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2021年3月31日水曜日

chalk up

バイデン大統領がホワイトハウスでジャーマンシェパードを飼っているというのは、確か就任時のニュースの一環で聞いたことがありました。

そのジャーマンシェパードにはメジャー(Major)という名前が付けられているそうですが、そのメジャー君が人に噛みつくという事件があったそうで、ニュースで取り上げられています。


The Bidens' dog Major has been involved in another biting incident that required medical attention, two people with knowledge of the incident tell CNN.

The incident, which involved a National Park Service employee, took place on the White House South Lawn on Monday afternoon. The employee was working at the time and needed to stop in order to receive treatment from the White House medical unit.

First lady Jill Biden's press secretary Michael LaRosa told CNN that Major is "still adjusting to his new surroundings."
(Kate Bennett. Bidens' dog Major involved in another biting incident. CNN. March 30, 2021.)


一度ならず二度目のことだったということなのですが、一度目は警護担当者に噛み付いたそうで、記事のくだりは以下のように続きます。


On March 8, Major caused an injury to a Secret Service employee at the White House, doing enough damage that the person needed treatment from the White House medical team.

At the time, White House press secretary Jen Psaki referred to the injury as "minor," and chalked up Major's behavior to "getting acclimated and accustomed to their surroundings and new people."

Psaki said Major was "surprised by an unfamiliar person."
(ibid.)


ホワイトハウス報道官のサキ氏がコメントしているのが引用されているのですが、


chalked up Major's behavior to "getting acclimated and accustomed to their surroundings and new people."


というくだりで使われている、"chalk up (to)"という表現を取り上げたいと思います。

このフレーズを知りませんでしたが、辞書には、


~のせいにする、~に帰する


とありました。

上記引用のくだり部分のいわんとするところは、メジャー君の噛み付きたがるのは周囲の環境に慣れようとしていることによるものだろう(新しい環境に慣れていないためだろう)、ということだと思います。

ところで、"chalk"というのはあの「チョーク」(白墨)です。

その動詞が「~のせいにする」という意味になるのは興味深いものがあります。

このフレーズの由来について明確に説明した資料は見当たりませんが、やはりチョークでものを書きつけておくことと関係があるそうです。

今時チョークを使うのは学校現場(小、中、高校まで?)くらいかと思いますが、かつては店舗や事務所には黒板にチョークというのが一般的だったようです。

チョークで書きつけておいたのは酒場の勘定書とか集計、スポーツの試合のスコアだったりした訳ですが、要は書き付けておくほどの大事なこと、ということであろうと思われます。

"chalk up"という動詞句の意味には「得点する」、「利益を上げる」という意味もあるそうですから、それらを書きつけるというのは、行為の結果を明確にしておくということでもあります。

大事なことを書き付けておく、という意味合いが発展して、結論を明確にする、(行為や結果の)原因と見なす、という意味でも使われるようになったと解釈できるかもしれません。



2021年3月30日火曜日

betray

麻薬犯罪の逃亡犯がYouTubeに出演していたことがきっかけで身元がばれ、逮捕されたそうです。

New York Post紙の記事から引用です。


He was caught red-sauce-handed.

A Mafia fugitive has been caught in his Caribbean hideaway — after being spotted in YouTube cooking videos he made with his wife, Italian police said Monday.

Marc Feren Claude Biart, 53, had been on the run since 2014, when Italian prosecutors ordered his arrest for alleged cocaine trafficking for the Cacciola clan of the ‘Ndrangheta Mafia, Agence France-Presse said.
(Lee Brown. Mafia fugitive reportedly busted after being seen in YouTube cooking videos. New York Post. March 29, 2021.)


イタリアから中米ドミニカに逃亡、潜伏していたようですが、得意の料理の腕前を披露すべくYouTube出演していたそうです。

隠遁生活を続けていれば捕まらなかったものをわざわざ動画で自分を晒すとは間抜けだと思いましたが、この逃亡犯は顔はちゃんと隠していたそうなのです。

身元が割れるきっかけは腕にいれた入れ墨でした。


While Biart attempted to hide his face, he was betrayed by distinctive tattoos on his body, the agency said, without elaborating on their distinctive features.
(ibid.)


ここで使われている"betray"という動詞を取り上げたいと思います。

"betray"という動詞からは、裏切る、(敵に)売り渡す、という意味がまず思い浮かぶと思います。例えば、


I was betrayed by my best friend.
私は親友に裏切られた。


のような文では、裏切るのは人、裏切られるのも人、という構造です。

一方、引用部分で使われている"betray"は少し状況が異なり、隠そうとしていること(対象、状況など)が、(思わぬ形で)暴露される、というような構造と解釈できます。

辞書では、「うっかり漏らす、露わにする」、さらけ出す、無意識に表す、といった意味が載っています。

引用部分は受動態となっていますが、このような意味合いで使われる"betray"は能動態のパターンがよく見受けられます。

つまり、何か(something)が、意図しない形で、隠そうとしている事、物を、さらけ出す(betray)、というような構造です。

上記で引用した記事だと、


His distinctive tattoo betrayed him...
その特徴的な入れ墨が、彼(の存在)を暴露した


という文が成り立ち得ます。

お手元の辞書にもこのような用法が例文と共に載っているかと思いますので、チェックしてみて下さい。



2021年3月29日月曜日

glut

新型コロナのワクチン接種が進むアメリカですが、逆にワクチンの供給過剰が起きるかもしれないという予測があるそうです。


WASHINGTON — Biden administration officials are anticipating the supply of coronavirus vaccine to outstrip U.S. demand by mid-May if not sooner, and are grappling with what to do with looming surpluses when vaccine scarcity turns to glut.

President Joe Biden has promised enough doses by the end of May to immunize all of the nation’s roughly 260 million adults. But between then and the end of July, the government has locked in commitments from manufacturers for enough vaccine to cover 400 million people — about 70 million more than the nation’s entire population.
(For Biden, a New Virus Dilemma: How to Handle a Looming Glut of Vaccine. New York Times. March 28, 2021.)


