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2023年2月28日火曜日

diatribe

アメリカ人にはお馴染みの漫画「ディルバート」(Dilbert)の作者が黒人に差別的な発言をしたことで批判され、新聞やメディア各社が漫画掲載を中止するに至っているそうです。

アメリカの企業社会を風刺するその漫画をどこかで私も目にしたことがあるように記憶します。


(CNN) Scott Adams -- creator of the once popular "Dilbert" comic strip that lampoons corporate culture -- apparently doesn't like being held accountable for his recent undeniably racist rant in which he called Black Americans a "hate group" and urged White people to "get the hell away" from them.

On Saturday, in response to the fierce backlash over his remarks after hundreds of newspapers dropped his comic strip, Adams whined about being targeted for "cancellation."

In reality, this is not "cancel culture," but "consequence culture" where people are rightly held accountable for their words and actions.

Adams' bigoted diatribe was posted Wednesday on his YouTube show, "Real Coffee with Scott Adams."
(Dean Obeidallah. Opinion: Scott Adams has only himself to blame for Dilbert's troubles. CNN. February 27, 2023.)


作者のScott Adams氏がトランプ元大統領の支持者だと言われればなるほどというところでしょうか。過去にも黒人が白人の機会を奪っているというような発言を繰り返し、黒人は「ヘイト集団」であり、白人にとって脅威であるかのような持論を展開しているということで、いわゆる白人至上主義とみなされる発言です。

今回のきっかけはYouTubeに同氏が投稿した、


bigoted diatribe


であると記事にあります。"diatribe"という単語を取り上げたいと思います。

辞書には、


痛烈な非難、酷評、こき下ろし


などと載っていますが、元はこのような強い意味は無く、ギリシャ語では娯楽とか会話という意味だったそうです。

"diatribe"という単語は、接頭辞dia-(横切って、あるいは離れて、の意)と、消費する、擦り落とすという意味のギリシャ語動詞tribeinから成ると語源欄にもあります。

つまり、娯楽、会話といった原義に照らし合わせると、時間潰し、暇つぶし、という訳です。

尤も、ギリシャ人たちは下らない話に時間を浪費していたわけではなく、その内容は哲学や倫理に関するものだったようです。それは会話から書かれたもの(書物)になっていくわけですが、そこには批評的、あるいは説諭的なニュアンスを含んでいたと思われます。

2023年2月27日月曜日

turnstile justice

記事の引用からお読み下さい。


A creepy Atlanta-area school bus driver is reportedly out on bond after he allegedly broke into the home of a 10-year-old girl looking for her on Monday.

Gogineni Rayudu, 56, was arrested Tuesday and charged with felony burglary and misdemeanor loitering but was already back on the streets on Thursday after posting a $20,000 bond, The Atlanta Journal-Constitution reported.

The turnstile justice left the young girl’s distraught mom, Cassie Cea, “in shock.” To protect her family she has since obtained a restraining order against Rayudu, the report said.

“I’m just really freaked out,” Cea told the newspaper on Friday. “He was definitely up to something bad — I just don’t know how bad it was.”
(Patrick Reilly. School bus driver out on bond after breaking into 10-year-old girl’s home. New York Post. February 25, 2023.)


内容は大体お分かりいただけるかと思いますが、第3段落目のところで、


The turnstile justice left the young girl’s distraught mom, Cassie Cea, “in shock.”


というくだりがあります。この"turnstile justice"という表現が何を意味するのか、考えてみたいと思います。

"turnstile"とは、回転木戸、回り木戸、などと辞書に載っていますが、いわゆるゲートのことで、十文字の回転するバーがあって一人ずつしか通過できないようにしているものです。回転式改札口などとも訳されていますが、日本の電車の改札ではあまり見かけませんけれども、入場を制限する施設の入口などで見かけることがあるでしょう。チケットなどを通すとバーが回転することで一人が中に入ることができるという仕掛けです。

この"turnstile"と"justice"(司法)という単語がひとつになって"turnstile justice"ということですが、何を言わんとしているのでしょうか。

記事の内容は、犯罪者が逮捕されながらも保釈金を払って自由の身となり、再び悪いことに手を染めようとしているという話です。"turnstile justice"はそういったことを指しているようですが、何と訳すのが適当か、という疑問が。

もう少し、理解を深めるべく、"turnstile justice"という言葉が使われているコンテクストを探してみます。あまり多くはないのですが、いくつかヒントになると思われる内容の記事をピックアップしてみました。


In the wake of a deadly shooting of a 22-year NYPD veteran, New York City Mayor Michael Bloomberg is focusing his fury on the Brooklyn judge whom he blames for allowing the suspect to be back on the streets after a prior arrest.

Mayor Bloomberg has taken to the airwaves twice this week to scold Judge Evelyn Laporte for what he says is a prominent role in getting Lamont Pride back on the streets.
(Thomas Durante. Pictured: The judge blasted by Mayor Bloomberg over 'turnstile justice' that put 'cop killer' back on the streets after drug bust last month. The Daily Mail. December 17, 2011.)


10年以上前の記事ですが、タイトルで使われている"turnstile justice"は、警官を殺害した犯人を釈放する判断を下した裁判官への批判として用いられています。

先の記事の例と併せて、"turnstile justice"には犯罪者に対する不十分な措置、つまり更生もしていないのに再び世の中に出て再犯に至るといった状況、またはそのような状態を許容している司法システム、といったことを指しているように思われます。

ところで、もうひとつ、また別の記事では、少し違った印象を与えられます。


NEW YORK, N.Y. – Fare beaters who hopped over grimy subway turnstiles back in the early 1990s were the first targets of a policing strategy that went after the smallest offences and was credited with helping to drive crime down to record lows.

So now, a new policy to halt the prosecution of turnstile jumpers in Manhattan has some city officials and riders questioning it as a foolhardy turning back of the clock.
(Colleen Long. Turnstile justice? Manhattan eases up on fare jumpers. The Associated Press. February 10, 2018.)


