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2024年4月30日火曜日

oppo

サウスダコタ州知事Kristi Noem氏が自著で飼い犬を殺したと告白していることが波紋を呼んでいます。

5月7日発刊予定の回顧記でNoem氏は農場で飼っていたポインターの仔犬が攻撃的で、家畜にも噛み付くなどしたという理由で射殺したと書いているということです。

犬を愛する人にとっては衝撃の内容がガーディアン紙に報じられると、SNSなどを中心にNoem氏を批判する投稿が相次ぎました。

同氏は危害を及ぼす犬を処分することは州法に照らして合法と自身の行為を擁護しているそうです。


All dogs go to heaven, but South Dakota Governor Kristi Noem’s puppy-executing ways may have just cost her a chance at entering the promised land of the White House as Trump’s running mate. 

Several Republicans close to Trump — who, admittedly, are aligned with others vying for the Trump VP slot, or who simply don’t like Noem — are using the MAGA governor’s story of shooting and killing an unruly puppy to try to help nuke the former president’s opinion of her. In the days since the story from Noem’s memoir went viral, multiple Trump allies and confidants flagged the dog-killing and press coverage of it directly to Trump, according to a person with direct knowledge of the matter and another source briefed on it, hoping it would cause him to view her as an out-of-touch buffoon.

(中略)

“She did oppo against herself,” one Trump adviser says, mockingly.
(Trump Allies Hope Kristi Noem’s Puppy Killing Also Kills Her VP Chances. Rolling Stone. April 29, 2024.)


さて、衝撃の告白は州知事という職にある人物のスキャンダルとして十分ではありますが、この件がトップニュースに取り上げられるのは、Noem氏がトランプ氏の同志であり、今年の大統領選でトランプ氏が当選したあかつきには副大統領候補とも目されていることにあります。

「もしトラ」のシナリオに多くの共和党議員が副大統領のポストを狙っているのでしょう。

引用した記事は、今回の件は民主党勢力のみならず、Noem氏に敵対する勢力にも格好の攻撃材料になっていると分析するものです。

ある共和党議員の発言が引用されており、


She did oppo against herself


とあります。

ここで"oppo"という単語が引っ掛かりました。

恐らく"opposition"のことだとは想像がつきますのでやり過ごそうと思いましたが、念の為調べてみることに。

"oppo"というのは、


opposition research


を指すのだそうですが、これは政治用語で、敵対する陣営の政治家などに関わるスキャンダルなどのネタを調査することを言うのだそうです。

なお、Merriam-Webster Dictionary(オンライン)には"oppo"のエントリがあって、


damaging information about a political candidate that is gathered and used or made public usually by an opponent's camp


と定義されています。

MAGAのアライでもあるNoem氏に対し、トランプ氏がどういう発言するのか、注目されます。


2024年4月29日月曜日

reality check

米ドルのクォーター(25セント)という硬貨のデザインは、表面はジョージ・ワシントン初代大統領の肖像ですが、裏面は州独自のデザインになっていることはよく知られています。

同じような話かと思ったのですが、1ドル硬貨にも州独自のデザインが認められているものがあるようです。

米国造幣局のAmerican Innovation $1 Coin Program というものがあるそうで、2026年発行の1ドル硬貨に刻印するデザインが募集されているそうです。

以下に引用するのはこのデザインを巡る、カリフォルニア州でのお話しです。


California Gov. Gavin Newsom, on Thursday, asked for the public’s help in designing a new $1 coin that honors innovation that came from the state, though many of the responses pointed to anything but positive accomplishments the state was once proudly known for.

(中略)

The constituents did not hold back on providing the governor with ideas that they thought seemed fitting for the state’s new $1 coin.
(Greg Wehner. Newsom gets hilarious reality check after turning to public for new state coin design. Fox News. April 28, 2024.)


カリフォルニア州と言えば、IT産業やベンチャー企業を抱えるシリコンバレーが有名で、イノベーションの見本みたいなものです。

Newrom知事がデザインを公募したところ、予想外の反応があったということなのですが・・・。

というのも、インフレによる物価高を背景にサンフランシスコやロサンゼルスなどの大都市では経済格差が進み、ホームレスが増加、上昇の一途を辿る犯罪件数などで、同州から撤退する企業や人が後を絶たないといいます。

知事の公募に対して、ある市民が提出した案はロスの街中に増えるホームレスのテントをデザインしたもので、皮肉以外の何物でもありません。

引用した記事のタイトルには、知事に対する、


reality check


と断じています。

"reality check"というのは、要は現実を直視せよ、というような意味合いで使われる表現です。

American Heritage Dictionaryでは以下のような定義がされています。


1. An assessment to determine if one's circumstances or expectations conform to reality.

2. An event that forces one to reassess one's expectations or one's understanding of one's situation.


記念硬貨のデザインを募集する前に知事は足元を見直すべき、という声が高まっています。


2024年4月26日金曜日

two-timer

チート(cheat)とはインチキをすること一般(例えばカンニングとか)を指す表現ですが、よく見かける用例としては、恋人や配偶者に対する裏切り、つまり浮気すること、不倫を指します。

ところで、同じく不貞行為を指す表現に、


two time


というものがあります。


Private investigator Leon Hart, from UK-based InTime Investigations Ltd., has busted more than 5,000 two-timers who prove the lengths cheaters go to to knock their socks off.

As a managing director of the company, Hart oversees 250 detectives worldwide, who use GPS, listening devices and other surveillance technologies to track targets, with evidence used to collect reports, according to the Mirror.
(Taylor Knight. I’m a private investigator — these are the 5 craziest things I’ve seen cheaters do to hide. New York Post. April 25, 2024.)


