辞書では、"have one’s cake and eat it too"という形でも載っています。

辞書の例文を。


They seem to think they can have their cake and eat it too by having excellent schools for their son without paying high taxes.
(Merriam-Webster Dictionary)


日本語でいうと、無理を通せば道理が引っ込む、とでもいうところでしょうか。


2022年9月20日火曜日

choreograph

9月19日、故エリザベス女王の国葬がロンドンのウェストミンスター寺院で厳かに執り行われました。各国の元首や大統領など500名あまりを含む、2000名以上の要人が参列したそうです。

米国からはバイデン大統領夫妻が出席しましたが、大統領専用車での移動に際して、渋滞に巻き込まれ遅刻したと報道されています。


He may be the world’s most powerful man but the apparent late arrival of the US president, Joe Biden, and his wife, Jill, was not allowed to disrupt the finely tuned choreography of the late Queen’s funeral.

Rather than being ushered immediately to their seats on their arrival at Westminster Abbey, the first couple, aged 79 and 71, had to be gently told they would need to stand and wait as a procession of George and Victoria Cross-holders went ahead of them down the nave of the abbey.
(Daniel Boffey. Joe Biden forced to wait for seat after apparent late arrival at Queen’s funeral. The Guardian. September 19, 2022.)


バイデン夫妻が到着した際には既に式典が始まっていたために、夫妻はしばらく待たされたそうです。厳かな式を中断させないためにです。

記事では、


not allowed to disrupt the finely tuned choreography of the late Queen’s funeral


とありますが、"choreography"という単語に注目したいと思います。

バレエやダンスの振り付けを意味しますが、そういった振り付けが一挙手一投足の子細に渡るものであるように、非常に緻密、綿密に計画することを意味するのに用いられます。

厳かな式典でのミスは許されませんから、多方面に渡る膨大な数の関係者がこの一大イベントの綿密な計画に携わり、神経をすり減らしたことでしょう。

今回の報道では"choreography"、"choreograph"という単語を用いているものが目立ちます。


Once they finally arrived outside Westminster, the president and first lady were forced to wait to take their seats so they didn’t interrupt the painstakingly choreographed funeral.
(Emily Crane. Biden sits 14 rows back at Queen Elizabeth’s funeral. New York Post. September 19, 2022.)


5,949: Military personnel deployed throughout the meticulously choreographed operation that began with the queen's death on Sept. 8 at her Balmoral Estate in the Scottish Highlands.
(By the numbers: Facts and figures about the queen's funeral. ABC News. September 19, 2022.)


The Choreography of Public Mourning
(New York Times)


"choreograph"という単語は、舞踊を意味するギリシャ語khoros(ラテン語chorus)に、-graph(記述する)という接尾辞が付いたものです。

ところで、これらのギリシャ語、ラテン語はchorus(コーラス、合唱)の語源でもあります。

ギリシャ語khorosの語源は不詳のようですが、ギリシャ劇におけるコロスは、劇の解説などを担う役割で、その説明というのは言葉によるものや、合唱による音楽であったりしたもので、このことからchorusは音楽の合唱を意味するようになったそうです。

なお、今回のようなコンテクストで用いられる"choreograph"と同義の単語に、"orchestrate"があります。

オーケストラを指しているのはいうまでもありませんが、"orchestra"という単語もギリシャ劇における合唱隊(コロス)が位置する舞台の位置を指す名称でした。

今回のようなコンテクストで同じような意味合いで用いられる"choreograph"や"orchestrate"といった単語が、いずれもギリシャ劇に由来する単語というのは興味深い一致ですね。


2022年9月19日月曜日

eyewall

敬老の日の3連休、いかがお過ごしだったでしょうか。

大型の台風14号が昨日鹿児島に上陸し、列島沿いに北上を続けています。折角のお休みの予定が台無しになってしまったという方もおられるかと。

日本の台風のニュースは海外でも報じられています。


Typhoon Nanmadol made landfall in southwestern Japan on Sunday night, as authorities urged millions of people to take shelter from the powerful storm's high winds and torrential rain.

The storm officially made landfall around 7 pm local time (1000 GMT) as its eyewall arrived near Kagoshima city, the Japan Meteorological Agency (JMA) said.
('Dangerous' Typhoon Nanmadol Slams Into Japan. AFP. September 18, 2022.)