ここで出てくる"turnstile"は文字通りの回転式改札口のことで、ニューヨーク地下鉄で導入されているものですが、その改札を飛び越え(乗り越え)て運賃を免れる悪い輩を、


turnstile jumpers


と呼んでいます。

このような不正乗車は90年代には警察の摘発の対象であったものが、(記事の書かれた)2018年には摘発しなくなった、というのが記事の趣旨で、そのことを"turnstile justice"と言っているようです。

不正乗車自体は犯罪のうちでも軽微なものに分類されるものでしょうが、そうした軽微な犯罪こそをきちんと取り締まってきたところが、軽微だからという理由で(?)取り締まらなくなった、というところでしょうか。

こうしてみてくると、"turnstile justice"の意味するところは、犯した罪の大きさにも関わらず、回転式改札を飛び越えて運賃逃れをする軽犯罪者を見逃すかのように社会に戻してしまうという歪んだ司法、というような意味合いに思われます。あるいは、地下鉄改札の"turnstile"のようにいとも簡単に乗り越えられてしまうようなお粗末な司法制度、というような意味合いでしょうか。

うまく訳せませんが・・・。


2023年2月24日金曜日

gunk

唐突ですが、「耳掻き」は好きですか?

私は好きな方です。よくやります。また、子供が小さい頃はよく耳掻きをしてやりました。(嫌がられるのですが。)

耳クソは"earwax"と言いますが、放っておくと耳が痛くなったり、聴こえづらくなったり、と不快なことがあります。

一方で、耳掻きをやり過ぎると外耳道を傷つけて炎症を起こしたり(経験があります)、逆に耳クソを奥へと押し込んでしまって状態を悪化させる可能性もあるので注意が必要です。

専門医によれば、耳クソには耳を細菌などから保護する役割もあるので、耳掻きをやり過ぎないことが大事だそうです。

それでは、英紙デーリーメールの記事から引用をどうぞ。


Earwax is produced inside your ears to help protect them from germs and keep them clean, according to one expert.

But Dr Samantha Wild, a GP at Bupa Health Clinics, says while it usually comes out of your ears on its own, too much can cause a blockage.

(中略)

Many people know the satisfaction of using a cotton bud to rid your ears of gunk.

But the little tools, also known by the brand name Q-tips, may do more harm than good. 
(Hannah Mcdonald. I'm a GP - here are six things that might be giving you ear wax. The Daily Mail. February 23, 2023.)


それでも耳掻きをしたくなるのは、上手く除去できたという時の小さな快感からでしょうか!?

小生は週末にプールで泳ぐようになってから、殊更耳掻きの頻度が増えたように思います。

さて、今日の1語は、


gunk


です。

見慣れない単語ですが、


べとべとしたもの、ねばねばしたもの


という意味の俗語だそうです。

実はこの"gunk"という単語は油汚れを取る洗剤の商標名から来ているそうですが、洗剤の名前が汚れ自体を意味する単語になってしまったとは何とも皮肉な話です。



2023年2月23日木曜日

mothball

今月始め、オハイオ州で列車脱線事故が発生、塩化ビニルを運搬していた車両が損傷して漏れ出し、脱線現場付近に深刻な被害をもたらしています。

地域住民の中には有害物質によると見られる体調不良を訴える人も多く見られるということで、今後政府の賠償責任などが問われることになりそうです。

なぜか邦紙で報道されているのをほとんど見かけませんが。


Donald Trump’s visit to the site of a toxic train derailment in Ohio is offering a political opening to battered Biden administration officials — by calling new attention to the former president’s record of rolling back regulations on both rail safety and hazardous chemicals.

Trump’s administration withdrew an Obama-era proposal to require faster brakes on trains carrying highly flammable materials, ended regular rail safety audits of railroads, and mothballed a pending rule requiring freight trains to have at least two crew members. He also placed a veteran of the chemical industry in charge of the Environmental Protection Agency’s chemical safety office, where she made industry-friendly changes to how the agency studied health risks.
(Trump’s visit to Ohio derailment gives Biden’s team some breathing room. Politico. February 22, 2023.)


引用した記事によれば、トランプ元大統領が脱線現場を訪問しましたが、民主党側にはある意味で「歓迎」なのだそうです。はてな?

実のところ、トランプ政権下において鉄道運行の安全性に関わる規制を緩和してきたという事実があり、それが今回の大事故に繋がったと言えなくもないという伏線があるようです。つまり、トランプ氏の訪問によりそのような背景が浮き彫りになれば、現政権としては怒りの矛先を逸らすことができるという思惑なのだと思われます。

さて、引用中、


Trump’s administration withdrew an Obama-era proposal…, and mothballed a pending rule requiring freight trains to have at least two crew members.


という箇所があります。

ここで、"mothball"という見慣れない動詞が使われています。

"mothball"というのは虫除けのボール(球)のことで、衣服に虫が付かないようにするための樟脳やナフタリンを使った防虫剤です。

その"mothball"が動詞になっているのですが、辞書には、


虫よけ玉を入れてしまい込む
(艦船などを)予備役に入れる、退役させる
(研究社新英和大辞典)


と載っています。

つまり、動詞としての意味は、衣服を虫除けと共にタンスに仕舞い込むが如く、お役御免にする、ということです。

棚上げ、という日本語が近いでしょうか。


2023年2月22日水曜日

a shot in the arm

バイデン米大統領が20日、ウクライナのキーウを電撃訪問しました。ロシアによる軍事侵攻が始まった2022年2月24日から1年を迎えるというタイミングで、バイデン氏のキーウ訪問は初めてのことです。人々が寝静まった闇夜の中をホワイトハウスから出発したそうで、報道にはちょっとびっくりしました。尤も、ロシア側にはウクライナ訪問を事前通告していたらしいです。

CNNのオピニオン記事では、今回の電撃訪問はウクライナとその国民にとって、


a shot in the arm


であると表現しています。


As the world prepares to mark the first anniversary of Russia's unprovoked invasion of Ukraine, President Joe Biden made a historic, unannounced visit to the capital of the embattled country.

The risky trip on Monday to an active war zone was not just a powerful symbol of American support, it was a shot in the arm to a population that has endured Russia's devastating attacks on civilian apartment blocks, hospitals, schools and the power stations that provide heat and electricity.

"It's just something unbelievable that at a time like this the President of the United States is coming to Kyiv," Andrei Ketov, a 48-year-old Ukrainian service member, told CNN.
(Frida Ghitis. Opinion: In a war of unending surprises, Biden has another up his sleeve. CNN. February 21, 2023.)


