裁判において被告人をはじめとする法廷内の写真撮影が禁じられていることはご存じと思います。
被告人らの人権保護や裁判の秩序維持といったことが写真撮影禁止の理由ですが、報道では写真の代わりに、法廷画家と呼ばれる人が被告人や裁判官をスケッチしたものが取り上げられるのをよく見かけますね。
このような事情は日本のみならず米国でも同様で、耳目を集める裁判の報道で使われるのは法廷のスケッチです。
巨額詐欺事件で罪に問われているトランプ前大統領の公判でも、トランプ氏のスケッチ画がメディアで取り上げられています。
A courtroom sketch artist has responded to a Fox News commentator who called her drawings of Donald Trump a "travesty."
Former White House Press Secretary Kayleigh McEnany joined Fox News' panel show The Five on Monday to discuss Trump's massive $250 million civil fraud trial.
Asked what advice she would have for the former president, she said: "I would advise him to ask for a better sketch artist, because I think that does not look like my former boss."
(Mia Jancowicz. A court artist covering Trump's trial had the perfect response to a Fox commentator calling her work a 'travesty'. Insider. November 7, 2023.)
トランプ氏のスケッチについて、テレビのニュース番組のコメンテーターが、
travesty
とこきおろしたそうです。
"travesty"とはパロディとか戯画という意味です。
コメントの趣旨は、トランプ氏のスケッチは本人に似ていない、もっとマシなアーティストを雇ったらどうか、というもので、"travesty"という言葉の真意は、要は、下手なスケッチ、というところかと思います。
ところで記事でもう一箇所、"travesty"が出てくる箇所があります。
Claiming that New York Attorney General Letitia James' case against Trump is a "travesty of justice," she added that "that sketch is a travesty too, it looks nothing like Trump."
(ibid.)
下手なスケッチというコメントに至る発言の前段とも言える部分ですが、トランプ支持者と思われるコメンテーターは、まずもってこの裁判が、
travesty of justice
と言っています。
ここでの"travesty"はやや意味を異にしていると言いますか、戯画とかパロディという訳語ではしっくりこないものがあります。
英和辞典を引くと正に"travesty of justice"という例が載っているかと思いますが、
正義とは言えないもの
という訳になっています。
"travesty"という単語ですが、スペルに見える、tra- (trans)や、-vest-、という部分にお気づきでしょうか。
これらはラテン語、フランス語を経ているものですが、つまりは衣(vest)を変える(trans)、変装、というのが"travesty"の原義なのです。
つまりは、本当の姿を現したものではない、偽物の、本来の姿を歪めたもの、ということかと思います。
コメンテーターは、自身が支持するトランプ氏に対する裁判自体、正義からかけ離れたものと考え、また法廷のトランプ氏を描いたスケッチも到底受け入れられるものではないと言いたかったのでしょう。
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