年始、1月2日に羽田空港で発生した旅客機と自衛隊機の衝突炎上事故では、迅速な避難誘導により旅客機の乗客は奇跡的に全員が無事でしたが、預けたペットは犠牲となったことが程なくして明らかとなりました。家族同然のペットを貨物として預けるのではなく、乗客と同じ機内に持ち込むことは許されないのかという意見が有名タレントなどから出たことをきっかけに、ネット上などではその是非を巡る議論が過熱しました。
ところで、以下の引用はニューヨークポスト紙の記事なのですが、アメリカではこれまで当たり前のように機内でのペット同伴が行われてきたようなのですが、そんなことは知りませんでしたし、実際目にしたこともありませんでしたので、ちょっとびっくりしてしまいました。
尤も、この記事では、とある乗客のペットが機内への同伴を拒否された、という話なんですが。
Their travel plans were put on paws.
Perplexed dog owners are scratching their heads as to why and how their cute, and often well-behaved, companions got banned from air travel.
(Alex Mitchell. My dog wasn’t allowed to board my flight — I’m convinced there’s a no-fly list for pets. New York Post. February 13, 2024.)
話の流れとしては分かったものの、冒頭の、
Their travel plans were put on paws.
という文の"put on paws"という表現が引っ掛かりました。
ペットと楽しい旅行を、と計画立てていたところ、土壇場で同乗(機内持ち込み)NGとなり、計画が台無しになった、というような意味合いと解釈しました。
そこで、"put on paws"なるフレーズがあるのかと思って辞書を引くのですが、そのような表現は載っていません。"paw"は動物の脚、鉤爪や肉球のある犬猫の手を指しますから、ここで敢えて"put on paws"というフレーズを使っているのはペットの話題にかけたしゃれの意図があるのだろうとは思いました。
しかしながら、例えば"
cat’s paw"のような特別な由来や意味合いがある表現を見てきたこともあって、"put on paws"というフレーズが存在するのではないか、という思いにとらわれてしまったというのが本日の投稿のきっかけとなっています。
普通の辞書に載っていないのは仕方がないとして、もしかしたらスラングの類かもしれず、またネットで検索すれば出てくるかも、コーパスは?などと奮闘すること約1時間・・・。
出てきません・・・。探し方が悪い?
しゃれというものは元になる表現があるものですが、"put on paws"についてはその元になる表現が何なのかすら掴めず、ジリジリとする思いでした。
例えば、"paw"は人間の手(hand)の意味もありますから、"put on hands"というところを"〜paws"に置き換えたものかとも考えたのですが、そのような表現がある訳ではなく、また納得感もありません。
英語表現としての解説は見当たらなかったのですが、その後、ニュース記事を検索してみるといくつかの用例が見つかりました。
一つ目。(タイトル部分で使われています。)
White Rock dog owners are running out of time to take their furry friends to the waterfront.
The city’s program that allows dogs on the White Rock promenade during off-peak months is set to change Thursday (March 31), and dogs will not be allowed on the walkway again until Oct. 1.
(Nick Greenizan. Pups’ promenade passage to be put on ‘paws’ after Thursday. Peace Arch News. March 27, 2022.)
二つ目。
A MOTORBIKE-RIDING pooch who has helped to raise hundreds of pounds for good causes is back in the saddle.
Adorable Jack Russell Cookie and her owner Dave Hall have won an army of fans for their amazing exploits while travelling the length and breadth of Britain on their BMW R1250.
Sadly, their charity work had to be put on ‘paws’ for 18 months after Dave was struck down by a bout of ill health.
(Amanda Keenan. Motorbike-riding dog back in the saddle after 18-month ‘paws’. Glasgow Evening Times. April 15, 2023.)
これら二つの記事で共通する背景としては、(最初のニューヨークポスト紙の記事もそうですが)これまで問題なく出来ていたことが出来なくなった、中止せざるを得なくなった、というものです。
そこのところを念頭に置きながら、"put on paws"、「プットオンポーズ」・・・、と念仏を唱えるようにつぶやいていたところ・・・。
ひらめきました!
「ポーズ」は、"pause"のことだったのです!
つまり、休止に追い込まれたという事。"(be) put on pause"というところを、発音が同じ"paws"で置き換えた、ということなんですね。
最後にもう一つ用例を挙げておきます。
They were put on “paws” during COVID-19 lockdowns, but the loveable Labradors of the Canine Court Companion Program (CCCP) are back on deck at Gosford courthouse, along with several others in the state.
(Therapy dogs back on deck at Gosford courthouse. coastcommunitynews.com.au. April 23, 2022.)
知ってしまえば何ということも無いのですが、字面だけを見ていては駄目なんだなぁと思いましたね。尤も、発音だけでは"pause"も"paws"も全く同じに聞こえるので、これがしゃれとして通用するのは文字化されてこそなのですが。