"a shot in the arm"は字義通りには腕への注射ということですが、


活気を与えるもの、刺激、「カンフル注射」
(研究社新英和大辞典)


という意味の慣用句です。

Collins Cobuild Dictionary of Idiomsでは以下のように解説されています。


If something gives you a shot in the arm, it gives you help and encouragement at a time when you badly need it.


"… when you badly need it"という部分が肝でしょうか。侵攻から1年を迎える中、ロシアが攻勢を強め、ウクライナにとって正念場が続きます。ゼレンスキー大統領は欧米諸国に支援を訴え、連帯を示す意味でのウクライナ訪問を求めてきました。(訪問を招請されている日本の岸田首相のウクライナ訪問予定は立っていまないようですが・・・。)

CNNの記事は今回の訪問がもたらす効果について、バイデン氏をベタ褒めする内容です。一方、国内では移民問題やオハイオ州での列車脱線事故などが起きているなか、そうした問題を軽視していると主に共和党関係者からの批判が上がっています。


2023年2月21日火曜日

hospice

カーター元米大統領が病院での療養を止めて、自宅でホスピス(hospice)のケアにより終末期を家族と過ごすと公表され、邦紙でも報じられています。

98歳という年齢は元大統領としては史上最高齢だそうです。

カーター氏は脳腫瘍を患っており、外科手術も受けてきたそうですが、これ以上の治療はせず、終末期を自宅で迎えることにしたということです。


On Saturday, the Carter Center announced that former US President Jimmy Carter will be receiving hospice care at his home in Georgia.

“After a series of short hospital stays, former US President Jimmy Carter today decided to spend his remaining time at home with his family and receive hospice care instead of additional medical intervention,” according to the statement. “He has the full support of his family and his medical team.”

The 98-year-old Carter is the oldest living US president in history. He has survived metastatic brain cancer and faced a number of health scares, including brain surgery following a fall in 2019.
(Katia Hetter. President Carter is on hospice care, but what is it? Our medical analyst explains. CNN. February 20, 2023.)


ホスピス(hospice)というカタカナは日本語でも使われますが、終末期の患者に精神的なケアを施すこと、またそのための施設、という定義が英和辞書には見えます。

子供の頃、「ホスピタル」(hospital、つまり病院ですが)は知っていても、「ホスピス」は言われて何のことか分からなかったのを覚えています。

実のところ、"hospital"も"hospice"もラテン語hospesから来ており、語源を同一にします。

このラテン語hospesですが、客(guest)、主人、といった意味で、"hospital"にしろ、"hospice"にしても、元は"guesthouse"、つまり旅人を泊める宿泊施設のことを指していました。

ホスピタリティ(hospitality)、つまりおもてなし(の精神)、歓待という意味の単語がありますが、これも語源を同じくします。

"hospital"も"hispice"も、単なる宿泊施設から、生活保護などを必要とする人々の「シェルター」の意味で用いられるようになり、その後、現代の病院やホスピスの意味になったものです。


2023年2月20日月曜日

vaunt

フランスでは今年1月から使い捨て容器の使用を禁止する法律が施行され、マクドナルドなどのファーストフードチェーンが対応を迫られているそうです。

通称、循環経済法と呼ばれる法律だそうですが、コーヒーカップや皿など、プラスチック製の使い捨ては禁止で、ガラスや樹脂製のものに置き換えて洗って使えるものにすることが義務化されたそうです。

更に、ポテトフライの容器は紙製というのが相場ですが、これも樹脂製の容器で提供されるのだそうです。

ところが、このポテトフライ用の樹脂製容器が人気らしく、土産に(!?)持って帰る客が続出、店側が悲鳴を上げているとか。


The item proving a hit with McDonald’s customers in France this winter is not a new burger or chicken wrap, but a bright red, rubber container in which french fries are served.

The US-based multinational introduced the reusable packaging to comply with a new French law that bans fast food and casual dining outlets from using disposable packaging and cutlery for customers who eat in their restaurants.

The french fries containers are so popular that customers have started taking them home as souvenirs. President Emmanuel Macron helped drive the craze when he tweeted a photo of the McDonald’s packaging to vaunt his government’s initiative, which took effect in January.
(Leila Abbound. Macron versus McDonald’s: how France ditched disposable food packaging. Financial Times. February 19, 2023.)


フライドポテトの容器が注目を集め、持ち帰る客が続出したのは、実のところマクロン大統領がその写真付きでツイッターに投稿し、施策の宣伝を図ったことがきっかけになっているという指摘があります。

マクロン氏としては政府が推進する循環型社会をアピールするつもりだったのでしょうが、思わぬ副作用があったようです。

さて、今日取り上げる単語は、


vaunt


です。あまり見慣れない動詞ですが、自慢する、(鼻高々と)話す、豪語する、といった意味です。

ところで、"vaunt"という単語の語源はラテン語vanus(内容が無い、無益な、無駄な)であり、英単語"vain"(無駄な、空虚な)と語源を同じくしていると辞書で確認出来ます。

アピールも過ぎると大言壮語となり、往々にしてそうであるように、喧伝されるものは空虚で虚しいものです。

循環型社会の推進は必要なことではあるでしょうが・・・。

レストラン側にとってみれば、客が無断で持ち帰る容器の損失に加えて、容器を洗浄するための追加コスト、店内飲食客と持ち帰り客とで容器を分けなければならないというオペレーション上の煩雑さ、等々、対応には頭を抱えているようです。

2023年2月17日金曜日

aphasia

俳優のブルース・ウィリスさんが昨年失語症であることを公表しましたが、その後病状が進行、前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia)との診断であると新たに家族が明らかにしました。


Bruce Willis' condition "has progressed" and the "Die Hard" actor has been diagnosed with frontotemporal dementia, according to his family. The news comes after they previously revealed his aphasia diagnosis in 2022.

The 67-year-old actor's ex-wife, Demi Moore, revealed his new health diagnosis on Instagram with a heartfelt post. 
(Tracy Wright. Bruce Willis diagnosed with frontotemporal dementia following aphasia battle, family says. Fox News. February 16, 2023.)


