米NBCニュースの女性キャスターの母親誘拐事件発生から半年が経過しましたが、捜査は依然として進展しておらず、母親の所在も犯人特定に繋がる有力な手掛かりも得られていないという状況は変わっていないようです。
2月の事件発生以降、関連ニュースを関心を以って見ていましたが、報道される内容といえば、誘拐された母親の自宅の防犯カメラ映像に映った、容疑者と思しきマスクで顔面を覆った不気味な男の画像と、送りつけられた2通の身代金要求メールの存在くらいで、事件は迷宮入りした感があります。
このほど、2通のメールの文面が公開されたそうですが、警察当局は犯人特定の手掛かりが得られることを期待しているようです。
On Friday, exactly six months after Nancy Guthrie was abducted, police released two ransom notes in the hope that they would help identify her kidnappers.
(中略)
While the language in the notes might seem straightforward, police said the writer's "distinct linguistic characteristics" may be recognisable.
"There are a number of pieces of information in these notes that just might jar someone to say 'you know, I've heard that'," said Pima County Sheriff Chris Nanos.
A forensic linguist told the BBC it's possible to glean crucial information about a person from just a few sentences.
"It's built upon the premise that we each carry an idiolect, or a word print, of our own that distinguishes our language from others," said William Eggington, a retired linguistics professor from Brigham Young University who is now a forensic consultant.
(How ransom notes could help catch Nancy Guthrie's kidnappers. BBC News. August 4, 2026.)
犯人が書いた身代金要求メールからどういう手掛かりが得られるというのでしょうか?
それは、"idiolect"である、と記事にあります。辞書では、
個人言語(個人がその人生の特定の時期に用いることばの総体)
(研究社新英和大辞典)
とあります。"idiolect"は犯罪捜査に言語学の手法を用いる法言語学(forensic linguistics)の専門用語で、個人が人生の中で身につけた言葉の使い方、表現の癖、みたいなものだと言えます。我々は生きていく中で、独自の言い回しや表現の癖みたいなものを身に付けるようです。
法言語学の専門家によれば、身代金要求メールの文面に見られる特徴、例えば言い回しや能動態、受動態の使い分け、細かなスペルミス、等により、メールを書いた個人の学歴や教養レベルが推測できる他、犯人を知る関係者がその特徴に気がついて名乗り出る可能性も期待できるということです。
"idiolect"という単語の組成は、個人的な、特有な、という意味の接頭辞idio-、及び発話することを意味するギリシャ語legeinに由来する"logos"(言語、ことば)や"dialect"(方言、なまり)から成ります。接頭辞idio-を使った単語としては、特異体質や性癖を意味する"idiosyncrasy"があります。
余談ですが、AI(人工知能)が勤務先でも持て囃されて利用が推奨されていますが、同僚から受け取るメールから、これはAIが作った文面だな、とある程度の推測が出来るように感じています。それはとりもなおさず、メールの送信者であるその人個人の文体と違っていることによるもの、つまり"idiolect"なのですが、同じように感じていらっしゃる方はいませんか?