"eyewall"という単語を初めて目にするように思います。

台風の目とはよく言いますが、"eyewall"は聞いたことがありません。

辞書を引くとちゃんと載っていて、


台風の目の壁


なんだそうです。

「台風眼の外壁」(研究社新英和大辞典)ともあり、台風の目の周囲の荒れ狂っているじょうご形の雲の層、という説明があります。

台風の目、台風眼(たいふうがん)は"eye"、その周りは"eyewall"ということで、別のものですが、気象予報などでこの"eyewall"を聞くことは少ないように思います。

時期を同じくして、中米でのハリケーン被害の記事を見かけましたが、ここでも"eyewall"が使われています。


Both microwave satellite and traditional radar from Puerto Rico show a formative eyewall wrapping nearly entirely around Fiona’s deepening center, with its strongest winds roughly 35 miles to the northeast and less than 50 miles south of Puerto Rico.
(Michael Lowly. Fiona almost a hurricane, bearing down on Puerto Rico. Local10.com. September 18, 2022.)


台風の目は無風と言われますが、目の壁は暴風域です。早く遠くに去ってもらいたいものです。


2022年9月16日金曜日

The Queue

故エリザベス女王の棺がウェストミンスターホールに安置され、国民の弔問がテムズ川沿いに長い列をなしていると報じられています。

昨日取り上げた記事ではその長さ、約5キロということで、それだけでも驚きでしたが、今日読んだところでは更に延びて7.5キロということです。

この長い行列は、"The Queue"、また、ロンドン市内の鉄道路線に模して、"Elizabeth line"とも呼ばれ始めたようです。日増しに長くなる行列に対して、イギリス政府は行列の状況をリアルタイムで伝えるトラッカーを出しているそうです。

ということで、今日の1語は、

queue


です。


We are talking, of course, about the queue which Britons must join in order to pay their respects to Queen Elizabeth II. This is not an ordinary line. It has taken on symbolic meaning, a ritual to be undertaken, an embodiment of the national mood. It is, in short, The Queue.

It snakes from Westminster Hall, where the late monarch's body is lying in state, for miles along the south bank of the River Thames. It stretches past landmarks such as the London Eye (constructed at the turn of the millennium), the Royal Festival Hall (opened in 1951, the year before Princess Elizabeth's accession to the throne) and the Globe theater (a throwback to a previous Elizabethan age). Plans are in place for it to be as long as nine miles, or 14.5 kilometers.
(Ivana Kottasová. The Queue to end all queues: Brits do what they do best as they pay respects to Queen. CNN. September 15, 2022.)


"queue"という単語はフランス語cue、更に遡るとラテン語caudaですが、これは尻尾(tail)の意味です。

報道によれば、国葬が行われる19日月曜日までの丸4日間は、24時間弔問を受け付けているということです。果たして行列待ちをしている全ての人が女王との最後のお別れをすることができるのか気になるところですが、並んでいる人の中には、ウェストミンスターホールに辿り着くのが目的というよりも、列に加わることでこの歴史的な瞬間を共有したいという思いの人もいるようです。

"The Queue"は最長で14.5キロを見込むそうですが、最後尾を示す担当者の設置はもちろんのこと、割り込みや混乱が起きないように、人員を配置したり、リストバンドで管理するなど、大変なことになっているようです。

ギネスレコードに載る予定は無いそうですが、未だかつてない行列("The Queue to end all queues")は女王の逝去とあわせて後世に語り継がれることでしょう。



2022年9月15日木曜日

catafalque

先日死去したエリザベス女王の棺はバッキンガム宮殿からウェストミンスターに移送され、正装安置(lie-in-state)されました。


LONDON (AP) — The coffin of Queen Elizabeth II left Buckingham Palace for the last time Wednesday, borne on a horse-drawn carriage and saluted by cannons and the tolling of Big Ben, in a solemn procession through the flag-draped, crowd-lined streets of London to Westminster Hall. There, a steady stream of mourners paid their respects to Britain’s longest-reigning monarch.

(中略)

At 900-year-old Westminster Hall, where the queen will lie in state until her funeral Monday, crowds shuffled past her coffin well into the night.
(Queen Elizabeth II lies in state as throngs pay respects. The Associated Press. September 14, 2022.)