失語症を英語では、


aphasia


と言いますが、これは欠如を意味する接頭辞a-に、話すという意味のギリシャ語phanaiから成る単語です。

かなり昔、まだ英語を習い始めたばかりのことだったと思うので、おそらく中学生の頃だと思うのですが、"aphasia"という単語の成り立ちを何かの読み物で読んで、語源って面白いなと思った記憶があります。

Merriam-Websterによれば、ブルース・ウィリスさんが失語症であることを公表後、"aphasia"という単語の検索件数が6,000%増加(つまり、通常の70倍のアクセス!?)したそうです。

2023年2月16日木曜日

phallic

記事の引用からどうぞ。


Beauty tools intended to help improve shoppers’ skin are being mistaken for something usually enjoyed in the privacy of your bedroom.

(中略)

The $19.99 Sculpting Facial Roller Set was noted for having a similarity to an X-rated toy in a post shared an Aldi Mum’s Facebook page.

But Aldi isn’t the only store facing this struggle, with Kmart shoppers also noticing the Anko brand’s mini hair remover had a phallic appearance.
(Claudia Poposki. Aldi, Kmart beauty products mistaken for X-rated toys. News.com.au. February 15, 2023.)


豪州のスーパーで売られている美容アイテムが物議を醸しているそうです。

フェイシャルローラーというようですが、その形が卑猥、ハッキリと言えば、


phallic


だということなのです。(どんな形か関心のある方は記事をご覧下さい。)

"phallic"という単語を取り上げたことがあったように思うのですが、実のところ取り上げたことはありませんでした。

ギリシャ語、またラテン語phallusから来ているこの単語は、男性のシンボルを意味する形容詞です。



2023年2月15日水曜日

off one’s pedestal

ハリーポッターの原作者として有名なJ.K. Rowlingさんですが、トランスジェンダーなど性的マイノリティに対するSNS上のコメントが物議を醸したのは確か数年前のことと記憶します。

コメントが"transphobic"として激しい批難を受けました。

今日読んだ記事によりますと、性自認に関する自身のスタンスについて、近日公開するポッドキャストで改めて釈明をするようです。


JK Rowling is addressing the controversy surrounding her stance on transgender rights head-on in an forthcoming podcast entitled The Witch Trials of J.K. Rowling.

The Harry Potter author has faced a sustained backlash in recent years for statements she’s made about gender ideology that critics and prominent voices in the LGBT+ community have described as “transphobic”.

“I never set out to upset anyone. However, I was not uncomfortable with getting off my pedestal,” Rowling says in the trailer for the podcast, which is hosted by Free Press.
(Tom Murray. JK Rowling says statements about trans people have been ‘profoundly’ misunderstood in new podcast. The Independent. February 14, 2023.)


Rowlingさんの言によれば、コメントについては誰かを傷付けるというような意図は全く無い、ということなのですが、


I was not uncomfortable with getting off my pedestal


と付け加えています。

"pedestal"とは土台とか台座のことで、例えば胸像などが置かれる台を指します。一段高いところにある人、また胸像として飾られるほどの人は凡人ではありません。

よって、


put (set) someone on a pedestal


という慣用句は、


(ある人を)尊敬する、崇拝する、理想化(偶像化)する、祭り上げる


といった意味で用いられます。

さて、Rowlingさんのコメントはその逆で、


(getting) off my pedestal


です。辞書には、"knock off a person off (one’s) pedestal"というフレーズが載っていますが、


(ある人を)尊敬されている立場から引きずり下ろす


という意味です。

手元にあるCollins Cobuild Dictionary of Idiomsには以下のように説明されています。


If someone or something knocks you off your pedestal, they show that you are not as good or talented as people generally think, or make people realize that you are not perfect. Other verbs such as ‘force’ can be used instead of ‘knock’.


尊敬されるような立場から引きずり下ろすという意味に加えて、その人が(評価されているような)優れた人間ではない、完璧ではない、(つまりはそこら辺の人と同じ凡人だ)ということを思い知らせる、ともあります。

Rowlingさんは自身のコメントが取り沙汰されていることについて釈明しながら、それによって自分自身が(有名作家という)地位から引きずり下ろされるのは特に不愉快にも思っていない、と言っているようです。

これはRowlingさんが、性的マイノリティに対する自身の見解を変えるつもりはない、と言っているように思われます。

ところで、辞書に載っているこの種のフレーズの動詞(knock, put, force)が他動詞であることに着目したいと思います。つまり、尊敬される立場に押し上げたり、祭り上げたり、あるいは引きずり下ろすのは、他人であるということです。

一方、Rowlingさんのコメントの動詞は"getting off"であり、自動詞に感じられます。つまり、他人がそうするのではなく、Rowlingさん自らが、というニュアンスがあるように思われます。

このコメントが前半部分と"However,…"という逆接の接続詞で繋がっていることにも注意したいと思います。

自身のコメントに他人を傷つける意図は無い、「しかしながら・・・」、という流れで、そのコメントのことで高み(pedestal)から降りることも何とも思っていない、完璧な人間でない(ただの凡人)と思われても構わない、という解釈ができそうです。

「高み」とはベストセラー作家というステータスでしょう。コメントに悪意はなく、(また取り下げるつもりもなく、)それがために評判が落ちてベストセラー作家でなくなっても一向に構わない、というようにも取れます。

深読みし過ぎでしょうか。


2023年2月14日火曜日

monopsony

昨日の投稿から続きます。

労働市場は従業員優位とも思われた"Great Resignation"から、経営者側が主導権を取り戻そうとする"Great Reset"に入った、というリクルーター視点を紹介した記事を引用しました。

具体的には、昨年半ばくらいから大きく報じられているように、大手IT企業などによる大量解雇の動きです。

同じ記事で、また別の専門家の視点を紹介していますが、以下のくだりがあります。


Aaron Sojourner, a senior researcher at the W.E. Upjohn Institute for Employment Research, said that "certainly, layoffs reduce workers' bargaining power."

With more layoffs, there might be the creation of what's called monopsony power, a term that refers to the power that employers hold over dictating wages and labor-market conditions. Monopsony increases, Sojourner told Insider, when there are fewer substitute jobs for workers to move into — which is what happens when there are layoffs or companies hiring less.