「供給過剰」、「供給過多」を意味するのに、


glut


という単語が使われています。

正直を申しますと、この"glut"という単語を見るのは初めてでした。

"glut"には動詞の意味もあって、お腹一杯(満腹)にさせる、食欲を満たす、という意味があります。

"glut"には見覚えがなくとも、"glutton"(大食漢)には見覚えがある!という人は多いのではないでしょうか。

その通り、"glut"と"glutton"は語源を同じくしており、ラテン語gluttio(のみ込む)から来ています。



2021年3月26日金曜日

ticket

日本語でもカタカナで「チケット」という言葉があります。

言うまでもなく、英語でも切符や入場券を指す意味で使われますが、ちょっと馴染みの無い用法としては、選挙における公認候補者名簿の意味合いがあります。

少し前にこのような"ticket"の意味があることを知り、このブログで取り上げようと思っていたのですが、忘れていたところ、今日改めてお目にかかりました。

バイデン大統領がホワイトハウスで初の公式会見を開いたというニュース記事からの引用です。


WASHINGTON – President Joe Biden has been in office a little more than two months, but he said he’s already planning to run for a second term in 2024.

“Yes, my plan is to run for reelection,” he said during his first formal news conference as president Thursday. “That's my expectation.”

Biden said he also “would fully expect” that Vice President Kamala Harris would remain on the ticket as his running mate for a second term.

“She’s a great partner,” he said.
(Joe Biden said he plans to run for reelection in 2024 and 'would fully expect' Kamala Harris to be running mate. USA Today. March 25, 2021.)


会見の模様について、移民問題などを始めとした質疑の様子を各紙が詳しく報じていますが、気が早いというのか、2024年の大統領選がトピックにあがったそうです。

バイデン氏は再選を当然目指していると公言しましたが、同時に副大統領のハリス氏も同様と述べたようです。



2021年3月25日木曜日

walk and chew gum

バイデン新政権が発足して最初の試練かも知れません。

主にメキシコをはじめとする中南米からの不法移民が増加し、社会問題となっています。

移民問題についてはハリス副大統領に一任する考えをバイデン大統領が示したと報道されています。


U.S. President Joe Biden has selected Vice President Kamala Harris to take charge of one of the biggest issues confronting his administration in its early months — the flow of migrants arriving at the country’s southern border.  

“We’re going to be dealing with a full team now,” Biden said Wednesday. “I can’t think of nobody who was better qualified to do this,” he said, noting Harris’ past experience as the attorney general of California, a border state.  

(中略)

Harris, alongside the president, noted “the work will not be easy,” calling the influx at the U.S. border with Mexico “a challenging situation.”  
(Steve Herman. Biden Appoints His VP to Handle Migrant Surge. Voice of America. March 24, 2021.)


鳴り物入りの副大統領の手腕が試されることになります。

そのハリス氏の発言が引用されていますが、下記のようなくだりがあります。


“While we are clear that people should not come to the border now, we also understand that we will enforce the law. And also, because we can chew gum and walk at the same time, we must address the root causes that cause people to make the trek,” Harris said.  
(ibid.)


最初の部分は、不法移民はあくまで不法として取り締まる、ということだと思います。

続く部分、


we can chew gum and walk at the same time...


という部分が引っ掛かりました。

直訳すれば、「ガムを噛みながら歩く」ということになりますが、字義通りの意味ではなさそうだというのは明白です。

この表現は、


walk and chew gum (at the same time)


というもので、(先の引用とは順序が異なりますが)歩きながらガムを噛む、ということで、ふたつのことを同時に行う、という意味で用いられます。

記事のコンテクストに照らせば、不法移民を取り締まりながら、それと同時に、国境を越えようと考える人達がいるという根本原因にも対処する、ということだと思われます。

この「歩きながらガムを噛む」という行為には、同時に出来て当たり前なこと、という意味合いが出てくるので、否定文のコンテクストで使われると、(出来て当たり前のことなのに)同時に出来ない、無能である、不器用である、という含意もあるようです。

あまり用例は多くないのですが、コーパスから拾ってみました。


As far as my mother, you know, she's not too coordinated. She's not a great athlete. She thinks she -- she knows the game, and she knows sports, but she can't walk and chew gum at the same time. So, I don't know if I inherited my athletic ability from her, but I think my personality and my mental side -- the mental side of the game I inherited from my mother.
(CNN, 2002)


どちらかというと、ふたつのことを同時に行う、両立させるという意味での用法が多いようで、結構頻繁に用いられる表現のようです。


2021年3月24日水曜日

lava

国際ニュースで、アイスランドで火山が噴火したと知りました。

噴火したのは3月20日土曜日だったようですが、今日初めて知りました。


On Friday, March 19, at around 8:45 p.m. local time, molten rock breached the surface in a valley near a flat-topped mountain named Fagradalsfjall, in the region of Geldingadalur, six miles from the nearest town. Incandescent spatter erupted along a crack in the earth, scorching the soil as small lava fountains illuminated the dark landscape.
(Robin George Andrews. Eruption in Iceland may mark the start of decades of volcanic activity. National Geographic. March 23, 2021.)


800年間(!)活動がなかったそうですが、各メディアでは真っ赤な溶岩が流れ出る様の画像や動画を載せています。

敢えて説明するまでもなく、「溶岩」のことを英語では"lava"と言いますが、イタリア語に由来します。

ところで以前もアイスランドでの火山噴火の話題があったなあと思って調べてみましたら、2011年5月の事でした。

今回の火山噴火はそれとは別の火山で、Fagradalsfjall(日本での報道では「ファグラダルスフィヤル」というカタカナがあてられていました)と呼ばれる火山だそうです。

首都レイキャビクに近いようですが、生活に影響を及ぼすような事故等には至っていないらしく、火山研究の専門家らが溶岩熱でホットドッグを即席で調理して食べているという報道すら見られます。

さて、話が飛ぶようですが、Merriam-Websterオンラインで"lava"の定義をチェックしていたところ、


The Ground is Lava


という遊びがあるという記事がありました。

この遊び、地面や床を溶岩(もしくは、池でも海でも、ブラックホールでも、何でも良いのですが)に見立てて、そこに落ちない(接触しない)ように高いところを移動する子供の遊びという説明で、子供の頃の昔を思い出しました。

小学生くらいの時分にそんな遊びに興じたことのある方は多いのではないでしょうか?