"two time"(ハイフンが入って、"two-time"となることもあります)は動詞です。

上記引用では、"two-timer"となっていますが、つまりは浮気をしている人を指しています。

数字の2である"two"が入っているのは、やはり本命と浮気相手という「2人」という意味合いがあるのでしょう。

日本語でも「二股をかける」と言いますからね。また、裏切りの気持ちを持つことを言うのに、「二心ある」、「二心を抱く」という表現もありますね。

Oxford Dictionaryなどによれば、"two time"の初出は1920年代ということらしく、比較的新しい表現と言えます。

また、"two time"が初めて使われたのは裏切るという意味だったらしく、浮気をするという意味でも用いられるようになったのは後になってからのようです。

2024年4月25日木曜日

bolt

英軍の訓練施設から脱走した馬がロンドンの街中を疾駆するという珍事があったそうです。

騎兵部隊の訓練中、近くの建設現場の大きな物音に驚いた馬5頭が突然走り出し脱走、街中を駆け抜け、多数の怪我人も出た模様です。


The British army has recovered several horses after they broke free from the prestigious Household Cavalry and bolted through London on Wednesday morning.

(中略)

Six soldiers and seven horses from the Life Guards, part of the Household Cavalry, were conducting an extended exercise on Wednesday morning, the army said.

The animals were spooked when some concrete fell off a conveyor belt being used in nearby construction work and hit the ground, the army added.

Five of the horses bolted, while two remained in place.
(Lianne Kolirin. Escaped army horses run amok in central London. CNN. April 24, 2024.)


今日の1語は、


bolt


です。

ここでは、急に駆け出す、逃げ出す、という意味の動詞として使われています。突然に、素早いスピードで動くという意味合いがあります。

カタカナで「ボルト」というと、部品や物を結合、締結するネジをまず想起するのではないでしょうか?

この「ボルト」も英単語としては同じ"bolt"です。

語源に目を向けてみますと、"bolt"というのはクロスボウで用いる太矢(一般的に知られる弓矢の矢よりも太くて短いもの)のことを指したそうです。

速いスピードで飛んで行くというのはこの太矢の動きから出てきた意味合いですが、我々が知っている「ボルト」もやはりこの太矢の形状から来ていると知り、意外に思ったものです。

ちなみに、"a bolt from the blue"といった表現に見られるように、"bolt"には雷の意味もありますが、やはりクロスボウの太矢から来ています。


2024年4月24日水曜日

unseaworthy

先月27日、メリーランド州ボルティモアの鉄橋が貨物船の衝突により崩落した事故で、貨物船の会社がその責任を問われているというニュース記事からの引用です。


The city of Baltimore said the owners of the Dali cargo ship should be held accountable in last month’s crash and subsequent collapse of the Francis Scott Key Bridge, according to a new court filing. The crash left six people who were working on the bridge at the time of the collapse dead.

In court papers filed on Monday, Baltimore is accusing parent company, Grace Ocean Private Ltd., of gross and potentially criminal negligence when it put an "unseaworthy vessel" into the water on March 26, just moments before it crashed into a structure supporting the bridge and causing it to topple, ABC News reported.
(Lawrence Richard. Baltimore says who should be held responsible for Francis Scott Key Bridge collapse in new filing. Fox News. April 23, 2024.)


鉄橋の修復等にかかる賠償請求は数十億ドルとも言われているようですが、船の運航会社は賠償金の減免を要求しているようです。

事故の原因は100パーセント会社側にあるというのがボルティモア市側の見解ですが、その過失について、


it put an "unseaworthy vessel" into the water on March 26


と書かれたくだりがあります。

この、"unseaworthy"という表現はコンテクストから意味するところはだいたい想像がつきますが、初めて見るものです。ちょっと変わった表現だと思いませんか?

辞書にはちゃんと"unseaworthy"のエントリがあって、


(船舶が)航行に適さない、耐航性(耐波性)のない


と載っています。

つまり、海上を航行させるのに相応しくない船舶(unseaworthy vessel)を運航させたことを過失であるとしている訳です。

この"unseaworthy"という単語を分析すると、"seaworthy"という単語に否定の接頭辞un-が付いたものと解釈できます。果たして"seaworthy"という単語も存在し、その意味は、航海に適した、安全航行が可能な、というものなのでした。

さて、辞書には類似の表現として、"airworthy"なる単語を挙げており、こちらは航空機が航空飛行に適している、という意味です。

ところで、こうした単語の、-worthyという接尾辞は、


〜に適している


という意味を持つものであることが、これまた辞書に乗っています。

-worthyという単語で比較的馴染みがあるのは、


trustworthy
newsworthy
blameworthy


などではないでしょうか。

これらの-worthyは、〜に値する、という意味を持つもので、今日取り上げた"unseaworthy"の-worthyとは意味が異なっていることに注目して下さい。

今回の事故で崩落した鉄橋、Francis Scott Key Bridgeはボルティモア湾にかかる長さ約2.6キロの橋ですが、Francis Scott Keyという人物はアメリカ国歌(「星条旗」)の歌詞を書いた人なんだそうです。

2024年4月23日火曜日

adaptogen

アメリカで最近流行る健康、ストレス対処法に、


adaptogen


というものがあるそうです。

"adaptogen"というのは天然のハーブなどを原料とした、いわゆるサプリメントの類いのようですが、社会的なストレスや不安を和らげる効果があるとされ、SNS等を通じて注目を集めているといいます。


Has the secret to stress-free living been here all along?

In the never-ending quest to fend off feelings of exhaustion, one craze that’s taken the wellness world by storm has ancient roots — literally. 

Yes, we’re talking about adaptogens, the herbs, roots and plants that will allegedly help our bodies manage stress and restore balance after tough situations, according to UCLA Health.
(Amy Eisinger. I’m a doctor — patients won’t stop asking about these 2 adaptogens. New York Post. April 22, 2024.)