国葬が行われる9月19日まで、丸4日間に渡り安置されるそうで、弔問に訪れるイギリス国民の列はテムズ川沿いに約5キロにも及んだそうです。

記事ではその様子が写真特集で組まれており、興味深く拝見しました。

特に印象深いのは、ウェストミンスターホールに安置された棺を撮影したもので、棺は雛壇のような台座に安置され、更に棺の上には王冠が置かれています。台座の四隅を儀仗兵が恭しく囲んでいます。

この台座、棺台のことを、


catafalque


と呼ぶらしいことを、同じくAPの別記事で知りました。

The coffin of Queen Elizabeth II on its purple-draped platform — a catafalque — is the fixed point at the center of the vast medieval hall, the oldest part of Britain’s Houses of Parliament. Around it, people flow in two lines in a silent river of humanity.
(Jill Lawless. Queen is mourned with silence in the busy heart of London. The Associated Press. September 13, 2022.)


初めて聞く単語ですが、こんなニュースでなければ目にすることもないでしょう。

辞書を引くと、"catafalque"という言葉はラテン語からイタリア語を経てきたものだとありました。

"catafalque"のcata-というのは、"catacomb"(地下埋葬所)という単語にも見られる接頭辞なんですが、ギリシャ語では下(down)を意味するこの接頭辞が"catafalque"にも使われているのは語源的にはよく分からないところがあるそうです。

一方、「やぐら」のような構造は、足場や処刑台を意味する"scaffold"と意味合いを同じくしているという解説が辞書には見られます。


2022年9月14日水曜日

maverick

今日の朝刊で、フランスの映画監督の巨匠、ジャン=リュック・ゴダールの死去を知りました。(小生、大学生の頃、ゴダールの映画にかぶれておりました・・・。特に好きな「気狂いピエロ」の主演女優だったアンナ・カリーナさんが亡くなったのは約3年前でした。)

91歳でこの世を去ったゴダール氏の死因は朝刊の記事では不明とあったところ、海外メディアの記事を拾い読みしていると、本人の意思による安楽死だったと報じられています。

ゴダール氏はスイスの田舎で余生を送っていたようですが、スイスでは安楽死が一定の条件下で認められているということがあります。


Jean-Luc Godard, the maverick French-Swiss director who revolutionised post-war cinema in Europe, died by assisted dying, his lawyer has confirmed.

The medical report on the death of the 91-year-old director said he had chosen to end his life. He “had recourse to legal assistance in Switzerland for a voluntary departure” because he was “stricken with ‘multiple incapacitating illnesses’”, Godard’s legal council, Patrick Jeanneret, told AFP.

The influential director was said by his family to have died “peacefully at home” with his wife, the Swiss film-maker, Annie-Marie Miéville.
(Angelique Chrisafis. Jean-Luc Godard chose to end life through assisted dying, lawyer confirms. The Guardian. September 13, 2022.)


さて、映画界の巨星とも言うべきゴダール氏については、様々に表現されていて、


French cinema legend
A genius
Cinema’s north star
French New Wave icon


など、色々な言葉で言われていますが、引用したガーディアン紙では、


maverick


とあります。

この"maverick"というのは異端者とか反体制派、一匹狼、といった訳語があてられています。

特定の団体やグループに属さない、というのがその根底にあるのですが、"maverick"は元々は人の名前だったそうです。


Possibly after Samuel Augustus Maverick (1803-1870), American cattleman who left the calves in his herd unbranded
(American Heritage Dictionary)


アメリカのテキサス州にいたSamuel Maverick氏は貸した金の弁済に受け取った子牛400頭を、所有者を示す焼き印をすることなく放置していたそうで、大半を他の家畜農家に取られてしまったという逸話で知られます。

そうしたことから氏の名前は、独自のやり方をするひと、普通の人ならやらないようなことをする人の代名詞のように使われるようになったということです。

ゴダール監督は既成の映画文法を破壊したと評されますが、その斬新さは現代にも色褪せることがないとも言われています。

久し振りに、ゴダール作品が観たくなりました。


2022年9月13日火曜日

have one’s hands full

9月8日に逝去したエリザベス女王の後を受けてチャールズ3世が即位しましたが、先行きは甚だ不穏なものがあるようです。

国民的な人気と信頼を勝ち得ていた女王に対し、チャールズ王の方はどうかというと、そこまでの人間性というか人間力というか、そういった面で微妙だという見方があるようです。

以下に引用する記事で取り上げられているのは、英国に限らず、世界中に広がる英連邦諸国をどう束ねるか、という悩ましい問題です。


When Queen Elizabeth took the throne at the tender age of 25, the sun was only just beginning to set on the British Empire.

