字面を見て分かったような気になっていてその実、意味がちゃんと掴めていないということはよくあることです。
今日出くわした表現、"double down"がそうでした。一体、"double"という基本中の基本の単語でこんなに悩むなどとは思いませんでした。
Apple doubles down on iPad by doubling max storage to 128GB
Apple today doubled the maximum storage space of its fourth-generation iPad to 128GB, and announced it would start selling the new tablet next week.
The Wi-Fi-only 128GB iPad will cost $799, while the cellular-enabled model will run $929. Those prices are $100 more than the corresponding 64GB iPad SKUs.
Apple pitched the increased storage as a business play, citing the iPad's success in the Fortune 500, and running testimonials from several corporations who use the tablet.
(Gregg Keizer. Apple doubles down on iPad by doubling max storage to 128GB. Computerworld. January 29, 2013.)
アップルが新しいiPadを来週から発売するというニュース記事です。新しいiPadは記憶容量が、現在販売されている製品における最大容量(64GB)の倍の128GBだということです。
この記事のタイトルには、"double"が2回出てきます。しかもどちらも動詞です。
"by doubling max storage..."の部分は説明するまでもなく、記憶容量を既存製品の倍の128GBにした、という意味での"double"です。
では、"Apple doubles down on iPad"という部分の、"double"は一体何を言わんとしているのでしょうか?
手持ちの辞書をいろいろ当たりましたが、"double down"を説明したものがなく、意味を掴みあぐねていました。(恐らく読者の方がお持ちの辞書にもこの表現のエントリは載っていないのではないかと思います。)
“倍にする”という意味で使われている後半の"double"と意図的に重ねた表現であることは何となく分かりますが、では何と訳すのか、が分かりません。特に、なぜ"down"なのか("double up"という動詞句のエントリがあるだけに)、分からずにいました。
そこで次はコーパスにあたります。そうしますと、その用例の件数からどうやら"double down"は定着した表現らしいことが分かります。いくつか拾い読みしてみますと下記のような用例があります。
It taught us that high-quality programming can break through the clutter and really engage people in a meaningful way. It also convinced me that we have to double down and launch a full channel that's dedicated to addressing the issues of what's happening to our planet.
(The Associated Press. 2007.)
分かったような分からないような・・・。
色々な用例を読みながら、またググりながら、1時間くらいは悩んだでしょうか、ようやくこの"double down"という表現の正体(!?)にたどり着きました。答えは下記です。
If there's one expression that seems to have taken over the media landscape lately, it's "doubling down." Deriving from the game of blackjack, "doubling down" has taken on a figurative meaning over the past couple of decades: "to engage in risky behavior, especially when one is already in a dangerous situation," as the Oxford English Dictionary defines it. So why is everyone from Mark Zuckerberg to Bill Clinton talking about risk-taking in this way? And when is it considered a good thing?
(Ben Zimmer. Why is Everyone "Doubling Down"? visualthesaurus.comのサイトより引用)
つまり、リスクを取るような危険な賭けに出る、ということのようです。
"double down"が何故このような意味を持つように至ったかについては下記のような説明があります。
In blackjack, "doubling down" is a move that promises a big reward, but only when the player takes a big risk. If you feel confident enough in your chances of winning after being dealt two cards, you can double your bet, but you're only allowed to take one additional card. So when "doubling down" is extended metaphorically, that high-risk, high-reward strategy can be seen as admirably bold or woefully foolhardy — or perhaps a little of both.
(ibid.)
トランプのゲームである"blackjack"において、"double down"とはいわゆる倍賭けをすることを指すようですが、倍賭けはうまく行けば大儲けですが、失敗すれば大損です。つまり、ハイリスク、ハイリターンの行為ということになりますが、それがトランプゲームのコンテクストを越えて使われるようになったのです。
冒頭引用したiPadに関する記事を解釈すると、(アップルの株価が低迷しているという最近の状況下で)新しい製品発売という(株価の回復につながるかはたまたさらに株価をさげるかのリスキーな)賭けに撃って出た、というような意味合いを読みとれるでしょうか。
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ありがとうございます。オーランド銃撃事件に対するトランプ氏の対応表現で使われていました。丁寧な説明ありがとうございます。
返信削除拙ブログがお役に立ちましたならば幸いです。
削除私も、下記の記事における最後の文の意味が分からずこまっておりました。どうもありがとうございました。http://thehill.com/blogs/ballot-box/presidential-races/283863-trump-credits-sanders-he-doesnt-give-up
返信削除面白い記事を沢山、ありがとうございます!ラテン語まで掘り下げていらしてすばらしいと思います~\(^o^)/
返信削除私もdouble downの意味がわからなくて困っていました。なんとなく「腰を据えて取り組む」とかそんな意味かと思っていたのですが、全然違いましたね。
返信削除とても参考になりました。
ありがとうございました。
蘭です。
返信削除面白い単語です。比喩的に、覚悟してより積極的に取り組む意味ですね。2013年にはdouble downをこのようにわかりやすく説明してくれる記事がなかなかありませんが、2020年にググると解説がたくさんありました。
Trump double down disparaging postal ballotsというのがtoday.comにありました。非難を倍加、さらにけなす、自信を持って非難、などでしょうか。
返信削除インチョンのカジノ、ブラックジャック、で何度もdouble downをしてやられた私からするとdouble downはすなわち「やられ」を意味します(笑)。
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