その遊びのことを何と言ったか、思いだそうとしているのですが、思い出せないでいます。

似た遊びで「高おに(鬼)」というものがありましたが、それとは違う名称があったように思います。(ご存知の方、教えて下さい。)



2021年3月23日火曜日

sweeten the deal

アメリカ国内では新型コロナウィルスのワクチン接種が進んでいます。

ドーナツチェーンでは日本でもおなじみのKrispy Kremeが、ワクチン接種済み証明を提示した人に、無料のドーナツ1個をプレゼントするという企画をスタートしたそうです。


In case you needed another reason to get your COVID-19 vaccination, Krispy Kreme is sweetening the deal — it's giving free doughnuts to anyone with proof of vaccination, all year long. 

Starting Monday, any customer with a valid COVID-19 vaccination card will receive a free Original Glazed doughnut at participating locations nationwide. The iconic doughnut shop specifies that any guests who have received at least one of the two shots of the Moderna or Pfizer vaccine, or one shot of the Johnson & Johnson vaccine qualify for the promotion. 
(Sophie Lewis. Krispy Kreme will give you a free doughnut every day this year — if you've been vaccinated. CBS News. March 22, 2021.)


無料ドーナツ1個は、他に何も買わなくとももらえるそうです。しかも1日1個までと言いながら、ワクチン接種証明を提示すれば毎日でももらえるという、随分太っ腹な(?)企画です。

さて、今日の表現ですが、


sweeten the deal


という慣用句なんですが、


(おまけ・賞品などで)(品物を)買う気を起こさせるものにする、(提案を)魅力のあるものにする
(ランダムハウス英和辞書)


という意味だそうです。

ドーナツだけに、“sweeten”という動詞にも違和感ないのですが、この表現のバリエーションには、


sweeten the pot
sweeten the kitty


などがあります。

"(the) pot"については、ポーカーゲームで賭け金を積む"jackpot"のことを言い、その賭け金を積み増しすることを"sweeten~"と表現するそうです。

また、"kitty"についても同様で、積立金や資金、賭け金の意味です。(子猫の"kitty"とはまた別。)

日本でもワクチン接種が本格的に軌道に乗ったらこんなキャンペーンが増えるでしょうか。



2021年3月22日月曜日

doom-scrolling

ネットを使わないで24時間過ごせたら賞金がもらえるという、Digital detoxのチャレンジ企画が話題です。

賞金はなんと2,400米ドルということですから、私などは思わず食指が動きそうになりました。


Doom-scrolling getting you down?

Put the phone away for an hour. Or, better yet, make it 24 hours -- you might just get $2,400 out of it.

Reviews.org, a company that tests home services and products, is holding a 24-hour digital detox challenge. They'll pay their chosen challengers over two grand to survive a whole day without screens.

"If you've got the desire to ditch your devices for a day but still need to get paid, this is the perfect opportunity for you," the company wrote on its website where aspiring digital detoxers can go to apply.
(A company will pay you $2,400 to stay away from screens for 24 hours. CNN. March 22, 2021.)


さて、引用した記事の冒頭、


doom-scrolling


なる、見慣れない表現が使われています。

この単語を知らなかったのですが、世界中が新型コロナウィルスパンデミックの脅威に襲われた去年くらいから出てきた単語のようです。


You're mindlessly scrolling on your phone after a long day at work, sifting through miles of negative posts.

In what seems like minutes, hours have gone by.

Doomscrolling has become a popular word over the past year to describe the habit of mindlessly scrolling through negative news. People lose their perception of time while scrolling on their phones, said Jeffrey Hall, professor of communication studies at the University of Kansas in Lawrence.
(Megan Marples. Doomscrolling can steal hours of your time -- here's how to take it back. CNN. March 26, 2021.)

別名、"doom-surfing"とも呼ばれるそうですが、"doom-scrolling"の“doom”とは運命、とりわけ破滅の最期を意味する不吉な表現です。つまり、破滅へと至るスクロールという訳で、インターネット上を当て所もなくブラウズしていて、気がついたら何時間も経っていたというような、極めて精神衛生上よろしくない生活習慣を指す用語として定着したようです。


パンデミックによる外出制限でPCやスマホばかりのオンライン生活が日常になってしまいました。

あなたやあなたの大切な家族は大丈夫でしょうか。



2021年3月19日金曜日

だて(伊達)? ― theater

新型コロナウィルス感染症予防ワクチンの接種は、アメリカ国内で既に1億回分が投与されたそうです。

バイデン政権は政権発足時にワクチン接種の数値目標を掲げていたものですが、予定よりも早く目標達成したということらしいです。

一方、ワクチン接種後は晴れてコロナ禍以前の生活様式に戻ることが出来るかというと、そこは議論のあるところのようです。

コロナ対策のリーダーであるDr. Fauciによれば、ワクチンを接種したからといって、マスクを外すことは推奨されないということです。

この点を巡っては、上院で論戦が繰り広げられたと報道されています。


White House chief medical advisor Dr. Anthony Fauci pushed back on Thursday against Republican Sen. Rand Paul’s claim that people are not at risk of Covid after they have recovered or have been vaccinated.

In a fiery exchange during a Senate hearing examining the nation’s coronavirus response efforts, Paul told Fauci that Americans shouldn’t have to wear masks after getting vaccinated because there is “virtually 0% chance” they are going to get Covid-19.

“Isn’t it just theater?” the Kentucky junior senator, an ophthalmologist, asked during a Senate Health, Education, Labor and Pensions Committee hearing.
(‘I totally disagree with you,’ Fauci tells GOP senator in fiery exchange over masks
CNBC. March 18, 2021.)


Dr. Fauciに議論を挑んだのは共和党の上院議員で眼科医でもあるRand Paul氏。

ワクチン接種したら感染リスクは実質ゼロ、だからマスク着用は不要ではないか、というのが同氏の主張のようです。

そして同氏の以下のような発言が引用されているのですが、何と訳したものでしょう。


“Isn’t it just theater?”