Now, as she is laid to rest, the monarchy’s dominion is less vast and the allegiance of her subjects more voluntary — but it is still globe-spanning. At her death, Queen Elizabeth was the head of state in 15 countries and the ceremonial head of the much wider Commonwealth, presiding over 2.5 billion people from Canada to Australia, Jamaica to Ghana, Pakistan to Fiji.

But as her septuagenarian son King Charles III takes over, the prospects for holding together this vast realm look grim.

The colonies over which the House of Windsor once ruled are now the Commonwealth, a loose collection of 56 member states that occasionally benefit from the British state. But many are restless, and the loyalty and respect that their governments pledged toward Elizabeth will be tested by a new monarch who is more political and less regal.
(Maggie Miller. The queen's death opens the floodgates on self-rule campaigns. Politico. September 11, 2022.)


英連邦として英国王を君主として戴くオーストリアやカナダを始め、かつて植民地であった国家から構成されるコモンウェルスの存続が危ぶまれるということのようです。

引用した記事の小見出しに、


King Charles III will have his hands full stopping former British colonies from declaring independence from the crown.


とあります。

"have his hands full (〜ing)"というのは、


〜するのに手一杯である


という意味の慣用句です。

オーストラリアではかつて国民投票が行われたこともあり、女王の死を契機に、コモンウェルスからの離脱ドミノが起きるかも知れないという予測はあながち的外れでもないようです。


2022年9月12日月曜日

coasters

先週、グーグルが20%の生産性改善を目標に掲げたという記事を読みました。景気低迷と、減少傾向にある広告収入などを背景として、安穏とはしていられないという危機感があるというような話だったかと。

関連して、今日は以下のような記事を見かけました。


'Rest and vest' may just be the worst-kept secret in Silicon Valley. Also known as 'coasters', these are institutional employees, typically senior engineers at big tech companies like Google and Facebook/Meta, who have it easy in their job and who hang about on company rooftops shooting the breeze with their fellow coasters, all while collecting a 7-figure paycheck and an even healthier stock.

The tech Fat Cat narrative earned a joking reputation when HBO's "Silicon Valley" did a bit on it. In the show, Nelson "Big Head" Bighetti gets a promotion at the tech giant Hooli, the fictional company inspired by Google. Bighetti wasn't assigned to any project and instead he chooses to squander his days with fellow resters-and-vesters, getting rich while doing little to nothing.
(Google's 'Rest and Vest' Days for Sr. Employees Are Over, Says CEO. It's a Brilliant Idea. Inc. September 11, 2022.)


取り上げるのは、


coasters


という表現です。

記事の内容はというと、グーグルなど、シリコンバレーの儲かっている企業のお偉いさんを皮肉ったもので、"rest and vest"に至っては、汗水流して働かなくても恩給に預かることのできる、まことに結構な身分を指していると思われます。

"coasters"については、辞書にそれらしき意味合いは確認出来ず、海岸沿いに住む人、とか、ローラーコースターのことくらいしかありませんが、動詞の"coast"に、


to move along without or as if without further application of propulsive power (as by momentum or gravity)

to proceed easily without special application of effort or concern
(Merriam-Webster Dictionary)


とあるのがヒントになります。

つまり、順風満帆な企業のお偉方というのはそういうものなのでしょう。大した仕事もしていないのに、生活も身分も保証されているのです。


It's not just fiction. Reports and interviews with actual, real-life coasters at the likes of Google, Meta, and Microsoft say it happens more often than you think. "My days began at 11 and I took long lunches," laughed one former Googler.
(ibid.)


尤も話はそこで終わらず、グーグルも生産性改善が必至ということで、"coasters"も生き残れるかというところだそうです。



2022年9月9日金曜日

Do or die.

夏場のニュースを見ていますと、海水浴場ではサメ、池などではワニに襲われたという記事をよく見かけます。

特にワニに襲われるというのは日本ではあまり聞くことが無いですが、今日読んだ記事では、ワニに腕を噛みちぎられた男性のことが書かれていました。これほどの被害はワニによる被害の中でも珍しいそうです。


BRADENTON, Fla. - Florida Fish and Wildlife is reporting 22 alligator incidents so far this year. Eric Merda is among those who have survived a gator attack.

(中略)

The alligator grabbed the outside of Merda's arm, and he said it snapped his arm backwards and tried pulling him under the water three times. Merda said he kept kicking, and eventually, the gator let him go. 