"adaptogen"という単語はスペルからも想像がつくように、適応を意味する"adapt"に接尾辞-gen(生む、生じさせる、の意)が付いたものです。

Merriam-Webster Dictionary(オンライン版)には載っていて、


a nontoxic substance and especially a plant extract that is held to increase the body's ability to resist the damaging effects of stress and promote or restore normal physiological functioning


と定義されています。語源はロシア語(adaptatsiya)というのがまた興味深いところです。

ところで、記事によれば"adaptogen"の代表的なものとしては朝鮮人参(ginseng)などがあり、要は漢方?と思ってしまいます。

免疫力を高めたり、抗酸化作用のあるこうした植物由来の天然成分が注目されるのには古代インド、古代中国に遡る歴史やルーツに魅了される面はあるでしょう。

サプリメントと言えば、死亡例も発生して世間を騒がせた紅麹問題(こちらはハーブではなく、菌ですが)が記憶に新しいところです。

"adaptogen"も特効薬ではないと記事にはありますから、過信と過剰摂取は慎むべきでしょう。

2024年4月22日月曜日

cutthroat

ここのところ、電気自動車(EV)メーカー、テスラの業績不振が報じられています。

先週は10%の人員削減というニュースを耳にしましたが、この週末は同社の生産台数が減少に転じ、既存モデルの値下げに踏み切ったというものでした。

同社の苦戦の背景には中国EVメーカーとの熾烈な競争があります。


Tesla has canceled the long-promised inexpensive car that investors have been counting on to drive its growth into a mass-market automaker, according to three sources familiar with the matter and company messages seen by Reuters.

(中略)

The stark reversal comes as Tesla faces fierce competition globally from Chinese electric-vehicle makers flooding the market with cars priced as low as $10,000.

(中略)

The affordable-car project’s cancellation comes as Tesla and other established automakers have been rocked by slowing EV demand growth in the United States and Europe, and cut-throat competition in China.
(Exclusive: Tesla scraps low-cost car plans amid fierce Chinese EV competition. Reuters. April 6, 2024.)


引用したのはロイターの記事ですが、テスラ社内では大衆向け廉価版とも言える、低価格のEV開発プロジェクトからの撤退も囁かれているとか。

同社のEVは決して安いものではありませんが、CEOのイーロン・マスク氏はかねてより、大衆向けのEVの展開を公言していたところ、BYD社を始めとする中国EVメーカーが生産する格安のEVによる攻勢に、方向転換を余儀なくされている状況でしょうか。

記事では、


Tesla faces fierce competition globally from Chinese electric-vehicle makers


とあります。EV市場の熾烈なシェア争いということですが、後段では、


cut-throat competition in China


とも表現されています。

"cut-throat"(ハイフン無しで、cutthroatとも)、文字通りには喉を切る、という意味で穏やかではありませんが、"cut-throat competition"はしばしば食うか食われるかの無慈悲な争い、熾烈な競争という意味で用いられます。



2024年4月19日金曜日

alibi

アイダホ州で大学生ら4人が殺害された事件の容疑者の審理を報じる記事を読みました。

4人の殺人容疑で逮捕されたBryn Kohberger容疑者の弁護側は、事件発生時刻とされる2022年11月13日午前4時過ぎ、容疑者は事件現場から遠く離れた場所に居たため、事件への関与は無いと主張しているようです。

いわゆるアリバイがある、というやつです。

容疑者は深夜ドライブや早朝にかけてのハイキングを趣味にしていたといい、当日も現場から30マイル以上離れた公園にいたと主張しています。


Lawyers representing Bryan Kohberger, the suspect in the killing of four University of Idaho students, plan to call in an expert on cellphone tower data to bolster his claim of being far away from the scene of the crime when the victims were stabbed to death in November 2022, according to a court document filed by the defense.

Kohberger’s attorneys beat a Wednesday deadline with an alibi defense filing that provided details of their client’s purported whereabouts at the time of the homicides, as required by Idaho law. Kohberger, 29, is facing quadruple-murder charges.
(Jorge L Ortiz. Expert will testify on cellphone data behind Idaho killing suspect Bryan Kohberger’s alibi. USA Today. April 18, 2024.)


ということで、今日の1語は、


alibi


です。

刑事ドラマなどでもお馴染みのこの「アリバイ」は法律用語で現場不在証明と訳されたりもしますが、ラテン語です。

ラテン語の辞書にもalibiというスペルで載っています。「アリバイ」は英語の発音です(「ア」に強勢が置かれます)が、ラテン語はローマ字読みしますので、その発音は「アリビー」のようになります。

ラテン語alibiの品詞は副詞であり、他の所で(また、他の点で、他の人によって)というような意味ですが、ラテン語alius(英単語のanotherに相当)とibi(英単語のthereに相当)が組み合わさったものです。

2024年4月18日木曜日

noggin

アタマを使え!ということでしょうか。

加齢による認知機能の低下は、頭脳労働に従事する人に比べて、単純労働に従事する人でリスクが高いという研究成果が報告されました。


The more you use your noggin at work, the better your memory and brain function will be later in life, according to a study published on Wednesday in Neurology, the medical journal of the American Academy of Neurology. 

(中略)

Researchers measured people’s cognitive stimulation while doing more manual tasks such as controlling equipment or factory work and compared it to the cognitive stimulation of people working in jobs where they had to analyze information and interpret it for other people.

(中略)

The study found that people working jobs with the lowest demands had a 66% greater risk of mild cognitive impairment compared to those who worked jobs with higher cognitive demands. 
(Alexandra Klausner. Here’s the job that will help keep you sharp later in life: study. New York Post. April 17, 2024.)


身体機能は使わなければ衰えると言われますが、脳も同じということで、引用した記事の冒頭、


The more you use your noggin at work, the better your memory and brain function will be later in life


はまさにそのことを言っています。

ここで使われている、


noggin


は見慣れない単語ですが、人間のアタマ(頭)、「おつむ」を意味する口語表現であると辞書にあります。

語源不詳とされていますが、"noggin"というのはマグカップを指し、またカップの中身の液体をも意味するようになって、液量単位としての1/4パイントを指す語でもあります。

"noggin"というスペルから"nog"(eggnog)が想起されますが、アルコール飲料を指すイングランド方言の"nog"とも関連があるようです。

ですが、アタマ、「おつむ」という意味で使われるようになったのはアメリカ英語での話で、詳しい経緯は分かっていないようです。



2024年4月17日水曜日

tenor

米大学などはこれからが卒業式シーズンでしょうか、ある記事が目に留まりました。

南カリフォルニア大の卒業式で予定されていた卒業生総代によるスピーチがキャンセルされることになったという話です。


The University of Southern California said its valedictorian will no longer deliver a graduation speech this year, citing "substantial risks relating to security" over social media chatter surrounding the Israel-Hamas conflict.

