ペロシ米下院議長がウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領と面談したと報じられています。
事前には公表されず、電撃訪問だったようです。同氏がウクライナを離れて隣国ポーランドに移動後になって明らかにされました。
WARSAW, Poland (AP) — A top-level U.S. congressional delegation led by House Speaker Nancy Pelosi praised the “ferocity” and resolve of Ukrainians face to face with their leader in a weekend visit to Kyiv undertaken in extraordinary secrecy.
(Pelosi, in surprise Kyiv trip, vows unbending US support. Associated Press. May 1, 2022.)
APの記事の冒頭部分から引用しましたが、"ferocity"という単語に目が留まりました。と言いますのも、小生が知る"ferocity"の意味ではコンテクストにそぐわないように思われたからです。
この箇所を5回くらい読み直し、また"ferocity"は"ferocious"の名詞形だよな、などと改めて確認もしつつ、辞書を引いたりもしました。
冒頭部分を解釈しますと、ペロシ議長(以下、米議員のウクライナ訪問団)はウクライナ国民の"ferocity"を称賛した、ということになります。
果たして、"ferocity"は褒め言葉(!?)になるのでしょうか。
辞書で確認できる訳語は、
獰猛さ、凶(狂)暴性、野蛮さ、残忍さ
などです。
ロシア軍に対する非難の言葉にはなりそうですが・・・。正直なところ、誤植を疑いました。
ところで、記事を読み進めると、もう一箇所、"ferocity"が使われている箇所があります。
同行したコロラド州議員の発言中に出てきます。
“We have to make sure the Ukrainians have what they need to win,” he said. “What we have seen in the last two months is their ferocity, their intense pride, their ability to fight and their ability to win if they have the support to do so.”
(ibid.)
やはり、"ferocity"はウクライナ国民のことを言っていることが確認できました。誤植ではないということになります。
議員の発言であることからでしょうか、あるいはやや特殊な言い回しであるからでしょうか、冒頭部分では引用符付きとなっている背景とも思われます。
念の為、ペロシ議員団のウクライナ訪問に関する他紙の報道もチェックしてみましたが、"ferocity"という表現が出てくるのはAPの記事(また、APを引用元としているもの)だけで、他では見当たりません。
ところが、APを引用元と明示している記事において、"ferocity"という単語を置き換えたものが見受けられます。
WARSAW, Poland -- A U.S. congressional delegation led by House Speaker Nancy Pelosi praised the courage of the Ukrainian people in remarks during a visit to Poland on Sunday, a day after a surprise trip to Kyiv to meet with President Volodymr Zelenskyy.
APの記事で、
praised the “ferocity” and resolve of Ukrainians
とある部分が、
praised the courage of the Ukrainian people
となっているのです。
これが何を意味するのか、確定的なことは言えませんが、"ferocity"という単語の意味合いがコンテクストに沿うものなのかという疑問があったのではないかと想像します。
"ferocity"と"courage"とでは、意味合いから受ける印象が180度違うといっても過言ではないかと。
改めて"ferocity"をいくつかの辞書で引きましたが、現代英語の用法として褒め言葉になるような意味合いは見当たりません。(尤も、私の調べ得る範囲の限りですので、ご存知の方はご教示下さい。)
語源を辿りますと、"ferocity"は"fierce"という単語と関連があることが分かります。
この"fierce"は野獣を意味するラテン語ferus、またそこから生まれた形容詞feroxに由来しています。このラテン語feroxには、凶暴なという意味と共に、大胆不敵な、勇敢な、という意味があるようです。(研究社羅和辞典)
また、手元にあるオックスフォード英英辞典では、"ferocity"を"fierceness"と定義しており、"fierce"にも獰猛なといった意味はありますが、感情・行動の激しさ、熱心さ(intensity)という意味合いもあり、"ferocious"と比べると中立的です。
当の議員が"ferocity"という表現を使ったのは、恐らくは"courage"と同義、またはウクライナ国民の強さに共感してのことに違いないとは思いますが、興味深い表現だと思いました。
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