"It's do or die. Do you want to live or die. I was given the opportunity to make a chance, and I decided to live," he said.
(Kimberly Kuizo. 'It's do or die': Man loses arm after surviving alligator attack at Lake Manatee. Fox 13 News. September 6, 2022.)


男性は灌漑の仕事に従事中、森の中で道に迷い、やむを得ず池を泳いで渡ろうとしたところ、途中でワニに噛みつかれたそうです。

腕を持っていかれそうになり、


do or die


の格闘の末、何とか生き延びた、という顛末です。

やるか、やられるか、という状況だったのだろうと思われます。

この"do or die"というフレーズは、辞書では、


死ぬ気でやる
必死の努力をする;のるかそるか


と載っています。

また、ハイフンで繋いで、形容詞のように用いられ、


do-or-die battle(のるかそるか、一か八かの戦い)
do-or-die expression(必死の形相)


などのように用いられます。


2022年9月8日木曜日

temporal thermometer

久しぶりに、「あれを英語で?」のコーナーです。

コロナ禍のせいで、施設などの利用に際して、入口で体温を測定されるということがほとんど常識になってしまいました。職員の方がやって来て、額にかざす体温計で測定する、あれです。

日本語では、非接触型体温計とか言うそうですが、英語では何というかご存知でしょうか?


(CNN) A new study finds that temporal thermometers -- used to measure body temperature on the forehead -- may be less accurate than oral thermometers at detecting fevers among hospitalized Black patients.

Undetected fevers could lead to delays in medical care, according to the study, published Tuesday in the medical journal JAMA.

Temporal thermometers grew in popularity during the pandemic, and this isn't the first time that a medical tool important for evaluating Covid-19 patients has been found to not work as well as it should in Black patients.
(Jacqueline Howard. Forehead thermometers may be less accurate at detecting fevers in Black people, study finds. CNN. September 07, 2022.)


答えは、


temporal thermometer、もしくは
forehead thermometer


でした。

この非接触式体温計、"temporal thermometer"について、黒人では正確な体温が得られないという最近の研究があるそうです。

さて、非接触式体温計を指す英語についてですが、"forehead thermometer"は説明の必要もないと思います。

一方、"temporal thermometer"についてはどうでしょう?

"temporal thermometer"の"temporal"は、こめかみ、側頭部を意味する"temple"の形容詞形とでも言うべき単語です。

ところで、"temporal"には、時間に関しての意味合い、一時的な、という意味もあり、解剖学用語の方より、まずこちらを思い浮かべるのではないでしょうか?多くの辞書では、これらの意味は別の見出し語として取り扱われています。

時間に関する意味合いはもちろん、ラテン語で時を意味するtempusに由来しており、カタカナのテンポ(tempo; イタリア語)もここから来ています。

ややこしいのですが、解剖学用語の"temple"も同じラテン語tempusから来ているんですね。

こめかみ(temple)と時間(tempus)に一体何の関係が?と思うでしょう。

ラテン語からさらに印欧祖語にまで遡ると、*temp-という語根は、引き伸ばす、また引き伸ばした(もの)(stretch, extend)という意味だそうです。

これが、一方では時間という概念になり、一方では頭蓋骨周りの頭皮(頭蓋に密着して張り付いている部分)、つまり側頭部を意味するようになった、と言われています。

興味深いですね。

ちなみに、眼鏡のツルの部分をテンプルと言いますが、これもこめかみに沿っている部品にということで、"temple"という名称になっているものです。

最後に、今回の件で知ったのですが、非接触型体温計は額(forehead)で測るものと、こめかみ(temporal)で測るものとに分かれるそうですので、"forehead thermometer"と"temporal thermometer"は厳密には別物ということになります。




2022年9月7日水曜日

own up

"own"という単語について、形容詞としては、(他人のものではなく)自分自身の、また動詞としては、所有する、という意味をまず思い浮かべると思います。

ところが、動詞としては、認める、承認する、という意味があり、特に自分のものであると認知する、という意味から、告白する白状する、という意味もあります。


The mother of Olivia Pratt-Korbel paid tribute to her little shadow' in an emotional video where she pleads with those responsible for her daughter's death to 'own up'.

