今日は"near miss"という表現を取り上げたいと思います。
日本語でも「ニアミス」と言いますね。飛行機のニアミス、と言えば、飛行機が危うく衝突しかけた(が、すんでのところで回避した)、というような場合に使われますね。
英語では、"near miss"という2語(もしくは、ハイフンで繋いだ"near-miss"という1語)になります。
用例として引用する記事はチャールズ国王が訪問中のYorkで突然卵を投げつけられたというニュースからです。卵は国王に当たらず(missed)、難を免れました。
The near miss with eggs being thrown by a protester shows how vulnerable the King can be on such occasions.
King Charles has been a very accessible figure to crowds of well-wishers. He's been shaking hands, swapping jokes and literally become a hands-on monarch during his walkabouts.
(York: Student arrested after eggs thrown at King Charles. BBC News. November 9, 2022.)
偶然ですが、別記事でも"near miss"という表現にお目にかかりました。
こちらは豪州のニュースで、庭でプール遊びに興じていた2歳児が「危うく」ヘビに襲われそうになった(ものの、母親が咄嗟に助けて難を逃れた)、という内容です。
A home security system has captured the terrifying moment a Melbourne toddler nearly ran afoul of a brown snake, forcing a mother to spring into action.
Daniella Vizzini noticed the venomous brown snake slithering through her Lalor backyard yesterday.
The reptile was metres away from two-year-old Eva who was splashing in the pool completely and utterly oblivious to the danger.
('Ready to strike her': Terrifying near miss in a Melbourne backyard. 9News. November 10, 2022.)
"near miss"という表現はよくよく考えるとおかしな言い回しに思えます。
と言いますのも、"near miss"の"near"は〜に近い、というのが本来的な意味であり、〜しかけた、ほとんど〜(になりかけた)、ということですが、"miss"は外れた、当たらなかった、という意味だからです。チャールズ国王に投げられた卵は結局当たらなかったのです。論理的に言って、ほとんど当たりそうだった(が結局当たらなかった)、と言いたいのであれば、"near hit"と表現するのが適当と言えます。
Merriam-Websterオンラインでは、この"near miss"という表現について考察しています。
読んでいると頭がこんがらがってくるのですが(笑)、実のところ"near miss"という表現は第二次世界大戦中に使われ始めた軍事用語で、それが意味するところは、
(爆撃・射撃などで命中はしないが損害を与えるような)近い当たり、有効な近接射撃、至近弾
(研究社新英和大辞典)
というものだったそうです。
つまり、敢えて命中させない射撃、ということであり、現在使われている「ニアミス」のような意味合いは無かったのですが、第二次世界大戦以降、"near miss"という言葉がよく使われるようになり、結果として命中しなかった、損害を免れた、というような意味合いで使われるようになったそうです。
ところで、チャールズ国王への卵投げつけ事件では、別記事で以下のようなくだりがあります。
A video shows the king shaking hands with several people, when multiple eggs narrowly missed the king's face.
(Caroline Thayer. King Charles III and Camilla hurled with eggs, protester arrested. Fox News. November 9, 2022.)
こちらは、"narrowly missed"となっているものですが、"narrowly"の場合は、きわどい、辛うじて、という意味で、その結果が実際に起きたということを含意しています。例えば、
a narrow victory
narrowly escaped
などがそうですね。
"near"、また"nearly"の場合も"narrowly"に近いものがありますが、それが実際には起きなかった、という含意があるという点で異なるのではないかと思うのですが、現実には両者の用法はほとんど同じようなものになっており、"near miss"という表現同様、論理的云々だけでは片付けられないものがあるように思います。
言葉というものの本質ですかね。
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