さすがは訴訟社会アメリカだ、と感心してしまいました。
ドライブスルー店舗で購入したホットコーヒーで膝に火傷を負った夫婦が、店舗を運営する会社を相手取って賠償を請求する訴えを起こしたというニュースです。
Evan Arlington and Stephanie Arlington-Macias bought two cups of coffee and an iced coffee from a Totowa Dunkin’ Donuts on Aug. 25, 2021, according to an April 4 lawsuit they filed in Passaic County.
Arlington suffered second- and third-degree burns after the coffee spilled in his lap at the drive-thru, said the couple’s attorney, William Gold.
Arlington had medical bills, while Arlington-Macias, 37, suffered "a loss of her husband’s aid, comfort, conjugal fellowship and consortium," they claim in the legal filing.
The pair are seeking unspecified damages. Dunkin’ Donuts didn’t return a message.
(New Jersey couple sues Dunkin’ after hot coffee severely burns husband. Fox Business. April 16, 2022.)
熱いコーヒーが膝にこぼれてしまったようですが、どうしてそのようなことが起きたのか、店舗側に明らかな過失があるのか、本人がこぼしたのか、その辺りは他記事も参照しましたがよく分かりません。(しかしながら、1990年代における同様の訴訟でマクドナルド社から億単位の賠償金支払いを受けた女性のケースでは、火傷を負ったのは店舗で購入後のコーヒーを自身が膝にこぼしたことが直接の原因であったことから、今回も同様かもしれません。)
ところで、訴状によれば、火傷の治療費の請求(これは分からなくもない)に加えて、
a loss of her husband’s aid, comfort, conjugal fellowship and consortium
が損害賠償の対象に含まれているとあります。
最後の部分、"consortium"という単語ですが、カタカナでも「コンソーシアム」と書きますけれども、協会とか組合団体という意味で使われるコンソーシアムではありません。
前の部分で"conjugal"などとあるのが解釈の助けになりますが、"consortium"というのは「配偶者権」という意味の法律用語なのでした。
では、その「配偶者権」たる"consortium"の定義はというと、手元にあるOxford Dictionary of Law(Fourth Edition 1997)によりますと、
The right of one spouse to the company, assistance, and affection of the other.
とあり、夫婦のうち一方が他方に対して、同居、扶助や愛情を求める権利、と読めますが、つまりは夫婦間の相互扶助(を頼とする権利)ということになります。
訴訟では、夫が火傷してしまったことで、その妻が本来ならば得られるはずであったはずの夫からの扶助の機会が失われてしまったことを賠償請求の対象としているものです。
この配偶者権の喪失("loss of consortium")というのはアメリカならではの概念だそうで、第三者(今回のケースではドライブスルー店舗)の不法行為により夫婦のいずれかの権利が侵害されることを指します。尤も、ここで不法行為とされるものの代表的なものは不貞行為(不倫など)ということで、アメリカでは自分の配偶者(妻)と不倫関係にある相手を訴えるということがあるそうです。
ちなみに、日本法において「配偶者権」という言葉は無く、似た概念の用語として「貞操権」があるようですが、こちらはあくまでも個人における貞節を保持する権利のことを指すようで、配偶者権とは概念的には少し異なるもののようです。
以前取り上げた"consort"もご覧頂きたいと思いますが、"consortium"という単語のsort-という部分は、"share"を意味するラテン語sorsから来ています。
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