"The days of expanding and offering richer and richer compensation to try to attract more and more talent to the sector — that's on pause right now," Sojourner said.
(Companies are using layoffs to cut new-hire salaries and win back the power they held before the pandemic, some recruiters say. The Insider. February 12, 2023.)


大手企業による大量解雇には、労使関係を逆転させる効果がある、というものです。

ここで、


monopsony


という見慣れない単語が出てきます。専門用語のように見えますが、企業側が解雇に走ることで、この"monopsony"が強まる、ということのようです。

"monopsony"を辞書で引くと、買手独占、とあり、


売手は多数だが買手が1人のみの需要独占市場
(研究社新英和大辞典)


という説明が付いていました。

似たスペルの単語に"monopoly"がありますが、こちらは「売手独占」であり、"monopsony"はその逆の概念と言えます。

労働市場を買手としての雇用者(企業)と売手としての被雇用者(採用希望者)に準えることはよくありますが、"Great Reset"にあっては企業側が大量解雇することで買手優位の市場を形成しつつある、ということを言わんとしているのでしょう。

"monopsony"という単語の語源ですが、単独を意味する接頭辞mono-と、ギリシャ語opsonia(食料品を買う、の意)から成っています。(ギリシャ語でopsonは食料品、oneisthaiは買う、の意。)

つまり、買う人がひとつに限られる、ということです。

"monopoly"の類語に"oligopoly"(売手寡占)があるように、"oligopsony"(つまり、買手が少数;買手寡占)という単語もあります。


2023年2月13日月曜日

put one’s foot down

3年に渡るパンデミックを経てようやく出口が見え始め、世の中が「パンデミック以前」に戻ろうか(戻れるかどうか)という時にあるかと思います。働き方に及ぼした影響は多大なものがありますが、労働市場について分析した記事を興味深く読みました。

転職エージェントの視点から見た内容は、パンデミック前、中、そして後、と労使の力関係が変化してきていると分析しています。

特に米IT大手で続く大量解雇の動向については、企業側が従業員をコントロールする力を取り戻そうという意向が反映されたものだと分析しています。


Call it the Great Reboot. 

"Yes, there is an economic downturn, but I do think there's a lot to be said about companies making strategic decisions to put power back in their hands and put their foot down," Keri said. 

Not only are companies lowering salaries for new hires, the recent layoffs and fear that there might be more to come are also tamping down the power of remaining employees. "Doing all these layoffs and seeing all these layoffs in the news every single day certainly puts a lot of worry in the people that are working," she said.
(Companies are using layoffs to cut new-hire salaries and win back the power they held before the pandemic, some recruiters say. The Insider. February 12, 2023.)


大量解雇に走る大手企業の多くが、パンデミック下で社員を増やしすぎたと告解していますが、"Great Resignation"とも呼ばれた離職者増加の中、高い給与や条件の良い福利厚生を提示して人員を確保、また拡大してきたツケが今回ってきているとも言えます。

ところが、パンデミックの終わりが見えてくると、リモートワークは廃止、組織再編に着手し、従業員解雇に走る企業が増えてきました。

経営者側が主導権を取り戻そうとしているのだと、記事に出てくる転職エージェントは分析します。そのくだり、


companies making strategic decisions to put power back in their hands and put their foot down


とあります。

"put one’s foot down"とは足で踏みつけるということですが、


If you put your foot down, you use your authority in order to stop something from happening.
(Collins Cobuild Dictionary of Idioms)


抑圧的な態度をとる
(研究社新英和大辞典)


と定義されています。

労使関係の逆転、というところでしょうか。

"Great Resignation"や"quiet quitting"、リモートワーク、と従業員優位とも思われたパンデミックから、経営者の逆襲(!?)が始まる、"Great Reboot"へ。

明日に続く。


2023年2月10日金曜日

DOA

昨日の投稿では、米大統領の一般教書演説がその中身とは直接関係無いハプニング(!?)で話題になっていることを取り上げましたが、今日取り上げるのは一般教書演説の中身に関する真面目なお話です(笑)

バイデン氏の演説で取り上げられたトピックの1つに、超富裕層に対する増税政策があったのですが、これに対する財界からの反発が高まっているというものです。かつて大統領候補としてのバイデン氏を支持表明してきた財界リーダーも批判の旗色を鮮明に出してきているようです。


Corporate leaders who backed President Joe Biden in the 2020 election conveyed deep skepticism that the so-called billionaire's tax Biden proposed in his State of the Union address this week would ever become law.

(中略)

The plan is "DOA and stupid to boot," billionaire investor Leon Cooperman told CNBC in an interview. Cooperman says he voted for Biden in 2020, but he accused Democrats of deliberately misleading people about how the billionaire tax proposal would work.
(Biden's billionaire tax is 'dead on arrival' in Congress, top Wall Street backers and Democratic strategists say. CNBC. February 9, 2023.)


批判コメントの中に、バイデン氏の施策を、


DOA and stupid to boot


と貶している箇所があります。"DOA"という略語をご存知でしょうか?

記事のタイトルを読めば分かりますが、"DOA"は、


dead on arrival


の頭文字を取ったものです。文字通りには、到着時には死んでいる、という意味で、事実、以下のように用いられます。


They try, they keep trying, but still there is no pulse. Finally, they load the woman into the ambulance and head for Memorial Hermann. She will be DOA - dead on arrival.
(Houston Chronicle, 2002)


負傷者が病院に搬送されたけれども、残念ながら到着時には亡くなっていた、というようなコンテクストですね。

一方、今回取り上げた記事で、"DOA"とは何を言わんとしているのでしょうか?

取り沙汰されているのは超富裕層に対する増税法案ですが、当事者にとってみれば法案が成立してしまっては困ったことになります。だから、法案は通して欲しくない。

よって、そんな法案は通る(通す)ものか、否決されるに決まっとる、という訳です。

記事後半に以下のようなくだりがあります。


The billionaire tax proposal is "completely dead on arrival," said Charles Myers, a 2020 bundler for Biden's presidential campaign and the chairman of Signum Global, an investment advisory firm.

(中略)

"Those tax increases will never get through a Republican House," added Myers. "Probably not even through a Democratic Senate."
(ibid.)