The Los Angeles school revealed that Asna Tabassum, a fourth-year student from Chino Hills, California, was selected as the valedictorian and would give a speech alongside two salutatorians. In a news release Monday, the university said she would no longer speak at the ceremony after the discussion about her selection took on "an alarming tenor."
(Anthony Robledo. California valedictorian will no longer give graduation speech over 'alarming' discussion. USA Today. April 15, 2024.)


卒業生総代としてスピーチすることになっていた成績優秀の女子学生はイスラム教徒ということですが、昨年勃発したハマスとイスラエルの戦争に関連して、イスラエルを批判、パレスチナ支持を訴える投稿をSNSなどで活発に行っていることが分かり、卒業生総代としての選出に議論を呼んだようです。

大学側は学内に混乱が生じる懸念があるとして、スピーチを取り止めることにしたとあります。

さて、引用した記事に、


the discussion about her selection took on "an alarming tenor"


というくだりがありますね。

ここでの"tenor"という単語の用法は馴染みがなく、初めて見るように思います。

テナー(テノール)と言えば、声楽の用語で、男声の最も高音域を担当するパート、またその歌い手ですね。

そういう先入観があったので、ここでの"tenor"の解釈にちょっと躓いたというのが正直なところです。

英和辞典を引いてみると、"tenor"には声楽のパートを指す以外に、


進路、傾向、方向


といった意味があることが確認出来ます。

つまり上記くだりの箇所は、卒業生総代の選出にまつわる議論がどうも危ういことになっている、と言いたいようです。

イスラエルとハマスの戦争を契機にパレスチナ人を支持する立場とイスラエルを支持する立場とが対立構図となり、米国内でも世論を二分するような政治問題になっています。本来祝福されるべき卒業式というセレモニーが、また誉ある卒業生総代のスピーチの人選が、こうした対立構図に絡められてしまうことを大学側は避けたかったものと思われます。

ところで、同じような表現でよく見かけるものに、


take an unusual course
take an unexpected turn


などの言い回しがありますが、"tenor"も同じような文脈で使われると言えるでしょう。

声楽のテナーもこの"tenor"も語源はラテン語tenereという動詞で、その意味は保持する、ある方向へ舵を取る、といったものです。

手元にある英和辞典では2つの"tenor"を別々のエントリとしていますが、American Heritage DictionaryやMerriam-Websterは1つのエントリに両方の意味を載せています。

また、American Heritage Dictionaryでは"tenor"を"tremd"や"drift"、"current"などと共に、"tendency"の同義語としてあげています。

2024年4月16日火曜日

over easy

"American diner lingo"、つまりアメリカのレストランなどで使われる独特の言い回しを取り上げた記事を興味深く読みました。

記事のタイトルにもある、"Burn the British"とは、マフィンのトーストというオーダーを指すそうです。これは18世紀後半から19世紀始めにかけて、アメリカ独立戦争の際にイギリスから焼き討ちを受けたことへの反発と自国への愛国心が込められたものだといいます。


"Burn the British!" was a popular outcry from waiters to cooks in a largely forgotten uniquely American culinary vernacular. That would be diner lingo. 

"'Burn the British' meant toasted English muffins," recalled David Steinmann, who was born in Brooklyn in the 1940s and today is chairman of the Jewish Institute for the National Security of America (JINSA). 
(Kerry J Byrne. American diner lingo existed in patriotic era when 'Burn the British!' meant toasted English muffin. Fox News. April 15, 2024.)


変わって目玉焼きの話です。

海外のホテルで朝食メニューの目玉焼きを注文して、その焼き方を聞き返されたという経験はおありでしょうか?

よく知られているように、いわゆる「目玉焼き」は英語で"sunnyside"と表現します。目玉焼きでお願いします、と言うときは、


Fry eggs sunnyside up.


のように言います。

一方、両面を焼く場合は、"over easy"と言うのですが、こちらはあまり知られていないというか、小生もそうですが目玉焼きで食すことが多く、両面焼きにしないので、馴染みのない表現です。


"Every diner had the counter man and the cooks," said Steinmann, who as a boy in New York City in the 1950s ate each Saturday with his family at their local diner in the Flatbush section of Brooklyn.

"If you ordered eggs sunny-side-up, the counter man yelled out, ‘Give me a pair looking at ya.' You wanted them over easy, he'd yell, ‘Give me a pair and blind ‘em.'" 
(ibid.)


"over easy"というのは辞書にもちゃんと載っていて、「目玉焼きがほぼ焼き上ったところでひっくり返して反対側を軽く焼いた」(ランダムハウス英和辞書)もので、「黄身の表面は硬いが中身はとろっとした状態に焼き上る」(同)、と説明があります。"over"にひっくり返すという意味がありますから、"easy"はひっくり返した後は軽く(焼く)、というような意味合いかと思いますが、"sunnyside up"と"over easy"は目玉焼き注文の定番フレーズなのです。

ところで、上記の引用では、目玉焼き注文を受けたウエイターが厨房のコックに対し、"sunnyside up"は、


‘Give me a pair looking at ya'


と指示し、一方、"over easy"という注文には、


‘Give me a pair and blind ‘em.'


