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2021年9月21日火曜日

knock-on effect

パンデミックの影響で多くの企業や職場でリモートワーク(在宅勤務)が導入されていることは周知の事実ですが、リモートワークの効率性については議論が喧しいところです。

リモートワークを巡っては、グーグルなどの大手がオフィスへの回帰を呼び掛けたところ、当の従業員からはオフィスに戻りたくないという声が上がるなど、経営側と被使用者側の対立を生みかねない問題となっています。

そのためか、メディアの記事で見かける論調は、リモートワークがもたらすフレキシビリティの増大をを称賛するものがある一方で、リモートワークの非効率性、負の側面を指摘するものとに大別されるように思われます。

マイクロソフト社が同社の6万人の従業員を対象として行った、リモートワークの効率性に関する研究の結果を取り上げている記事を読んでみました。


Whatever managers previous fears about remote work, the pandemic has proved that most knowledge workers can get their daily tasks done just as well from their living rooms as from the office. Study after study confirms most people's personal experience that, at least for those without child care, health, or other challenges, productivity has actually inched up with the advent of widespread remote work. 

Which means working from anywhere is a great thing, and companies don't need to worry about its impacts on performance, right?
(Jessica Stillman. New Microsoft Study of 60,000 Employees: Remote Work Threatens Long-Term Innovation. Inc.com. September 20, 2021.)


タイトルから想像がつくように、内容的にはリモートワークの負の側面を取り上げているものだと思います。リモートワークがフレキシビリティをもたらし、総労働時間としては増加しているものの、果たして?と記事は続きます。


The study, which was just published in Nature Human Behavior, analyzed data on the communications of approximately 61,000 Microsoft employees in the U.S. gathered between December 2019 and June 2020. Crunching the numbers revealed that while hours worked went up slightly when employees shifted to working from home, communication, particularly real-time conversations, fell significantly. 

Switching from a corridor chat to an exchange of emails isn't a one-to-one substitution, and the researchers worry about the knock-on effects of changes to the way office workers collaborate. 
(ibid.)


ここで出てくるのが、


the knock-on effects of changes to the way office workers collaborate


というくだりなんですが、記事を読んでいただくと分かりますが、オフィスでは極めて自然に、また普通に行われていた何気無い会話や交流がリモートワークでは失われ、コラボレーション(協働作業)や創造的な営みの機会が減少する、ということが言いたいようです。(ちなみに、この種の議論に反駁するオピニオンとしては、最近読んだ
3 Myths About Working From Home That Just Aren't True“という記事が興味深いものでした。)

ところで、引っ掛かったのは"knock-on effect"という表現です。

ここで、"knock-on"とは何を言わんとしているのでしょうか。

辞書を引いてみると、「ノックオン」はラグビーの用語でもあるらしいですが、ラグビーを詳しく知らない小生には今ひとつピンと来ませんが、物理学の用語としては、


原子核に高エネルギー粒子が衝突することによって、原子核を構成する一部の核子が核外へたたき出されること
(ランダムハウス英和辞書)


とあり、"knock-on effect"には「連鎖反応」(同辞書)という日本語が充てられていました。

まだ少しピンと来ないものがありましたが、"the effects"(即ち、"knock-on effect")が主語となって、記事は以下のように続きます。


"Without intervention, the effects we discovered have the potential to impact workers' ability to acquire and share new information across groups, and as a result, affect productivity and innovation," they write. "Based on previous research, we believe that the shift to less 'rich' communication media may have made it more difficult for workers to convey and process complex information."
(ibid.)


このくだりは、リモートワークによる働き方の変化が、それが積み重なることで、最終的に生産性やイノベーションに大きな影響をもたらす、ということを言っています。

つまり、オフィスでは同僚と同じ空間で即時の情報交換や意見交換を行っていたものが、リモートワークでは電子メール(やチャット)に頼る形となり、それが積み重なると最終的にはコミュニケーションの仕方が根本的に変わってしまう、ということだと思われます。

Oxford Dictionary of Englishでは、


a secondary, indirect, or cumulative effect


と定義されていますが、"cumulative effect"(累積的な効果、影響)というのは「連鎖反応」よりもしっくりときました。

この"knock-on effect"という表現は結構頻繁に用いられるらしく、検索では多くの記事でヒットしました。

最近の記事から1つ引用します。


A high-profile error can end up having knock-on effects for the way voters perceive a president’s administration’s generally.
(Aaron Rupar. Why Biden’s approval numbers have sagged, explained by an expert. Vox. September 20, 2021.)


こちらの記事では「累積」よりも「連鎖」の方がイメージがつきやすいように思われます。

ちなみに、研究社の新英和大辞典(第五版)では、動詞のエントリにおいて、knock onについて、


(比喩)(ある事物の動きがはずみとなって)<他の事物を>押し進める、駆り立てる、促進する


とありました。「連鎖」の意味に近いようですが、“knock-on effect”の訳語には多少のブレがあるようにも思われます。



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