ここで"theater"がどのような意味合いで使われているのかがピンと来なかったのです。

映画館の"theater"、あるいは劇場の意味がまずは思い浮かびますが、どうもコンテクストからして、この"theater"には特別な意味合いがありそうに思われました。

別記事を参照してみますと、以下のようなくだりがあります。


“Let me just state for the record that masks are not theater, masks are protective,” Fauci said.

Paul snapped back: “If you have immunity they’re theater. If you already have immunity you’re wearing a mask to give comfort to others.”

“I totally disagree with you,” Fauci responded.
(Tamar Lapin. Mask face-off: Rand Paul spars with Dr. Fauci at Senate hearing. New York Post. March 18, 2021.)


「ワクチン接種したらマスクは不要」を主張するPaul議員に対する、Dr. Fauciの反論が、


masks are not theater, masks are protective


と引用されています。

これを読んで、マスクは見せかけ(のために着用するの)ではなく、予防のために必要なのだ、という解釈ができるように思われました。

問題は、"theater"という単語にそのような意味合いがあるのか、という点なのですが、辞書には明確にそのような定義が見当たらず。こんな用法でお目にかかるのは初めてです。

唯一、Merriam-Websterのオンラインで、


dramatic or theatrical quality or effectiveness


という意味合いが近いように思われました。

さて、ここで思い出した日本語の表現が「だて(伊達)」です。

「だて(伊達)メガネ」などという時の「だて(伊達)」で、見かけだけで中身が伴っていない、人目を引くような派手な振舞い、という意味です。

メガネやマスクなど、着用するものについては、それらが果たす本来的な目的のために着用しているのではない、という意味合いで使われます。

Paul議員の主張は、ワクチンで免疫ができているんだから感染リスクは無い、従ってマスク着用は見かけだけの「だて(伊達)」じゃないか、と言いたいのではないでしょうか。

一方、反論するDr. Fauciは、マスク着用は決して「だて(伊達)」ではありません、最近はやり始めた変異株を予防するために必要な対策、ということです。

英和辞書には載っていませんが、このような「だて(伊達)」という意味合いでの"theater"の用法を載せても良いように思いました。

余談ですが、日本語の「だて(伊達)」が持つこのような意味は、一説には「立つ」(人目につくように形をあらわす意)から来ているそうです。(広辞苑)



2021年3月18日木曜日

quicksand

"quicksand"という単語をご存知でしょうか?私は初めて見ました。

辞書を引くと、「流砂」という、これまた見慣れない日本語なのですが、水を含んだ砂地のことを指すようです。

つまり、泥濘のようなものですが、柔らかく流動性があるために足を取られ、不安定であるということから、危険な状態、泥沼、ピンチ、という意味で使われます。

この単語を知ることになったきっかけの記事は以下のようなものでした。


Pelosi’s push for 9/11-style Capitol riot commission stalls in political quicksand

What seemed like a no-brainer at the time — a 9/11-Commission-style review of the origins of the mob, the white nationalists who joined it and the security failures that allowed it to briefly occupy the Capitol — has instead become the latest theater for dysfunction on Capitol Hill as the two parties squabble over the panel’s scope and partisan balance.
(Pelosi’s push for 9/11-style Capitol riot commission stalls in political quicksand. Politico. March 17, 2021.)


記事の内容はと言うと、今年の1月にトランプ前大統領支持者らがワシントンの連邦議事堂を占拠した事件で、原因追及を行う議会の足並みがどうも揃わないようです。

詳細は記事をお読みいただければと思いますが、政治や議会の色んなしがらみがあるのでしょうか、なかなか思った通りに進まない状況を、


political quicksand


と表現しているようです。

“quicksand”のニュアンスを知りたいと思い、コーパスでいくつか用例を拾ってみました。


Last fall, the invisible hand was pulling the big banks into financial quicksand. Without the strong arm of the federal government, as Treasury Secretary Timothy Geithner recently affirmed, " none of them would have survived.
(Christian Science Monitor, 2009)


Cleveland Cavaliers' owner Dan Gilbert issued a public apology last week after one of his companies wandered into racial quicksand. The tone of the apology was brilliant because it squashed a potential public relations nightmare doused in gasoline.
(Cleveland.com, 2017)


望ましくない状況に陥ってしまうというネガティブな意味合いだと分かります。

ところで、Merriam-Websterの辞書の定義では、


something that entraps or frustrates


とありますが、American Heritage Dictionaryでは、


A place or situation into which entry can be swift and sudden but from which extrication can be difficult or impossible


とあり、少し異なっています。すなわち、危うい状態、困った状況に陥るという意味合いは同じですが、それに至るのが急であるという意味合いが付加されています。

これは恐らくquick~の意味合いによるものだろうと思うのですが、今度は辞書で"quick"の意味をよくよく調べてみると、その中には古い時代の意味合いとして、


(水、流れなどが)よどんでいない、流れている;(砂などが)(水を含んで)どろどろになった
(ランダムハウス英和辞書)


という意味が載っていました。

これに関連して、"quick"という形容詞は、


生きている、活発な


という意味があります。

ここで思い出すのは、水銀を意味する"quicksilver"でしょう。

水銀をラテン語では、


argentum vivum(生きた銀)


ともいうそうですから、“quick”の意味と通じるという訳です。

以前、"quick"の名詞の用法について取り上げたことがありますのでそちらもご覧ください。



2021年3月17日水曜日

cause a stink

昨日の邦紙朝刊では、米国の外務、防衛閣僚が近く初来日し、いわゆる「2プラス2」と呼ばれる協議が行われる予定であることを伝えていました。

記事では中国に対する牽制の意味合いに触れていましたが、バイデン政権が発足し、アジアの最初の訪問国として日本を、その次に韓国を選択したことに対しては、中国のみならず、北朝鮮も敏感になっているようです。


North Korean leader Kim Jong Un's sister, Kim Yo Jong, has criticised ongoing military drills in South Korea and warned the new US administration against "causing a stink" if it wants peace, state news reported.

The statement came a day before America's top diplomat and defence chief were due to arrive in Seoul for their first talks with South Korean counterparts.
(Kim Jong Un's sister Kim Yo Jong warns US to avoid 'causing a stink' ahead of meetings in South Korea. ABC News. March 16, 2021.)