と指示した、とあります。

これなんかも、やはり卵の黄身を目に見立てて、"blind them"とはいささか乱暴な物言いですが、独特な表現方法だと思います。

その他、興味深い"American diner lingo"については記事をどうぞ。

2024年4月15日月曜日

hoo haa

今夏開催されるパリオリンピックを前に、スポーツアパレル大手のナイキが発表したチームUSAのユニフォームが物議を醸しています。

ナイキはパリで行われたイベントでオリンピック陸上選手向けの男女ユニフォームを発表しましたが、女子ユニフォームの「露出度」が槍玉に上がっているものです。

具体的には下半身部分なのですが、百聞は一見にしかず、かなりのハイレグとなっています。


Nike’s Team USA track and field kit for women is needlessly revealing and sexist, female athletes have said after the sportswear brand unveiled its outfits for this summer’s Olympic Games.

Images made public on Thursday of the women’s kit on a mannequin, showing a very high-cut pantyline, triggered criticism from several athletes for what they saw as a decision to prioritize skimpiness over function. “They are absolutely not made for performance,” US steeplechaser Colleen Quigley said in a message to Reuters.

(中略)

Tara Davis-Woodhall, an American who placed sixth in the long jump at the Tokyo Games and took silver at last year’s world championships, reacted with equal parts humor and horror, commenting: “Wait my hoo haa is gonna be out.”
(‘My hoo haa is gonna be out’: US Olympians slam Nike for skimpy women’s track kit. The Guardian. April 13, 2024.)


発表直後からSNSなどで批判が相次ぎ、現役の女子陸上選手からも競技パフォーマンスを向上させるものとは思えない、といったコメントが寄せられているとあります。

こんな露出度の高いユニフォームでは競技に集中出来ない、という声も。


“Wait my hoo haa is gonna be out.”


というコメントが引用されています。

"hoo haa"とは何のことかというと、女性器を指す隠語(俗語)です。スペルにはバリエーションがあるようで、


hooha
hoohah
hoo-haa
hoohar


など、ハイフンが入ったり入らなかったりするようです。

ちなみに多くの辞書では"hoo haa"を大騒ぎ、騒動("hullabaloo")の意味で載せています。

2024年4月12日金曜日

meritocracy

4月です。新年度がスタートし、昨日は近所の小学校で入学式を迎えた親子を見かけました。新しく大学生活をスタートした方も多いでしょう。

さて、アメリカの大学受験の話です。

ハーバード大は、選抜にSAT、ACTのスコア提出要件を復活させると発表し、波紋が広がっています。


Harvard College will require applicants to submit standardized test scores once again, becoming the latest Ivy League school to reinstate the requirement after making the choice optional during the pandemic.

(中略)

Dartmouth College, Yale and Brown universities announced similar changes in recent weeks, after officials cited data suggesting that SAT and ACT scores were the best predictors of students’ academic performance at their schools — and that making the tests optional could further disadvantage applicants from more challenging backgrounds.
(Susan Svrluga. Harvard will require test scores for admission again. The Washington Post. April 11, 2024.)


SAT、ACTは日本で言う共通テストのような位置付けのもので、基礎学力を測るものとされています。パンデミック時にこれらのテストは任意受験となったのですが、経済状況が困難な家庭にある受験生に配慮した措置という背景がありました。というのは、恵まれた家計の学生はこれらのテストを複数回受験し、ベストなスコアを提出するというのが常態化していて、不公平だとの指摘があったからです。

今回それを復活させたのは、これら基礎学力を測るテストが入学後の学生のパフォーマンスの良し悪しと相関関係があるという分析に基づくとあります。複数回受験の不公平を差っ引いたとしても、ということだと思われます。


“Critics correctly note that standardized tests are not an unbiased measure of students’ qualifications, as students from higher-income families often have greater access to test prep and other resources,” Chetty said in a statement Thursday. “But the data reveal that other measures — recommendation letters, extracurriculars, essays — are even more prone to such biases. Considering standardized test scores is likely to make the admissions process at Harvard more meritocratic while increasing socioeconomic diversity.”
(ibid.)


やはり、基礎学力が大事という回帰には他の有名大学も追随している模様ですが、経済格差による不平等を勘案しながらも、入学選抜プロセスを、


meritocratic


なものにする、というのが今回の結論ということのようです。

"meritocracy"というのは、実力主義という意味です。

"democracy"、"aristocracy"、"theocracy"、"plutocracy"、等、〜cracyという接尾辞を持つ単語はご存知でしょう。この接尾辞はパワー、権力を意味するギリシャ語kratosするから来ています。

"meritocracy"のmerito-は長所、手柄、勲功、賞罰を意味するmeritから来ており、つまり能力、実力が支配する(世界)という意味です。

2024年4月11日木曜日

shuffle

訪米中の岸田首相は現地時間10日、ホワイトハウスでバイデン大統領と会談、共同声明を発表しました。

これに先立つこと、ホワイトハウスはSouth Lawnと呼ばれる南側芝生にて岸田、バイデン両氏は観閲式セレモニーに参加したのですが、その際見られたバイデン氏の様子が注目されています。

その「様子」というのは、かねてより懸念されているバイデン氏の高齢を如実に示す挙動ということに他なりません。


President Biden raised eyebrows Wednesday morning, when he appeared disoriented while welcoming Japanese Prime Minister Fumio Kishida to the White House for a state visit.

Biden, 81, and Kishida, 66, greeted one another before shaking the hands of members of both the US and Japanese delegations on the South Lawn.

(中略)

Biden seemed to gaze around with a blank look on his face before putting on his signature aviator sunglasses and marching across the lawn.

During the review, the president’s gait was noticeably stiff and his steps appeared tentative and uncertain.
(Ryan King . Biden mocked for shuffling around White House lawn with dazed look during Japanese PM ceremony. New York Post. April 10, 2024.)


記事のタイトルには、


Biden mocked for shuffling around White House lawn with dazed look


とあるのですが、"shuffle (around)"という動詞を取り上げたいと思います。

カタカナで「シャッフル(する)」と言いますけれども、その意味は、順番をばらばらにして混ぜる、ランダム化する、というものではないでしょうか?

