新型コロナウィルス感染症拡大の影響を受けて、主に大学などにおいて対面での講義からオンライン講義への移行が進んでいます。
学生が教室に集合することによる感染拡大リスクを排除するのが狙いですが、賛否両論があることはご存知の通りです。
アメリカにおいてもオンライン講義への移行は進んでいるところですが、トランプ政権がオンライン講義のみを履修する留学生に対しては今後ビザを発給しない、つまり米国内に居住できなくなる、という驚愕の方針を発表し、騒然となりました。
米国ではこれから9月の秋学期スタートを迎える中、留学生が強制退去、あるいは入国拒否の憂き目を見ることになるという恐れがありました。
このような方針の発表は少し前のことで、確か6月末くらいの記事で見たように記憶するのですが、その後、多くの批判を受けて、結局のところ、方針は撤回されたということです。
WASHINGTON – President Donald Trump's administration agreed Tuesday to rescind its controversial rule barring international students from living in the USA while taking fall classes online, a sharp reversal after the White House faced a slew of lawsuits challenging the policy.
A Massachusetts judge announced the decision during a federal court hearing in a case filed last week by Harvard University and Massachusetts Institute of Technology. Judge Allison Burroughs said the universities' request for the court to block the rule was moot because the government agreed to rescind the policy.
Monday, 18 state attorneys general had sued the Department of Homeland Security over the rule, which would have forced foreign students to leave or face deportation if they were enrolled in only online classes this fall, when experts fear expanded outbreaks of COVID-19 cases.
(Trump administration drops rule barring foreign students from taking online-only classes. USA Today. July 14, 2020.)
国土安全保障省を相手取った複数の訴訟が起こされていたようですが、最終的に方針撤回されたことに留学生の皆さんは胸をなでおろしたことでしょう。
記事ではマサチューセッツ州での訴訟の事例について取り上げられているものですが、判事の発言の引用で下記のようなくだりがあります。
...the universities' request for the court to block the rule was moot because the government agreed to rescind the policy.
ここで使われている、"moot"という単語を知らなかったので取り上げました。初めて見るものでした。
辞書を引くと、名詞、形容詞、動詞、それぞれのエントリがあり、どうやら法律に関する用語のようなのですが、いまいちピンときません。
模擬裁判、という意味や、議論の余地がある、非現実的な、仮定の、とか、純粋に学問的にする、等々、お手持ちの英和辞典を見ていただければ感じてもらえると思いますが、記事のコンテクストに当てはめた場合にしっくりとくる訳語が見当たりません。
記事のコンテクストからすると、マサチューセッツ州の訴訟では、今回の政府方針を不当であるという大学側の訴えを審理中であったと推測されますが、
途中で政府がその方針を撤回したため(because the government agreed to rescind the policy)、
訴訟そのもの(the universities' request for the cour to block the rule)が"moot"であると判決した、
というように読めます。
英和辞典ではよく分からないので、American Heritage Dictionaryで"moot"を引いてみると、法律用語の定義として、
Not presenting an open legal question, as a result of the occurrence of some event definitively resolving the issue, or the absence of a genuine case or controversy.
という説明があり、記事ではこれが相当するのではないかと思われます。
つまり、訴えの発端となっていた状況は解消されてしまったので、その根拠を失ってしまった、議論となる問題点が無くなった、ということです。
"moot"という単語の歴史は古く、古英語では法廷を意味する単語だったようです。つまり、実際に訴訟を審理する場であったということです。
その後、この"moot"は、法学生らが仮説上、仮定のケースを審理する「模擬裁判」の意味で用いられるようになったそうなのですが、そのころから、実際の訴訟に相対する概念として、「実際の問題ではない」、「仮想の、仮定の」という意味合いが"moot"に付いてくることになります。
つまり、ある訴訟についてその内容が“moot”である、というのは、もはや訴えられている事実自体が解消されてしまったので検討に値しない、という意味であると解釈することができます。
2020年7月16日木曜日
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