北朝鮮の金正恩氏と並んで、その動静、言動がとかくメディアに取り上げられる、妹のヨジョン氏の発言が取り上げられています。米国に対する警告(もしくは脅し?)とも取れる発言の内容は、米国に対し、


causing a stink


をやめよ、というものです。

"stink"という動詞には、嫌な臭いを発する、つまり、臭(くさ)い、という意味があるのですが、"cause a stink"における"stink"の意味は、


騒動、大騒ぎ、物議


といったもので、"cause~"の他、makeやcreate、raiseなどの動詞と共に用いられます。

悪臭と騒動というのはちょっと結び付かないので意外ですね。

ところで記事では以下のように続きます。


"We take this opportunity to warn the new US administration trying hard to give off powder smell in our land," Ms Kim said in a statement carried by state news agency KCNA.

"If it wants to sleep in peace for coming four years, it had better refrain from causing a stink at its first step."
(ibid.)


ヨジョン氏の発言の中で、


the new US administration trying hard to give off powder smell in our land


という部分があります。

このくだりで、"stink"が持つ「におい」の意味と、"give off powder smell"(ここで"powder"は恐らく火薬、弾薬の意味でしょう)とにつながりが見えるようです。

ヨジョン氏の発言は北朝鮮の国営機関紙である労働新聞での声明のようですから、原文は英語ではなく、朝鮮語だと思われます。“causing a stink”という表現は、原文を英語に訳した人の選択が影響しているかも知れません。



2021年3月16日火曜日

at odds

全国的に春を感じられる陽気となってきました。

気分も高揚する季節ですが、個人的には花粉が大量飛散するのが憂鬱です。

また、困るものとしてもうひとつ、中国から飛んでくる黄砂があります。


The strongest dust storm in 10 years hit northern China on Monday, illustrating what conservation groups have called an “ecological crisis.”

Li Shuo, policy director for Greenpeace China, told The New York Times that the storm, which grounded hundreds of flights, was “the result of land and ecological degradation in the north and west of Beijing.” Industrial pollutants in the vicinity of Beijing so far this year have already exceeded the last four years’ annual average, he added.
(Zack Budryk. Sandstorm creates 'airpocalypse' in China. The Hill. March 15, 2021.)


黄砂のことを、"dust storm"、"sandstorm"と表現していますね。

黄砂を表す英語には上記を含めて色々あるようですが、今日取り上げたい表現は、"at odds"です。

記事のくだりで以下のように続きます。


President Xi Jinping has said a “green revolution” is needed in the country and that China will ramp up its efforts to cut carbon emissions, but this target has frequently been at odds with accelerated economic development. Heavy pollution in recent days has been tied to increased production of steel and cement, and China’s Ministry of Ecology and Environment recently told local officials that four steel mills in Hebei province have not adequately cut emissions, according to the Times.
(ibid.)


"at odds"は、~と不和で、とか、~と反目して、争って、という意味です。

黄砂が発生する背景には中国国内における急速な工業化があると言われています。

工業化の推進と環境保全は相成り立たぬ、という訳です。

ところで、"at odds"の"odds"というのは、「勝ち目」、またその「見込み」(確率)の意味であることはご存知かと思います。

競馬好きの方は「オッズ」というカタカナ語に馴染みがあるでしょう。

「勝ち目」を意味する"odds"が、"at odds"というフレーズで不和、反目の意味で使われるようになったのは、"odds"が元は不平等を意味する表現であったことによるもののようです。



2021年3月15日月曜日

hussy

Dictionary (辞書)の話題ということで、目が行きました。

引用をどうぞ。


(Reuters) - Hussy, mistress, whore, evil woman - these are just some of the nine example compound words that artist Ika Vantiani was shocked to find listed under the entry for 'woman' or 'perempuan' in Indonesia's official dictionary.

All nine were sexualised or derogatory terms. In contrast, in the entry for 'laki-laki', one of the words for man, there is just one example, 'laki-laki jemputan', which means a 'man chosen as a son-in-law'.

(中略)

Since making this discovery in 2016, Ika has campaigned through her art for change and as part of that she has assiduously collected editions of the Kamus Besar Bahasa Indonesia, which is compiled by a government agency and is the standard dictionary used in schools and by teachers.
(Kate Lamb. Artist on mission to change Indonesia's misogynistic dictionary entry for 'woman.' Reuters. March 11, 2021.)


辞書に載っている女性の定義があまりに蔑視的だと、インドネシアの女性が見直しを求めて立ち上がりました。

"hussy"という単語を知りませんでしたが、あばずれ女、の意だそうです。

この単語の成り立ちが興味深いのですが、もとは"housewife"、つまり家庭の主婦の意味であったものが、いつの間にか「あばずれ〜」になってしまったものだそうです。辞書の語源欄では、「転訛」と説明されています。


この記事を読んで私は、手元にある広辞苑(第三版)で、「おんな」(女)を引いてみました。

生物学的な女性の定義に続いて、情婦や売春婦、下女といった定義が見えます。

「おとこ」(男)の項にも情夫はあるのですが、「おんな」に比べるとポジティブな定義が続きます。

広辞苑ひとつをとって、こんな事を言うのは皮層的に過ぎるという批判は承知の上ですが、歴史的に女性は男性に比べて比較的低い立場に置かれてきたことが伺えます。

男女の平等、女性の尊厳というものがかつてない程までに重要視されている中、不用意な発言は批判の的となり、また職をも失いかねないということはご存知の通りですが、辞書もそんな危機的状況にあるのかも知れないと思いましたね。




2021年3月12日金曜日

full of beans

今日取り上げる表現ですが、"full of beans"という慣用句です。

豆(beans)にまつわる慣用句、成句は色々ありまして、よく知られているものに、以前取り上げた"spill the beans"があります。

引用する記事は、パンデミックの影響で廃業寸前のメキシコ料理レストランを救済するために、奇抜なアピールに打って出た男の話です。

豆を使った料理が特徴のメキシコ料理に因んで、しゃれを利かせた記事です。

"full of beans"の意味ですが、元気いっぱいで、という意味と、たわけ者、愚か者、という2つの意味がありますが、ここでは前者でしょうか。


He’s full of beans — and determination.