米議会は上院を民主、下院を共和が過半数を占めるという、いわゆる「ねじれ」の状況にありますが、法案が提出されても下院では通らないだろう、間違いなく否決されるだろう、とコメントされています。もしかすると、上院ですら否決されるかも知れない、というのです。

つまり、"dead on arrival" (DOA) は、法案が審議の場に到着した時点で死んでしまっている、否決必至である、ということを言っています。

元々、搬送時には死亡してしまっていた、ということを意味したこのフレーズは、このように用法が拡張されているのですが、もうひとつ興味深い用例があります。

 
After I finished, I was all excited and proud of myself. My first computer! I did it myself! I excitedly plugged it in. I pressed power and... nothing. My husband pointed out that I had forgotten to attach power to the hard drives. So I plugged those in and tried again. Press the power button and... nothing again! I was really upset, thinking I had a bad motherboard, or my parts were DOA, but noticed yet another cord I had overlooked.
(Houston Chronicle, 2011)
 
 
PC自作のお話のようですが、ここで"DOA"はコンピュータを構成する部品が端から故障してしまっていた、ということを言っていますね。いわゆる、「初期不良」というやつです。

2023年2月9日木曜日

smooch

米大統領の一般教書演説が行われましたが、メディアが取り上げたのは演説の中身ではありませんでした。

議会場に姿を現したバイデン大統領夫人であるジルさんが、周りを気にも止めず、Doug Emhoff氏と交わした「キス」が話題をさらいました。(Emhoff氏はハリス副大統領の夫。)


First lady Jill Biden and second gentleman Douglas Emhoff unintentionally created the first viral moment of President Biden's second State of the Union address.
 
Ahead of the speech, the first lady received a warm reception when she walked into the House Chamber, but an even warmer one from Emhoff.
 
Both she and the second gentleman were seen greeting each other with a kiss on the lips.
 
Their smooch quickly caught fire on Twitter.
(Joseph A Wulfsohn. Jill Biden, Douglas Emhoff go viral for awkward smooch at Biden's State of the Union: 'Is this normal?' Fox News. February 8, 2023.)
 

記事ではもちろん、「キス」(kiss)とありますが、もうひとつの表現として、


smooch


と出てきます。

欧米人は人前でも堂々とキスを交わすものですが、ごく親しい間柄の男女がお互いの頬を触れさせる、いわゆるチークキスは珍しいものでもありません。

ジル夫人とEmhoff氏のそれは唇を合わせるもので、傍目には恋人同士かと思ってしまうような熱烈なものだったようです。

実際、"smooch"というのは、同じキスでも音を立ててするようなキスのことで、語源的には擬音語から来ているそうです。

大統領の演説内容はそっちのけで、"Smooch of the Union"などと揶揄したヘッドラインが見られます。


'Smooch of the Union': US first lady steals show with wayward kiss
(AFP)


言うまでもなく、一般教書演説(State of the Union)をもじったものです。



2023年2月8日水曜日

liminal

以前、まだパンデミックになる前のことですが、通勤の効用ということについて考えたことがあります。

小生は往復で3時間弱かかっていたのですが、勤務先で初めてテレワーク制度が導入された頃のことで、10年以上前のことです。

最寄り駅からオフィスにも徒歩15分かかるような不便さでした。

パンデミック下で多くの人がリモートワークを余儀無くされてきたところ、通勤の効用といった側面を研究したという記事を興味深く読みました。


Many people think of commuting as a chore and a waste of time. However, during the remote work surge resulting from the COVID-19 pandemic, several journalists curiously noted that people were – could it be? – missing their commutes. One woman told The Washington Post that even though she was working from home, she regularly sat in her car in the driveway at the end of the workday in an attempt to carve out some personal time and mark the transition from work to nonwork roles.

As management scholars who study the interface between peoples’ work and personal lives, we sought to understand what it was that people missed when their commutes suddenly disappeared.

In our recently published conceptual study, we argue that commutes are a source of “liminal space” – a time free of both home and work roles that provides an opportunity to recover from work and mentally switch gears to home.

(中略)

Our findings suggest that remote workers may benefit from creating their own form of commute to provide liminal space for recovery and transition – such as a 15-minute walk to mark the beginning and end of the workday.
(A journey from work to home is about more than just getting there – the psychological benefits of commuting that remote work doesn't provide. The Conversation. February 2, 2023.)


キーワードは、


liminal space


です。

"liminal"を辞書で引くと、


識閾の;かろうじて認識できる
(研究社新英和大辞典)


とありますが、これは心理学の専門用語で、記事のコンテクストに当てはめて考えようとすると少し分かりにくいですね。

「識閾の」という言葉自体、日常であまり使うことの無いものですが、人間の感覚が認知できるかできないかくらいの微妙なレベルの刺激というような意味合いと理解しています。

サブリミナル(subliminal)効果という言葉がありますが、人間の意識に訴えかけるかどうかといった低いレベルでの感覚刺激がもたらす効果のことで、映像などに紛れ込ませた特定の商品やサービスのイメージがマーケティングに使われるという話を読んだことがあります。

そもそもの"liminal"の意味はそのようなところにあり、"limen"(敷居 = thresholdを意味するラテン語limen)という単語の形容詞形ですが、意味合いが拡張されて、状況、状態が変化途中にあること、つまり遷移状態のことを意味するようになったとされています。

通勤の効用としての"liminal space"は、ワーク(勤務)からプライベート時間への遷移過程にあたるということで、仕事をしているのでもない、また完全にプライベートな環境にあるのでもない、いずれでもないという状態にあたるということです。

かつて小生が最寄り駅からオフィスまでの徒歩15分に感じたのは、朝の通勤時はこれから仕事に向かうのだというウォームアップのような位置付けであり、夕方の帰宅時は務めから解放されホッとしつつ家路(あるいは寄り道先)へ向かうクールダウンの位置付けだったように思います。

リモートワーク、テレワークにおいてはこうした"liminal space"が得られないということであり、こうした時間、また過程が働く人間には必要とされているということでしょうか。


2023年2月7日火曜日

resenteeism

パンデミックは良くも悪くも人々の生活を一変させました。中でも、働き方に関して大きな影響を及ぼしたという点については誰もが認めるところでしょう。

働き方や職場環境等にまつわる様々な言葉や表現が定着し、また新語表現が生まれましたが、ごく最近のものとして、


resenteeism


という単語が取り沙汰されています。どんな意味合いなのでしょうか。


At the height of the Great Resignation last year, it didn’t take much for most workers to quit their jobs for greener pastures. Whether or not they regretted it, things look much different today. 