Cheryl Korbel, whose nine-year-old daughter was shot in their home in Dovecot, Liverpool, broke down as she recalled how much she loved hearing little Olivia talk. 
(Matt Powell. Olivia Pratt-Korbel's mother breaks down in emotional plea for her daughter's killer to come forward and 'own up'. Daily Mail. September 6, 2022.)


つまり、acknowledgeやadmit、confess、といった動詞と同義に用いられます。

自らに責がある、という意味では、


own up
own to


という動詞句の形でよく使われます。

2022年9月6日火曜日

We will deliver.

イギリス労働党の新党首にエリザベス・トラス氏が選出されました。退任するジョンソン氏の後任として首相に就任、サッチャー氏、メイ氏に次ぐ、史上3人目の女性首相の誕生です。

かねてトラス氏の優勢が報じられていましたので特に驚きはありませんが、リーダーとしてはこの6年間で4人目と聞くと、他所ごとながら、今度は果たしてどれくらい持つのかなという気もします。

インフレ対策やイギリス国内で高騰する光熱費への対処など、課題は山積しているからです。


Double-digit inflation, a looming recession, labor unrest, soaring household energy bills and possible fuel shortages this winter — all will confront Ms. Truss as she moves into 10 Downing Street. She also must repair a party deeply divided after Mr. Johnson’s turbulent three-year tenure, which peaked in 2019 with a landslide general election victory but descended into unrelenting scandals after that.

In a businesslike speech to a party gathering after her victory was announced, Ms. Truss promised a “bold plan” to lower taxes and bolster the economy, adding: “We will deliver, we will deliver and we will deliver.”
(Liz Truss to Replace Boris Johnson as Prime Minister. New York Times. September 5, 2022.)


トラス氏は物価高対策を急務とし、税負担軽減を公約に掲げました。党首選勝利後のコメントでは、大胆な計画(bold plan)を実行すると約束し、


We will deliver.


と、言ったそうです。(三度に渡って強調したところに決意が表れているというところでしょうか。)

この、"deliver"という動詞については以前、"deliver on"というフレーズを取り上げたことがあるのですが、


期待にそむかない;(約束・誓いなどを)立派に果たす
(研究社新英和大辞典)


という意味です。

今日改めて取り上げようと思ったのは、"deliver"という単語の語源についてです。

ラテン語deliberareから来ているのですが、その意味は、自由にする(to liberate)、というものです。また、ラテン語liberは、拘束されない、自由な、という意味の形容詞であり、英語ではliberalやlibertyといった単語につながっています。

従って、"deliver"という動詞にも、救い出すという意味が残っています。また、児を出産するという意味の"deliver"も同様です。

一方、カタカナのデリバリーという言葉に見られる、配達、送達(する)という意味があります。また、(身柄などを)引き渡す、明け渡す、といった意味は、自由にする(to liberate)という本来の意味とは相反していますが、約束を果たすという意味はここから発展したものだろうと思われます。

"deliverable"というのは、引き渡しが可能な、という意味ですが、ビジネスの用語としてはほとんど名詞化して、最終成果物、納品物、を意味することが多いです。こちらも約束を果たす、という意味から来ているのでしょう。

トラス新首相は果たしてイギリス国民の声に応えることができるのか?

"We will deliver, …"の行方が注目されます。


2022年9月5日月曜日

put hay in the loft

英・保守党の党首がいよいよ決まろうとしています。一方、新しい党首の選出に伴い、表舞台を去ることになるジョンソン首相の去就が注目されています。

側近などのコメントによれば、辞任以降も一定の影響力を持つだろうと言われており、今後も何かきっかけがあれば復活を目論んでいてもおかしくないと言われています。


After three years of turbulence, scandal and an extended period of purgatory, prime minister Boris Johnson will finally quit Downing Street on Tuesday, leaving behind a job he had coveted since childhood — but few believe he will fade quietly into political obscurity.

Johnson has told friends he could earn millions in his first year out of office, and his allies believe he could make a comeback once he has, in the words of his ally Lord Jonathan Marland, “put hay in the loft”.

Despite being out of power, Johnson’s allies think that as a backbench Tory MP, with a host of media platforms and a strong and strident base among party activists, he will continue to wield vast influence on British politics.
(What next for Boris Johnson? Financial Times. September 4, 2022.)


側近のコメントが引用されているのですが、その中で、


put hay in the loft


というフレーズが出てきます。

これは何と訳したものでしょうか?