A wacky California activist sat in an inflatable pool full of frijole dip for 24 hours to save his favorite Mexican Restaurant from going out of businesses.

Hunter Ray Barker said he hoped the spicy stunt outside Los Toros in Los Angeles on Monday would draw support and attention to the 54-year-old eatery, which was hit hard by the coronavirus pandemic.

(中略)

Asked how he planned to go to the bathroom, he spilled the beans.

“I do have a funnel that’s connected to me right now so any time I do have to go No. 1, that is connected to a bag that’s attached to my body. For No. 2, that is a different story. We will just have to wait and see,” he said. 
(Natalie O'Neill. Activist sits in pool of beans for 24 hours to save favorite Mexican restaurant. New York Post. March 11, 2021.)


以前取り上げた表現もいくつか出てきますね。("No. 1"の意味については、No. 2をご覧ください。笑)



2021年3月11日木曜日

slouchy

記事のタイトルを読んで、そしてその写真を見て笑ってしまいました。

Kmartには前科がありますので、さもありなんという気がしますし、意図的なものさえ感じます。

Slouchy Comfort Pantsという名称で売り出しているそうですが、"slouchy"とは、「だらしがない」、という意味合いです。

快適(Comfort)なのは、だらしがない(slouchy)からでしょう(!?)


A pair of pink track pants have caught shoppers’ attention for all the wrong reasons after the baggy crotch area was described as resembling female genitalia.

A photo of Kmart’s “Slouchy Comfort Pants” were shared to the Kmart Hacks & Decor Facebook page along with the caption: “Marketing fail.”

The loungewear item features a baggy crotch area for comfort, causing excess fabric to ruffle and fold in the area.

While the original poster didn’t explicitly explain why the design of the pants featured a faux pas, it didn’t take long for comments to pour in, many dubbing the garment as “vagina pants”.
(Rebekah Scanlan. Shoppers claim Kmart’s $9 Slouchy Comfort Pants ‘look like a vagina.’ News.com.au. March 9, 2021.)


形容詞の"slouchy"は、前かがみ、またうつむいた姿勢という意味の"slouch"(名詞、もしくは動詞)から来ていますが、"slouch"自体の語源は不詳となっています。

バブル期前後に流行ったイージーパンツ(というのか、部屋着のだらしないズボン)を思い出しました。


2021年3月10日水曜日

kike

全米プロバスケットボールの有名選手がユダヤ人を貶す差別発言をしたと報じられています。

各メディアで、"anti-Semitic slur"、"racial slur"などと表現されています。

まずは、CNNの記事が目に留まりました。


(CNN) NBA player Meyers Leonard issued an apology Tuesday after a video appeared to show him using an anti-Semitic slur while livestreaming a video game.

Leonard, a forward for the Miami Heat, was playing "Call of Duty: Warzone" on Monday when he said: "F**king cowards. Don't f**king snipe at me. You k*** b*tch."

(中略)

"I am deeply sorry for using an anti-Semitic slur during a livestream yesterday," Leonard wrote in an Instagram post, adding that he didn't know what the word meant at the time. "My ignorance about its history and how offensive it is to the Jewish community is absolutely not an excuse and I was just wrong."
(NBA player Meyers Leonard apologizes for using anti-Semitic slur while livestreaming a video game. CNN. March 10, 2021.)


実際の発言が引用されていますが、伏字になっています。

伏字なのは差別的内容であることに配慮しての事だと思います。伏字であっても口汚い表現であることは想像がつきますが、具体的にどこが反ユダヤ的(anti-Semitic)なのか、判然としません。

つまり、"k***"という箇所が何なのか、ということになります。

個人的にはkの文字で始まる差別的表現に覚えがあったので想像がつきましたが、ほとんどのメディアではこの単語を取り上げていないところ、Times of Israelではそれが"kike"という単語であることを明確に記述していました。


JTA — Meyers Leonard of the NBA’s Miami Heat said the anti-Semitic slur “kike” while playing a video game on the Twitch streaming platform, which allows gamers to talk to each other.
(Gabe Friedman. NBA player caught using anti-Semitic slur on video game platform. Times of Israel. March 10, 2021.)


"f**king"や"b*tch"などの表現はご存知でも、"kike"はあまり馴染みがないのではないでしょうか。

ユダヤ人に対しては極めて不快に響く表現として、辞書でも注意書きがあります。

なぜ、ユダヤ人のことを"kike"と呼ぶようになったかについては、語源不詳とされていますが、ユダヤ人の名前の末尾に特徴的に見られるk音に因むとか、諸説あるようです。

私がこの表現を知ったのは、実のところサリンジャーの短編小説です。

サリンジャーの短編小説集「ナイン・ストーリーズ」の中の一篇である、"Down at the Dinghy"に出てきます。

ご存知のように、サリンジャー自身、ユダヤ系の米国人作家の代表的な存在です。



2021年3月9日火曜日

"Women belong in the kitchen."に見る"belong"の意味合い ― belong

日本でもフランチャイズ展開する人気のハンバーガーチェーンのバーガーキング(Burger King)がSNSで炎上しています。

問題になっているのはイギリスのバーガーキング(Burger King UK)の公式ツイッターです。

"Women belong in the kitchen."というツイートが多くのユーザーから反発をくらいました。


Burger King's attempt to highlight gender disparity in the restaurant industry with a provocative tweet appears to have backfired.

On Monday, which is also International Women's Day, the Twitter account for Burger King UK tweeted "Women belong in the kitchen."

In a series of subsequent threaded tweets, the fast food giant pointed out the lack of female chefs in the restaurant business.

"If they want to, of course," reads a follow-up from Burger King UK. "Yet only 20% of chefs are women. We're on a mission to change the gender ratio in the restaurant industry by empowering female employees with the opportunity to pursue a culinary career."

The chain then highlighted its new scholarship program for female employees to "pursue their culinary dreams!"
(Brett Molina. Burger King UK under fire for tweeting 'Women belong in the kitchen' on International Women's Day. USA Today. March 8, 2021.)


問題になったツイートは既に削除されているようですが、この、


Women belong in the kitchen.