In a shakier economy—replete with layoffs across sectors and recession fears—more people are staying put, even if they’re unhappy. That phenomenon has led to the coining of yet another new workplace buzzword: resenteeism.

Dubbed “the natural successor to quiet quitting” by Glamour UK’s Bianca London, resenteeism describes the act of staying in an unsatisfying job due to a perceived lack of better options or fear of job insecurity. A worker in those circumstances begins to actively resent their current workplace and often doesn’t do a great job of hiding it. 
(Jane Thier. ‘Resenteeism’ is the latest trend plaguing workers, and it’s even more dangerous than quiet quitting. Fortune. February 6, 2023.)


 パンデミック下、リモートワークが主流となる中で、職務遂行は必要最小限に留め、その分、自分自身の生活のために時間を有効活用しようとする人々が増え、"quiet quitting"と呼ばれるようになりました。

このようなトレンド、時代の流れに続いて、今や"resenteeism"と呼ばれる現象は、職場環境に不満を抱えたワーカーのことを指すそうです。

その背景には、現在の職場や待遇に不満があるものの、さりとて今の条件よりも良い転職先がある訳でもなく、不満を抱えながらも現在置かれた状況を続けざるを得ない、といったことのようです。

"resenteeism"とは言うまでもなく、"resent"(怒る、憤慨する)という動詞からきていますが、"presenteeism"や"absenteeism"といった、職場における問題行動を表す類語のパターンを踏襲しています。


Resenteeism is a spin on “presenteeism,” which describes employees showing up—or logging on to Slack or Teams—just for the sake of appearing to be doing work. In the case of resenteeism, workers are less subtle about their apathy or outright frustration, and that attitude is likely to spread around the office just as much as presenteeism could. Such low morale can decrease productivity and create more conflict.
(ibid.)


上に出てくる"presenteeism"は、パンデミック下でみられるようになった"digital presenteeism"のことを言っていますが、こうした術語も時代や情報技術の変遷を経て意味合いが変わってくるという一例かと思います。

2023年2月6日月曜日

one-upmanship

週末、米空軍機が米国領空を飛行していた中国の気球をカロライナ沖で撃墜したというニュースが日本国内でもトップニュースで報じられました。

中国側は民間による気象観測の目的であると主張しているそうですが、米側はスパイ活動と断定、やる時はやるんだなぁ、という印象を持ちました。

バイデン大統領はもっと早くに撃墜命令を下すべきだったという批判も米国内にはあるようです。

しかし、最終的に領空侵犯の他国の飛行物体を撃墜したことのメッセージは大きなものがあります。


As a Chinese spy balloon drifted across the U.S., Joe Biden kept quiet for four agonizing days while the rest of Washington rushed to weigh in on the diplomatic crisis.

But on Saturday, after a fighter jet finally downed the orb over the Atlantic Ocean, Biden sought to make one thing clear: He was itching to pull the trigger.

(中略)

The hostile one-upmanship aimed at China over the intelligence-gathering balloon served as just the latest example that lawmakers across the political spectrum see a clear benefit in taking a hawkish stance toward the global power. Even as China remains a crucial trading and economic partner, Republicans and an increasing number of Democrats are positioning the country as a key political concern — and thus a domestic and geopolitical battering ram.
(Biden, the balloon, and the age of anti-China one-upmanship. Politico. February 5, 2023.)


引用したポリティコ紙の記事は、今回の事件における米の対応の意義について議論しているものですが、キーワードは、


one-upmanship


です。

"one-up"とは、相手より一歩先んじている、優位に立っている、という意味です。スポーツのコンテクストでは1点差で勝っているという意味でも用いられます。

つまり、"one-upmanship"とは、相手よりも優位に立つために一歩先んじること、相手を出し抜く術、を意味します。

バイデン政権にとっては、対中国で弱腰と批判されないための対応でもあったことでしょう。

以前取り上げた、"brinkmanship"もご覧下さい。

2023年2月3日金曜日

X being X

グーグルで起きたセクハラ事件についての記事を読みました。が、タイトルを読んですぐには飲み込めず、二度読み返しました。

リード部分を読んで大体分かりましたが、いわゆる逆セクハラということのようで、


飲み会の席で酔っ払った女性のボスが、部下男性に言い寄った、
男性は会社の窓口に訴えたものの、聞き届けられず、逆にクビになった、
男性は解雇を不当として裁判に訴えた、


ということです。


A Google executive claims he was booted by the tech giant for rejecting a high-ranking female colleague’s grabby advances at a posh company dinner.

Ryan Olohan, 48, accuses Google of firing him after one its top executives, Tiffany Miller, groped him at a Chelsea restaurant in December 2019 and told him she knew he liked Asian women — which Miller is, according to a blockbuster November federal lawsuit filed in Manhattan.

Miller, director of Google’s programmatic media, rubbed Olohan’s abs, complimented his physique, and told him her marriage lacked “spice,” according to court papers.
(Jacob Geanous. Google exec fired after a female boss groped him at drunken bash, suit says. New York Post. January 28, 2023.)


言うまでもなく、セクハラ被害者は女性に限りません。男性の訴えが真実であるならば、解雇されるべきは加害者である女性の上司であるべきでしょう。

記事中、以下のくだりがあり、被害者の男性は会社に通報すべきか逡巡したようです。


While Olohan, a married father of seven, said he was initially uncomfortable bringing up the incident because many of his colleagues were drunk, his co-workers later chalked up the behavior to “Tiffany being Tiffany,” court papers say.
(ibid.)