ここではその意味では解釈できず、つまりカタカナの「シャッフル」が邪魔するのですが、辞書で"shuffle"を引くと最初に出てくる意味は、


To move with short sliding steps, without or barely lifting the feet
(American Heritage Dictionary)


であり、足を引き摺る(引き摺って歩く)、という意味です。また、不器用な、ぎこちない動きをする、という意味でもあります。

記事に引用されているビデオクリップを見ましたが、岸田首相と並んで芝生を歩くバイデン氏の動きは非常にぎこちなく、老人、かなり耄碌したお年寄りのそれという印象を強く受けます。

史上最高齢の大統領の再選は如何に。

2024年4月10日水曜日

fava beans

岸田首相が米国を訪問中です。

今回の公式訪問は国賓待遇だそうですが、安倍前首相の前回訪問(2015年4月)以来、9年振りとのことです。

岸田首相と裕子夫人は昨晩(米国時間)はワシントンD.C.のレストランでの夕食会に招待されたようですが、今晩(米国時間10日夜)はホワイトハウスにて公式晩餐会(state dinner)が催されるそうです。

ガーディアン紙が公式晩餐会の内容について詳報しています。


Dry-aged rib eye steak, cherry blossoms and the music of Paul Simon will be provided for the more than 200 guests expected to attend a White House state dinner being thrown for Japan’s prime minister, Fumio Kishida, his wife, Yuko.

A lavish state dinner is a tool of US diplomacy, and a high honour that is used sparingly and only to America’s closest allies. In the case of Japan, President Joe Biden has chosen to celebrate an ally that he sees as a cornerstone of his policy toward the Indo-Pacific region.

(中略)

The guests will dine on a first course of house-cured salmon and an entree of dry-aged rib eye steak with pepper butter, fava beans, mushrooms and onions. Dessert is salted caramel pistachio cake with a matcha ganache and cherry ice-cream.
(Cherry blossoms, steak and Paul Simon: the Bidens put on a show for Japan’s PM. The Guardian. April 10, 2024.)

岸田首相夫妻と200名以上の招待客に振舞われるディナーメニューのメインはやはりステーキのようです。

ステーキの添え物に、


with pepper butter, fava beans, mushrooms and onions


とあります。"fava beans"というのはソラマメのことです。("broad beans"とも言います。)

面白いのですが、"fava"というのはイタリア語で、そのイタリア語はラテン語fabaから来ているのですが、ラテン語fabaの意味は豆です。

なので、"fava beans"は「豆豆」ということになります(笑)

お偉いさんの豪奢な食事内容など庶民の私には関係ないのですが・・・。


2024年4月9日火曜日

shitstorm

民間機が機内の緊急トラブルにより、急遽行先変更、予定外の空港に緊急着陸というニュースです。

ヒューストン発シアトル行きのユナイテッド航空便は、機内でイヌがウ◯チをしてしまったため、急遽テキサス州のダラス・フォートワース空港に着陸、機内清掃が行われた、とあります。


A United Airlines flight bound for Seattle had to divert to Dallas on Friday because of a literal s–tstorm.

A Redditor blamed dog poop for the diversion of his flight from Houston, attaching a stinky photo to his messy missive on the social media platform. United Airlines later confirmed the incident to Business Insider.

“Dog had messy accident in the aisle right in first class. Plane diverted to DFW. Ground crew spent over 2 hours cleaning carpets with paper towels,” the Redditor recalled in a Sunday post.
(Alexandra Klausner. Flight diverted after dog poops on board: ‘Smell never quite went away’. New York Post. April 8, 2024.)


機内にイヌ?(しかも、ファーストクラス)と訝りますが、米国内便では普通のようで、また介助犬だったようです。

さて、イヌの糞で緊急着陸とは珍事ですが、機内カーペットにしてしまった粗相の臭いは如何ともし難いもにだったらしく、記事冒頭、


a literal s–tstorm


とあり、伏せ字の単語が使われています。

この単語を知りませんでしたが。伏せ字であっても想像がつくところですが、


shitstorm


という表現があり、その意味は、


A situation that is extremely confused, disorganized, or unpleasant.
(American Heritage Dictionary)


というものです。

ちなみに、手元にある英和辞書に"shitstorm"のエントリは見つけられませんでした。


2024年4月8日月曜日

cold hard cash

イースターの平和な日曜日に、ロサンゼルスのセキュリティ会社の金庫から3,000万ドルという巨額のお金が盗まれるという事件が発生しました。

犯人らは厳重なセキュリティをかいくぐり、警報を作動させることすらなく巨額の現金を持ち去ったとみられ、映画「オーシャンズイレブン」を地で行くような話だと各メディアで報じられています。


The wild $30 million cash heist from a Los Angeles warehouse Easter Sunday was apparently pulled off by a top-notch group of criminals – and so clean that it could go unsolved, an expert says.

(中略)

The polished criminals snuck into the site through its roof and accessed a safe without setting off any alarms, authorities said.

They made off with $30 million in cold hard cash — which would have weighed 660 pounds in $100 bills, Selby said.
(Olivia Land. Here’s why the $30 million Los Angeles heist on Easter Sunday could go unsolved. New York Post. April 7, 2024.)


今回の事件は銀行強盗ではありませんが、現金の強奪や盗みというのは現代では割に合わない犯罪と言われます。それは捕まる確率が高いということもありますが、振り込め詐欺やオンライン詐欺、仮想通貨の詐欺など、現金を扱わない犯罪の方が効率が良く、またリスクも少ないと考えられています。

今回は100ドル紙幣にして660ポンド(約300キロ)という現金を物理的に盗み、持ち去ったということですから、話題になるのも当然でしょうか。

記事では、


cold hard cash


という表現が使われています。これはアメリカ英語の俗語表現で、現金という意味です。

"cold cash"、また"hard cash"とも言います。

キャッシュ自体、現金という意味ですが、何故、"cold"、あるいは"hard"なのでしょう?