という短い文を最初に見た時にまず思ったのが、"belong (in)"を何と訳すか、ということでした。

"belong"という単語は中学生で習う基本単語でしょうか。既に遠い記憶ですが、私も昔、"belong"は自動詞であり、"belong to~"という表現を習い、~に属する、所属する、~の一員である、という日本語訳を暗記したのが染みついています。

問題のツイートでは、"belong to"ではなく、"belong in"です。

ランダムハウス英和辞書を引いてみますと、


一員としてふさわしい、資格がある
あるべき(ふさわしい)場所にある、


と載っています。

解説では、

to は単に所属関係をいうが、in は所属関係に加えてその場所がその人にふさわしいという意を含む

ともあります。(なお、中学性の娘が持っているジュニア・アンカー英和辞典(学研)を見てみたところ、このような意味合いは載っておらず、"belong to~"の「所属する」の意味合いのみです。)

日本語に訳すならば、「女性にはキッチンがお似合いだ」、「女性はキッチンにいるのが相応しい」、などとなるでしょうか。女性をステレオタイプ化した、やや差別的な表現に聞こえなくもないですね。

Burger King UKの主張は、プロのシェフに占める女性の割合が低い現状(イギリス国内では20%にとどまるそうです)を打開すべく、奨学制度を設けることにあったとのことです。

しかしながら、"Women belong in the kitchen."というしょっぱなのツイートには、多くのユーザーが眉を顰め、批判の声が殺到しました。

この表現が誤解を与えかねないとの予見があったのかどうか分かりませんが、短いフレーズでまずはインパクトを与える意図があったものと思われます。しかし、そのようなやり方に対しても、いわゆる“clickbait”との謗りを免れません。

よりによって、International Women's Dayのその日に女性蔑視と受け取られるツイートで炎上してしまったのは皮肉というよりほかありません。

ツイートは削除されましたが、このフレーズを使った新聞の全面広告も打っており、発行され既に流通してしまったものについてはどうしようもありません。



2021年3月8日月曜日

wafer-thin

今日の国際ニュースのトップでは、スイスで公共の場で顔面を覆い隠すことを禁止する規制が可決されたと報じられています。

この規制は保守派のスイス国民党が、パンデミック発生以前より主張していたようですが、この度住民投票が行われ、賛成51.2%、反対48.8%という僅差で可決されたということです。


Swiss voters narrowly supported a ban on burqas and other full-face coverings in one of the most contentious referendums yet in the country’s unique system of direct democracy, and a further sign that a pushback against Islam is gaining ground in Europe.

A wafer-thin majority of 51% of those taking part voted to outlaw full-face coverings in public compared with 49% against, according to provisional officials results of Sunday’s vote, though face-masks to slow the spread of Covid-19 will be permitted, and burqas and niqab veils will still be allowed to be worn in places of worship.
(James Hookway. Switzerland to Ban Burqas and Veils After Close-Run Vote. The Wall Street Journal. March 7, 2021.)


多くのメディアでこのニュースを取り上げていますが、「僅差」(での可決)を表現するのに、


narrowly (pass, back, votes...)
close-run (vote)


といった言い回しが多く見られます。

上記で引用した引用では、


a wafer-thin majority... voted...


と表現されています。

"wafer-thin"の"wafer"とは、お菓子のウェハースのことです。

薄いものの象徴ということですが、私の好きなウェハースは5ミリくらいの厚みがあり(ひょっとすると1センチ以上あるかもしれません)、日本語で「薄氷(の勝利)」などという場合の氷とはまた違ったイメージがあります。



2021年3月5日金曜日

gobsmacked

今日の単語は"gobsmacked"という見慣れない単語なんですが、先に言ってしまうと、


びっくり仰天した、驚いた
(ランダムハウス英和辞書)


という意味で、イギリス英語の俗語だそうです。

用例として、やはりイギリスの大衆紙The Sunからですが、以下の記事をどうぞ。


SCHOOLS in England have been told to allow kids back to class even if they refuse to be tested for Covid.

(中略)

However, some schools have been accused of "blackmailing" parents by telling them students must be tested in order to return from March 8.

Val Mason, head teacher at Hornchurch High School in Havering, east London, wrote to parents saying children whose parents do not consent to testing will have to work remotely from a "separate space" on the school site.

(中略)

One parent told The Telegraph he was "gobsmacked", adding: "This is coercion bordering on blackmail.
(Alice Fuller. Schools in England told to allow kids back to class even if they refuse Covid test. The Sun, March 4, 2021.)


"gobsmacked"のgob-とは口(くち)のことで、"smack"は叩く、ピシッと打つという意味の動詞です。

口を叩かれるというのはよくわかりませんが、口の周り、頬の辺りを叩かれて唖然としているイメージでしょうか。



2021年3月4日木曜日

Neanderthal thinking

アメリカ・テキサス州やミシシッピ州で、パンデミック感染拡大防止のために義務化していたマスク着用をやめるという動きが出ています。

これに対して、バイデン大統領が愚行との批判のコメントを出しましたが、その表現に注目が集まっています。


President Biden said on Wednesday that states like Texas and Mississippi are making a big mistake by ending mandates to wear masks to prevent the spread of COVID-19 at a time when the nation is making a push to boost vaccinations.

"The last thing — the last thing — we need is the Neanderthal thinking that in the meantime, everything's fine, take off your mask. Forget it. It still matters," Biden told reporters as he met with a bipartisan group of lawmakers in the Oval Office.

It was uncharacteristically harsh language from Biden, who has placed a premium on civility. And it comes less than a week after he visited with Texas Gov. Greg Abbott in Houston to talk about federal assistance for helping the state recover from deadly winter storms, and boost vaccinations in the state.
(Ayesha Rascoe. 'Neanderthal Thinking:' Biden Says Too Soon For States To Lift Mask Mandates. NPR. March 3, 2021.)