飲み会の席で多くの同僚が酔っ払っていた、という状況があったことが触れられていますが、問題の女性上司(Tiffany)について、


his co-workers later chalked up the behavior to “Tiffany being Tiffany


とあります。

この部分の解釈について少し考えてみたいと思います。

文脈から何となく言いたいことは分かりますね。みんな酔っ払っていたし、あの上司は酔うと(性格変わるんだよなぁ!?)・・・、という感じでしょうか。

“Tiffany being Tiffany”という言い回しは、文字通りにはティファニーはティファニーである(ので)、ということになりますが、ティファニーを知る人が、今回の件は彼女によく見られる言動である、ということを言っているように思われます。

コーパスで幾つか用例を拾ってみました。


"That man is trying to seduce your daughter." "It's just Jeff being Jeff. That's all." Exactly so, Emma thought. Jeff being Jeff. So deeply in love with himself that he cast a spell over other people around him.
(The Maine Review, 2018)


He got a question hurled at him and he responded as he always does to defend himself. And I agree with A.B. that this sounds like Clinton being Clinton, what you see with him is never what you get.
(Fox, 2010)


In his last years, DiMaggio being DiMaggio, he worked memorabilia shows at which his autograph on a bat made the stick of wood worth maybe $500.
(Sporting News, 1999)


…and to me it's to watch Warren Christopher not being Warren Christopher. That's not the Warren Christopher I know.
(PBS Newshour, 2000)


辞書には載っていませんが、このフレーズは、


(固有名詞) being (固有名詞)


というパターンであり、固有名詞が指す人について、その人によく見られる、典型的な言動や態度について触れる場合に使われるフレーズだと言って良さそうです。

このフレーズは、"X being X"という分詞構文だと考えられますので、理由を述べる句と考えれば、〜だから、〜ので、と解釈するのが適当でしょう。

問題はどう訳すかですが、〜らしい、〜にありがちな、〜のことだから、等々ありそうですが、コンテクストによりけりでしょうか。



2023年2月2日木曜日

rocket and feather

最近のガソリン、高いですよね?

原油価格は中東の政情不安や、直近ではウクライナでの戦争などの影響を受け、高騰し易いものなので石油資源を海外に頼らざるを得ない日本としては仕方ありません。最近ではパンデミックから脱却しつつあるところ、人々の活動も日常に戻りつつあり、故に需要も増加、価格に跳ね返ってくるということのようです。

英紙Sunで、ガソリン価格に関する記事を読みました。


Drivers have been warned that retailers have started pushing up fuel prices.

The average price for a litre of petrol on UK forecourts on Monday was 148.8p, according to Experian.

The warning comes as the RAC highlighted that forecourt prices have failed to fully reflect a fall in recent wholesale prices.

Wholesale diesel costs plummeted by 32p per litre in the eight weeks to December 11 - but average pump prices only fell by 20p per litre during that time.

(中略)

The RAC said retailers make more money out of drivers from every litre of fuel they sell by “keeping pump prices artificially high”.

This is known as rocket and feather pricing, when pump prices quickly reflect rising wholesale costs but are slow to fall when costs drop.
(Ellie Smitherman. Urgent warning issued to all drivers filling up vehicles with petrol or diesel. The Sun. January 31, 2023.)


イギリスにおいてもガソリン価格が高い水準にあるようですが、記事ではいわゆる「高止まり」していることを取り上げているようです。

前半部にありますように、原油価格自体はリッター当たり32ペンス下落しているのに、スタンドでの価格は20ペンスしか下がっていないということです。

これについて、


rocket and feather pricing


と表現しています。変わった表現ですね。

原油価格の上昇を受けて小売価格も連動して上昇しますが、原油価格が下がってもそれに連動して小売価格が下がらないことを言うようです。売り手が価格を下げないからだ、と批判しています。

なぜ、"rocket and feather"と表現するのでしょうか?

この表現はガソリン価格が話題にされる時にはよく使われるらしく、昨年のニューヨークタイムズの記事に説明がありました。


The process is playing out slowly — a result of what experts call the “rocket and feather” effect: Gas prices tend to rise quickly, like a rocket, and fall more slowly, like a feather.
(German Lopez. Cheaper Gas. The New York Times. July 22, 2022.)
 
 
上がる時は打上げロケット(rocket)の如く素早く、しかし価格下落に際しては鳥の羽根(feather)のように落下速度は緩慢、ということだそうです。なるほど。

2023年2月1日水曜日

haphazard

テスラ、そしてツイッターのCEOであるマスク氏の言動に振り回される人は絶えませんが、またひとつトラブルが報じられています。

記事等によれば、遡ること2018年、まだツイッター社の買収前ですが、マスク氏がテスラ株式を非公開化するための資金を確保したとのツイートを投稿したところ、同社株価は急上昇しましたが、実現を不確実視する観測が拡がると下落し、これにより投資家は損害を被り、集団訴訟になっているというものです。


SAN FRANCISCO (AP) — An Elon Musk tweet declaring he had the financing to take Tesla private in 2018 caused billions of dollars in investor damages after the deal collapsed, according to estimates presented Tuesday at a trial examining the haphazard handling of the buyout proposal.

(中略)

In this class-action lawsuit on behalf of Tesla shareholders, the jurors must first determine whether two tweets that Musk abruptly posted on Aug. 7, 2018 steered Tesla investors in the wrong direction. 
(Michael Liedtke. Elon Musk's Tesla tweet trial delves into investor damages. The Associated Press. February 1, 2023.)


マスク氏のツイートの背景には、サウジアラビアのファンドがテスラに資金提供するという話があったとか無かったとか。その話自体、結果的には実現せず、マスク氏は投資家を騙したと訴えられているものです。

さて、今日の単語は"haphazard"です。

この件に関するマスク氏の一連の言動が"haphazard"と書かれていますが、その意味は、


出鱈目の、計画性が無い


というものです。

スペルを見ると、"hap"という部分と"haphazard"という部分に分かれるようにみえますね。

事実その通りで、"hap"は"happening"(ハプニング、つまり偶発的な出来事)を意味します。

また、"hazard"は危険とか障害物という意味で使われることが多いですが、原義としてはこれまた運とか、不確かな事、偶然という意味があるんですね。

以前も取り上げましたが、"hazard"の語源はアラビア語でサイコロを意味するal-zahrで、そもそもは予測できないこと、偶然(chance)という意味だったのです。

運を天に任せるような、出たとこ勝負の、出鱈目な(haphazard)言動は、自身を危険、ハザード(hazard)に陥らせることになる、という教訓めいたものを感じさせるニュースです。