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2023年3月30日木曜日

pinch of salt

このところ人工知能(AI)の発達目覚ましく、新聞でAIの記事を度々見かけます。

特に話題なのがChatGPTなるモノではないでしょうか。簡単なテーマを与えれば「作文」をしてくれ、それがあまりに良く出来た内容なのでプロが書いたのと見分けがつかないほどであると聞いています。

こんな技術が当たり前になればジャーナリストやエッセイストの仕事は上がったりとか。

今後、AIの普及で取って代わられる人間の仕事はこれこれであるというような記事も見かけます。

BBCの記事から引用しました。


Artificial intelligence (AI) could replace the equivalent of 300 million full-time jobs, a report by investment bank Goldman Sachs says.

It could replace a quarter of work tasks in the US and Europe but may also mean new jobs and a productivity boom.

And it could eventually increase the total annual value of goods and services produced globally by 7%.

Generative AI, able to create content indistinguishable from human work, is "a major advancement", the report says.
(Chris Vallance. AI could replace equivalent of 300 million jobs - report. BBC News. March 29, 2023.)


ゴールドマン・サックスの報告書によれば、今後AI導入により取って代わられる職種が3億種類(?!)にも及ぶとか。

数が多すぎて理解が及びません・・・、が果たしてそんなに沢山の仕事がこの数年の内に本当にAIに取って代わられてしまうのか、疑問にも思われます。記事は以下のように続きます。


The long-term impact of AI, however, was highly uncertain, chief executive of the Resolution Foundation think tank Torsten Bell told BBC News, "so all firm predictions should be taken with a very large pinch of salt".

"We do not know how the technology will evolve or how firms will integrate it into how they work," he said.
(ibid.)


つまり、今世間で騒がれているようなAIの話は、少し割り引いて受け止めた方が良い、ということなんですが、


(take with) pinch of salt


という表現が使われています。

一つまみの塩(をもって)、という事ですが、日本語では、


話し半分に(聞く)


という表現があり、辞書の訳語もそのようになっているかと思います。

以前、"with the grain of salt"という表現を取り上げましたが、どちらも同じ意味であり、"pinch of salt"はイギリス英語で用いられることが多いようです。

さて、話し半分、つまり、聞いた事を鵜呑みにせず、割り引いて受け止める、またはちゃんと自分で咀嚼して理解する、ということですが、「ひとつまみの塩」とどういう関係があるのでしょうか?

研究社新英和大辞典で"pinch of salt"を引くと、ラテン語のフレーズ、


cum grano salis


の「なぞり」である、とあります。

この、cum grano salisを英語に逐語訳すると"with grain of salt"なのですが、遡ると、ローマの著述家プリニウス(23 - 79)の著書「博物誌」に辿り着くそうです。

尤も、プリニウスの著作中の文言はcum grano salisではなく、addito salis grano(少しの塩を
加えて)というもので、cum〜 は恐らく後世の人が作ったもので、故に「なぞり」なのだと思われます。(因みに、Merriam-Websterなどではこのcum grano salisというラテン語フレーズ自体のエントリがあります。敢えてラテン語のフレーズを使うことで、高尚な響きが出る効果を狙う人が使うのでしょうか。)

「博物誌」の記述ですが、いくつかの食材を配合することにより解毒作用をもたらすことができるというくだりがあり(Pliny; Book 23, Ch. 77)、その材料のひとつが塩(grano salis)となっています。

つまり、こういうことです — 我々が他人から見聞きすることは毒になることもあるから、一掴みの塩と共に取り入れてその毒にやられないようにすべきである — 。




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