経営が混乱している米国ヤフー社の新しいCEOに、同社にとってはライバル社でもあるグーグルの元幹部社員だったMarissa Mayer氏が起用されたことが話題になっています。そしてさらに話題を沸騰させることになったのが、同氏が妊娠6カ月であることを公表するツイートでした。
Pregnant Yahoo CEO now 'poster child for working mothers'
Marissa Mayer's pregnancy stirs chatter about the woman who can 'have it all,' but must still face the reality of juggling multiple responsibilities.
As far as Twitter messages go, it didn't seem extraordinary. "Another piece of good news today," tweeted the expectant mom, announcing to her online followers that she and her husband are awaiting a baby boy.
But this wasn't just any excited mom-to-be. This was 37-year-old Marissa Mayer, the newly named CEO of Yahoo – obviously a huge achievement for anyone, but especially for a woman in the male-dominated tech industry. And she was about six months pregnant, to boot.
(Jocelyn Noveck. Pregnant Yahoo CEO now 'poster child for working mothers'. Maine Sunday Telegram. July 22, 2012.)
さて、引用記事のヘッドラインに使われている、"poster child"という表現を今日は取り上げたいと思います。この表現をご存知ですか?
手持ちの英和辞書にはエントリがなかったのですが、意味するところは何となく想像がつくと思います。Merriam Websterではエントリがあり、下記のように定義されています。
1: a child who has a disease and is pictured in posters to solicit funds for combating the disease
2: a person having a public image that is identified with something (as a cause)
この表現はごく最近のものらしく、Merriam Websterによれば1969年が初出だということです。
最初の定義(1)はこの単語の元々の意味です。"poster child"とは字義通り、ポスターや広告を飾る子供の写真のことです。何のポスターかというと、病気や障害を抱える子供たちを写したもので、寄付金や募金を募るものであり、直接的には言及されていませんが、そうした境遇にある子供を、人々の関心に訴えかけるために利用しているというような、何となく後ろ暗いイメージがあるように思えます。
そして2番目の定義ですが、何か(something)に重なる一般的なイメージを持つ人物、とやや硬い印象の定義がされていますが、何かというのは”大義”(a cause)のことであり、ややひねくれた見方をすれば、大義のために世間一般受けするイメージを持つ人物、というようなことになり、恐らく最初の意味が持つ”何となく後ろ暗いイメージ”を引きずっているようにも思えますが、さて皆さんはどう思われるでしょうか。
さて、この"poster child"を何と訳したものでしょうか?
インターネットを検索していますと、”典型”、とか、”広告塔”といった訳が目に付きます。なるほど、という感じがしますが、いまいちしっくりと来ない感じがします。
先に引用したヤフーの女性CEOに関して言えば、"poster child for working mothers"という部分ですが、Mayer氏が大手企業のCEOというキャリアの頂点に立ちながら、同時に妊娠していることを公表し、職場における男女平等の問題や、ワークライフバランスの問題など、女性と仕事を巡るあらゆる問題をぎゅっと凝縮したといいますか、全てを象徴するような、そんな存在になっていることを指していると思われます。”広告塔”はちょっと合いませんが、"典型”は近いかもしれません。が、もっといい表現はないものでしょうか。
"poster child"について、もう少し用例を見てみました。
Still six years away from mass production, the hydrogen-powered Borrego is a poster child for the South Korean government's splashy new plans to build its economic future on green foundations.
(Christian Science Monitor. 2009.)
Borregoというのはエコカーのブランドのようですが、この記事のコンテクストならば、”広告塔”というような訳語も近いかもしれません。
It has become the poster child for the power of social networks, personalized websites where individuals share their profiles and interests with friends and business associates. Social networks are used by two-thirds of the estimated 220 million online users in the USA, says Karsten Weide, an analyst at IDC. An estimated 200,000 new folks sign up for Facebook each day.
(USA Today. 2007.)
この引用記事における、"It"とはフェースブックのことです。"poster child for the power of social networks"ということですが、ここでの訳は単に”象徴”のような日本語になるでしょうか。
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丁寧な解説で分かりやすいです。広告塔、典型、で分かりますが、「先駆者」というのはどうでしょうか。
返信削除コメント有難うございます。なるほど、「先駆者」という訳語になるとポジティヴな印象ですね。コンテクストによってはありうるかも知れませんね。
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