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2012年6月25日月曜日

閑話休題 ― ”つるつると回る”口

久しぶりの閑話休題です。

少し前の話になりますが、5月の産経新聞朝刊の単刀直言というコーナーに谷垣禎一・自民党総裁のインタビュー記事が載っていました。そのなかで、谷垣氏が野田佳彦総理大臣を評して、


“首相の口はつるつると回るけれど言葉にはむなしさを覚える”


と発言しているのですが、その“(口が)つるつると回る”という表現が妙にひっかかりました。(全文はこちらで読むことができます。)

舌がよく回る、とか、ぺらぺらと(よくしゃべる)、という表現はよく使われますが、口が“つるつると回る”というような表現を聞くのも、目にするのも初めてだったからです。皆さんは馴染みがありますか?

早速広辞苑を引いてみましたが、“つるつる”の解説としては、


1.動きが、すべるようになめらかなさま。するする。
2.表面がなめらかなさま。また、すべりやすいさま。
(広辞苑第三版)


とあり、物理的な特徴や様態を形容する意味はあるのですが、人の発言や話し方を形容する意味はありません。他にも色々あたってみましたが、“口がつるつると回る”という言い方はやや特殊な表現ではないかと思います。

ひょっとして方言の類かとも思いましたがそうでもなさそうです。

ここで私が英語表現で思い浮かべるのが、"glib"という単語なのですが、ご存知のように"glib"には、


ぺらぺらとよくしゃべる


という意味があります。同義語としては、"fluent"がありますが、"glib"はやや軽蔑的な意味を含んでおり、“口先だけの”といった、不誠実さを匂わせる表現です。

この"glib"の語源はゲルマン語系なのですが、中低ドイツ語の"glibberich"に遡るようです。このドイツ語、"glibberich"は英語で言うと"slippery"(つまり、つるつる滑る)に相当します。

もう1つの連想するのが、"slick"という単語です。この単語も、表面がてかてかした、とかつやつやした、滑りやすい、といった、“つるつるとした”という形容に近いのですが、同時に、


口先がうまい、如才ない


という、発言の不誠実さを表現するのに使われる単語です。

日本語表現と英語表現の共通点(あるいは表現が生まれる上での連想、発想の共通点)とも言えますが、面白いと思いませんか?

“つるつる”という表現でもう1つ思い出すのは、うどんや蕎麦、ラーメンなど麺類を食べる時に、麺を吸い込む様を表現するときに“つるつると”といいます。聞くところによると谷垣氏は大の蕎麦好きでもあるとか。

“つるつる”という表現を使ったのは、方言の類なのか、はたまた、谷垣氏自身に"glib"や"slick"といった英語表現の知識があって、そのイメージから独創したのか、あるいは蕎麦好きが昂じて生まれた表現なのか、興味がつきません。もし機会があれば(ないでしょうが)、本人に直接聞いてみたい気もします。


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