"cash"には小切手や手形による支払いも含むところ、"cold"、あるいは"hard"は物理的なお金そのもの、つまり紙幣、硬貨、すなわちすぐに使える(換金や手続きの必要が無いもの)に特定するという意味があるようです。


2024年4月5日金曜日

harebrained

米国における2024年最大のトピックは11月に行われる予定の大統領選挙ですが、トランプ対バイデンという構図がほぼ確実視される中、諸外国の反応も喧しくなってきました。

日本では「もしトラ」などと言われていますが、トランプ氏が再び大統領になることがあったらどんな(困った)ことになるかというような想定が飛び交っています。

ところで、ポリティコ紙は最近のニュースレターで、中国はバイデン氏続投よりもトランプ氏の返り咲きを望んでいるとの分析を載せたそうなのですが、かつて中国に対して厳しい姿勢で対峙してきたトランプ氏を敢えて望むというのはやや直感に反する分析のように思われますね。

トランプ陣営はポリティコ紙の報道を、"false reporting"と批判し、さらに、


harebrained assertion


であるとこき下ろしたということです。


The Trump campaign issued a blistering response to Politico's "false reporting" that China would prefer former President Trump back in the White House come November and is even aiding those efforts. 

"In Politico’s Nightly newsletter, Catherine Kim makes a harebrained assertion that China would prefer President Trump to return to the White House," Trump campaign communications director Steven Cheung said in a statement released Wednesday evening. 
(Emma Colton. Trump campaign rips Politico for 'harebrained assertion' that China prefers him over Biden. Fox News. April 4, 2024.)


ということで、今日の1語は"harebrained"なんですが、辞書には、


移り気な、気まぐれな、うわついた、軽はずみの(flighty, reckless);馬鹿な(foolish)
(研究社新英和大辞典)


とあります。

ポリティコ紙の記事を読んでいませんが、上記引用の記事を読む限り、中国がバイデン氏よりもトランプ氏を望んでいるというのはあり得そうにないと思われるところ、仮にトランプ政権が誕生した場合に中国の有利に働く可能性(つまりこれが中国にとっての「もしトラ」という訳ですが)について触れ、ひいてはそれが米国の不利益につながる、という巧みな論理展開をしているのかも知れません。もしかして、印象操作?

トランプ陣営がこのような「印象操作」を批判して、そのような言説を展開する専門家を"harebrained"とこき下ろしている、という文脈かと。

ところで、"harebrained"という単語について、そのまま読むと、"hare"(ウサギ)の脳、ということで、ウサギが賢いのかそうでないのかよく知りませんけれども(以前取り上げた"birdbrain(ed)"もご覧下さい)、臆病だとは聞いたことがあり、"harebrained"の意味もそのようなウサギの性格から来ているという解説があります。

一方、American Heritage Dictionaryの解説では、"harebrained"は元、


hairbrained


だと言っています。つまり、"hair"(髪の毛)ということですが、これは"hair"が"hare"を意味する異綴りであったことによるらしいのですが、"hairbrained"というスペルから、ウサギの脳みそ、ではなく、髪の毛ほどの脳みそ、というのがこの語の成り立ちであると考える人もあり、「ウサギの脳みそ」なのか、「髪の毛ほどの脳みそ」なのか、分からなくなっているということです。

多くの辞書で"hairbrained"のエントリもありますが、"harebrained"を参照せよという記載になっています。

2024年4月4日木曜日

gin up

先月ミシガン州で起きた25歳女性の殺害事件で逮捕された容疑者はメキシコからの不法入国者であったと報じられていますが、トランプ元大統領はこの事件を取り上げて、バイデン政権下の国境警備、移民政策への批判を展開しています。

トランプ氏はミシガン州での演説において、事件を取り上げて被害者への追悼と共に政権批判を展開したようです。トランプ氏は演説の中で被害者家族に面会したと言及したそうですが、遺族は面会の事実は無いと指摘し、トランプ氏は嘘つきだと批判しています。


Donald Trump stood before a crowd of supporters in Michigan this week and claimed he had spoken to family members of 25-year-old Ruby Garcia, who was killed last month:

(中略)

The boyfriend charged in Garcia’s death is originally from Mexico and was in the country illegally. That created a perfect scenario for Trump, a chance to again label immigrants as violent, a chance to again dehumanize them and call them “animals.”

(中略)

But according to Garcia’s family, Trump was lying.

(中略)

“He did not speak with any of us, so it was kind of shocking seeing that he had said that he had spoke with us, and misinforming people on live TV,” Garcia’s sister, Mavi Garcia, told the Grand Rapids ABC affiliate.

Trump leveraged Garcia’s tragic death to gin up fear about the southern border. And he lied about speaking with the grieving family so he could appear to give a damn. 
(Rex Huppke. Grieving Michigan family says Trump lied about their daughter. Of course he did. USA Today. April 3, 2024.)


トランプ氏の欺瞞を取り上げた引用記事は、今回の事件は、現政権を批判するトランプ氏にとって格好の材料であったという見方ができるという見方をしています。つまり、移民、イコール危険極まりない不法入国者というレッテル貼り、その不法入国を許しているバイデン大統領への批判にこの上なく都合の良い事件が起こったという訳です。

引用した部分の最後の方に、


Trump leveraged Garcia’s tragic death to gin up fear about the southern border.