注目を集めているその表現というのは、


Neanderthal thinking


というもので、私もすぐに辞書に手を伸ばしたという次第です。

ランダムハウス英和辞書では、形容詞“Neanderthal”の意味として、


原始的な、野蛮な、暗愚な; 反動的な


とあります。

パンデミックがまだ完全に収束していないのに、マスク義務化を廃止するとは「未開のネアンデルタール人の如く」原始的な考えで、野蛮で、馬鹿げたことだと言っている訳です。(これに対し、ミシシッピ州知事は反論しているようです。)

ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)は、約50万年ほど昔にヨーロッパや西アジアに生息していたとされる人類の祖先です。Neander Valley(現在のドイツのデュッセルドルフ辺りにあったそうです)に住んでいたのでその名前がつきました。

バイデン氏のこの発言をきっかけに、Merriam-Websterオンラインでの"Neanderthal"の検索数が14,500%も増加したそうです。

現代人と比較すれば未開の時代の祖先ではありますが、その脳容積は現代人よりも大きかったということが分かっており(「サピエンス全史」)、このような不名誉な形容詞の意味合いで使われるようになったのはある意味で不当とも言えます。

バイデン氏はネアンデルタール人に謝罪すべきだ、という意見まで出ているとか。



2021年3月3日水曜日

splinternet

World Wide Webという言葉はもはや死語になりつつあるのかもしれません。

CNNの記事から引用です。


Over the last year, the worldwide web has started to look less worldwide.

Europe is floating regulation that could impose temporary bans on US tech companies that violate its laws. The United States was on the verge of banning TikTok and WeChat, though the new Biden administration is rethinking that move. India, which did ban those two apps as well of dozens of others, is now at loggerheads with Twitter.

And this month, Facebook (FB) clashed with the Australian government over a proposed law that would require it to pay publishers. 

(中略)

But if such territorial agreements become more common, the globally-connected internet we know will become more like what some have dubbed the "splinternet," or a collection of different internets whose limits are determined by national or regional borders.
(Rishi Iyengar. The worldwide web as we know it may be ending. CNN. February 24, 2021.)


およそ四半世紀前(小生はまだ学生でした)、ウィンドウズ95が発売され、モデムのダイヤルアップ接続でインターネットサーフィン(既に死語ですが)が流行りましたが、そうしたことができるのはコンピュータに詳しい一部の人に限られていました。

この20年あまりでテクノロジーは大幅に進歩し、スマホの普及により、誰もがインターネットを利用できるようになり、日常生活のインフラともなりました。

しかしながら、国や地域毎に規制され、提供されるサービスの制限もある今日のインターネットは、もはや"World Wide (Web)"とは程遠いのではないか、とさえ言われています。

そこで出てきた造語が、


spilinternet


ということらしいですが、"splinter"(断片、破片)と"internet"の2語が結合したかばん語という説明は不要でしょう。

世の中にはディープウェブなどという怪しい世界もあるらしいですが、我々が世界中の情報にアクセスできると思っているインターネットの世界にしても、グーグルというひとつのサービスを通してアクセスできる一部にしか過ぎないのかもしれないと思うことがあります。



2021年3月2日火曜日

influence peddling

フランスの前大統領に有罪判決という、極めて異例な事態です。

フランスのサルコジ前大統領は自身への献金疑惑への捜査に関連して、不当に捜査へ介入を行った容疑で訴追され、禁固1年、執行猶予2年の有罪判決が下されました。


A Paris court on Monday found French former President Nicolas Sarkozy guilty of corruption and influence peddling and sentenced him to one year in prison and a two-year suspended sentence. The 66-year-old politician, who was president from 2007 to 2012, was convicted for having tried to illegally obtain information from a senior magistrate in 2014 about a legal action in which he was involved.
(France's former president Nicolas Sarkozy convicted of corruption, sentenced to one year in prison. CBS News. March 1, 2021.)


記事の中で罪状について述べている箇所に出てくる、


influence peddling


というのは、先に「不当な介入」と書きましたが、権力に物言わせて影響力を行使するといった意味合いです。

"peddle"という単語には行商(売り歩く)という意味がまずありますが、小事にあくせくとする、という意味でも使われます。

この"influence peddling"(もしくは、influence peddler)はアメリカ英語の表現として定着しているようです。

なお、有罪となったものの、サルコジ前大統領が収監されることはないらしく、電子タグ(electronic bracelet)装着を義務付けられて、監視下に置かれるということです。



2021年3月1日月曜日

Winner, winner, chicken dinner!

アメリカの空港にはスロットマシンが置いてあるそうですが、知りませんでした。

勿論すべての空港にある訳ではなく、引用する記事はラスベガスの空港の話なのですが、カジノで有名なこの空港には数百台のマシンが備え付けられていて、主に海外からの利用客が滞在中に使い切れず残ってしまった小銭を落としていくそうです。(まるでガチャガチャみたいですが。)

このスロットマシンで30万ドル(!)を引き当てた女性が狂喜乱舞というのが記事の内容です。


A Texas woman visiting Las Vegas hit a $302,000 jackpot while waiting for her flight home at McCarran International Airport last week.

The big winner, identified as Megan H. of Flower Mound, Texas, was testing her luck on the Wheel of Fortune slot machine in the airport’s B Concourse, the airport posted on Twitter.

(中略)

The airport congratulated Megan and shared a picture of her posing next to the slot machine with the caption “Winner, winner, chicken dinner!

Social media users congratulated the winner, with one writing: “Put $200 in this machine just days ago. Happy I could make my contribution.”
(Stephen Sorace. Texas woman hits over $300G jackpot while waiting at Las Vegas airport for flight home. Fox News. February 28, 2021.)


私は宝くじはおろか、パチンコや競馬も含めてギャンブルの類はやりませんし、やったこともありませんが、高額をものにしたら叫びたくもなるのでしょう。

空港の公式ツイッターも狂喜する女性を取り上げていますが、そのツイートの中で、


Winner, winner, chicken dinner!


というフレーズが出てきます。

これは変わった表現ですね。

大当たりの興奮を表す表現のようですが、"winner"は分かるとしても、"chicken dinner"とは一体?

この表現の由来には諸説あるらしく、正確なところは分かっていないそうです。

一説によれば、かつてのラスベガスのカジノでは、2ドルで食べられる"chicken dinner"があったそうで、2ドルというのは同時に賭け金の標準単位でもありました。

つまり2ドルを賭けて勝てば、少なくとも"chicken dinner"の食事代分は回収できたということで、このようなフレーズになった、とも言われています。