いくつかの辞書を引いてみましたが、そのものズバリのエントリはなく、意味を想像します。恐らくは慣用句の類と思われるのですが、然程定着していないためなのか、見当たらないのです。

直前の内容から、お金の話であることは想像がつきます。実際、"hay"には少額のお金という意味があります。

同じ話題の別記事を参照したところ、やはり同じ発言を引用しており、下記のようなくだりがありました。


Lord Marland, a former trade envoy, told the BBC last week that Mr Johnson wants to “go and put hay in the loft” after he leaves office.

“As he said to me the other day, he wants to go and put hay in the loft, in other words to build up his bank balance so that he can afford to pay for the lifestyle that he has created,” he said.
(Dominic McGrath. Boris Johnson expected to skip Conservative Party conference. Yahoo! News. September 5, 2022.)


やはりお金の話ですね。

"put hay in the loft"を文字通りに訳すならば、ロフトに干し草を置く、となりますが、ロフトとは納屋の2階のことで、家畜の飼料にする干し草を蓄えておく場所です。

干し草(hay)に縁の無いない生活をしている人間には実感が湧きにくいところですが、家畜を養うために蓄えておく、必要時に備えておくということでしょう。

干し草(hay)に関しては、この他にも、寝床("hit the hay")や好機("make hay of〜")などの意味もあります。


2022年9月2日金曜日

defenestration

ロシアの大手石油会社会長が不審死を遂げたという記事からの引用です。

入院してていた病院の6階から転落死したそうですが、ウクライナ侵攻に批判的な発言をしていたために闇に葬られたのではないかと言われています。


The chairman of Russian oil giant Lukoil, who along with his company had criticized the Ukraine invasion, reportedly died Thursday after falling from the sixth-floor window of a hospital in Moscow.

Ravil Maganov died in what sources are calling a possible suicide after his body was found on the ground of Moscow's elite Central Clinical Hospital, according to Russian news reports.
(Jon Brown. Russian oil executive who criticized Ukraine invasion dead after reportedly falling out of hospital window. Fox News. September 1, 2022.)


政権に批判的な起業家や活動家が不審死する例はロシアではよくあります。その筋に詳しい専門家によれば、事故や自殺に見せかけて抹殺するのは、プーチン政権の「お決まりの」やり方だそうです。


Former Defense Intelligence Agency officer Rebekah Koffler, author of the book "Putin's Playbook," told Fox News Digital that "we will never know exactly what happened to Maganov," but noted that death by defenestration is "standard Russian intelligence playbook" regarding the doctrine of "wet affairs," the translation of a Russian term referring to operations that spill blood.
(ibid.)


さて、今回の転落死は、"defenestration"と表現されています。

"defenestration"という単語ですが、ラテン語で窓を意味するfenestraに、分離を意味する接頭辞de-がついたものです。

つまり、窓から放り投げる(放り出される)という、甚だ生々しい表現であります。

大抵の辞書に載っていると思いますが、30年戦争の発端となった、プラハでの弁務官窓外放出事件(1618年)により"defenestration"という単語が広く知られるようになったようです。

2022年9月1日木曜日

last-ditch

今日引用する記事は企業の経営再建についての話題です。

アメリカで日用品などの販売を手掛ける店舗チェーンでしょうか、日本には上陸していないようですが、競合に押されて事業が破綻しかけており、既存店舗の縮小や従業員解雇を含む再建が必至という状況だということです。


Bed Bath & Beyond is in deep turmoil. The company is trying to rescue itself and stay out of bankruptcy by shrinking.

The chain said Wednesday that it will lay off approximately 20% of corporate employees, close around 150 stores and slash several of its in-house home goods' brands.

Crucially, the company also said it secured more than $500 million in financing to shore up its ailing financial straits.
(Bed Bath & Beyond is making a last-ditch effort to save itself. CNN. August 31, 2022.)


記事のタイトルで、


making a last-ditch effort


と表現されていますが、"last-ditch"というのは、もう後がない、絶体絶命のという意味です。

"ditch"というのは溝のことですが、戦争では塹壕を指す言葉でもあり、塹壕に落ちることは死を意味します。

Etymology Onlineのサイトを見ていますと、"last-ditch"という表現のルーツは、1672年、オランダ総督であったオレンジ公ウィリアム(ウィリアム3世)がフランスによるオランダ侵攻に際して、降伏を拒否して死を賭して戦う("I mean to die in the last ditch.")、と言ったことに因むそうです。