というくだりがあります。

ここで使われている、


gin up


という動詞の表現を初めて見ました。

お酒のジン(gin)は好きですが、ここでの"gin"はまた別の意味の単語です。

ここで"gin up"の意味するところは、人々の感情を焚き付ける、といったような意味合いです。

American Heritage Dictionaryを引いてみると、


To create or produce; work up
To create or produce under false pretenses
To increase or make more active


といった定義がされています。

お酒のジンとは別の単語であると上に書きましたが、"gin up"という動詞句の元になっている"gin"という名詞は、綿繰り機とか狩猟のわなという意味があります。

綿繰り機というのは私も見たことがありませんが、綿の繊維と種子を分離するために使われる機械のことで、英語では"cotton gin"と呼ばれます。

そう、"gin"は"engine"(機械)から来ているのです。(つまり、頭音消失形です。)

上記の定義に見える"produce"などの意味合いも"engine"からの連想であろと思われます。

尤も、単に作り出すというのではなく、その動機が如何わしいという含意があります。

2024年4月3日水曜日

anthem

先日、といっても3月の話ですが、豚児の高校卒業式に出席しました。コロナ禍に翻弄された3年間、入学式を始め、学校行事なるものにはほとんど参加することは叶わず、卒業式が子の通う校舎を訪れるほとんど唯一最後の機会となったのでした。

さて、開式にあたり、参加者全員起立、国歌斉唱。日本人として当たり前ですが、かつては君が代の斉唱をしない、起立しないという問題が取り上げられたものです。

同じような話はアメリカでもあるものだと思いました。

引用する記事は学生バスケットボール部の試合に際し、試合開始前の国歌演奏の場を無視してその場に居合わせなかったということで、ルイジアナ州立大学のチームの不遜が取り沙汰されているものです。

州知事の怒りを買ったようです。


Louisiana’s top executive joined the conversation on LSU’s national anthem controversy — and he has an idea that could potentially punish players if something similar happens again.

After coach Kim Mulkey’s team was noticeably absent from the playing of the national anthem before the Tigers’ Elite Eight loss to Caitlin Clark and Iowa in Albany on Monday night, Louisiana Gov. Jeff Landry pushed for a move that would punish student-athletes for missing “The Star-Spangled Banner.”

Iowa, however, was on the court, holding hands as the anthem was performed at MVP Arena.
(Andrew Battifarano. Gov. Jeff Landry wants athletes to lose scholarships for avoiding national anthem after LSU controversy. New York Post. April 2, 2024.)


我々日本人の間でもよく知られているように、米国の国歌は星条旗(The Star-Spangled Banner)です。

国歌を、


national anthem


というのも、英語を学ぶ者には基本的な知識であろうと思います。

ところで、"anthem"という単語の語源には興味深いヒストリーがあるのをご存知でしょうか?

そのスペルに着目してみましょう。

"anthem"という語のan-はanti-(アンチ)から来ていると言ったら意外に思われるでしょう。

"anthem"は後期ラテン語antefana、更にギリシャ語antiphonaに遡ると辞書の語源解説にあります。

ギリシャ語antiphonaに接頭辞anti-を見て取れる訳ですが、このギリシャ語の意味するところは合唱音楽における応答歌、交唱と呼ばれるもので、これは賛美歌や聖歌において、2組の歌い手が交互に歌うスタイルの楽曲を指したものです。

ギリシャ語antiphonaはほぼそのままのスペルで、"antiphon"という英単語になり、残っていますが、"anthem"はスペルを変えながらまた別の単語として派生したということなのです。(いわゆる、二重語と呼ばれるものです。)

従って、"anthem"も元々は宗教行事などにおける聖歌を指していましたが、その意味は賞賛や愛国などを内容とした賛歌や頌歌というものに拡張され、さらに国歌(national anthem)ともなった、ということなのです。

2024年4月2日火曜日

Knesset

イスラエルのネタニヤフ首相は、アラビア語テレビ放送局アルジャジーラの同国内における放送を禁止すると発表しました。

以下に引用する記事で、


Knesset


という単語が出てきますが、これはイスラエル国会を指す語です。英和辞典にも載っていますが、ヘブライ語knesetから来ています。


Israeli Prime Minister Benjamin Netanyahu announced Monday that Qatar-based news station Al Jazeera would no longer be allowed to broadcast from Israel due to a measure shutting down media outlets deemed a "security risk."

"Al Jazeera has harmed Israel's security, actively participated in the October 7 massacre, and incited against IDF soldiers. It's time to remove Hamas' mouthpiece from our country," he wrote on X.

Israeli lawmakers in the Knesset passed a measure Monday to grant Netanyahu and the communications minister authority to temporarily shut down foreign media outlets and confiscate their equipment if they are deemed a "security risk" to Israel. 
(Kristine Parks. Netanyahu announces Al Jazeera will no longer be allowed to broadcast from Israel. Fox News. April 1, 2024.)


ヘブライ語knesetは議会(assembly, gathering)を指す言葉だそうです。

イスラエル国会では、アルジャジーラがハマス寄りであり、イスラエル国家に危険をもたらしているとして、賛成多数で放送許可を取り消す議案を可決したそうです。

2024年4月1日月曜日

verboten

記事の引用からどうぞ。


Some White House reporters have apparently been swiping everything from pillowcases to plates and glasses from Air Force One to keep as souvenirs, prompting their professional organization to warn them to knock it off.

In an off-the-record email sent to members of the White House Correspondents’ Association last month, the elite journalists were scolded for pilfering a variety of items emblazoned with the logo of President Biden’s official aircraft.

The association, headed up by NBC News Senior White House Correspondent and veteran journo Kelly O’Donnell, warned the scribes that removing such items from the presidential jet was verboten and reflected poorly on the press pool as a whole, the BBC said.
(Chris Nesi. Sticky-fingered White House reporters warned to stop pocketing items from Air Force One. New York Post.March 31, 2024.)


ドイツ語をかじったことのある方ならばお気づきだと思いますが、後段に出てくる、


removing such items from the presidential jet was verboten 


というくだりの"verboten"という単語はドイツ語です。

ドイツ語の動詞verbieten(禁止する、の意)の過去分詞形が"verboten"で、「禁じられた」という意味です。

このドイツ語がそのまま英語に入ってきたもののようですが、辞書によれば初出は1915年頃とあり、比較的新しいようです。

英語には同じ意味を持つ動詞に"forbid"がありますが、この単語自体ゲルマン語系であり、"verboten"とは同族です。

英語に入った"verboten"は形容詞として、また「(法律等における)禁止事項」という名詞として用いられます。